IASR 45(12), 2024【特集】サポウイルス
公開日:2024年12月20日
(IASR Vol. 45 p205-206: 2024年12月号)
疾患の概要
サポウイルスは、ノロウイルスと同じカリシウイルス科に属するノンエンベロープのRNAウイルスである。サポウイルスはノロウイルス同様、下痢や嘔吐を主訴とする急性胃腸炎を引き起こし、糞便中に大量のウイルスが排泄される。なお、ワクチンや特異的な治療法はない。罹患者は年齢にかかわらず発症し、症状だけではノロウイルス感染症と区別することはできない(本号3ページ)。再感染事例や不顕性感染者もみつかっている。実用的な抗原検出キットが開発されていないため、サポウイルスのスクリーニングは核酸検出系による検査で行われている(本号4、5&9、10、12、13、15、16ページ)。
疫学、病原体情報(集団発生事例、食中毒事例、遺伝子型、流行株)
サポウイルスは、感染症法における5類定点把握対象疾患である感染性胃腸炎の原因病原体の1つであるが、サポウイルスによる感染性胃腸炎のみを示す発生動向(患者情報)は日本にはない。地方衛生研究所(地衛研)が感染症発生動向調査の病原体定点(小児科定点のうちの約10%)で感染性胃腸炎患者から採取された便材料や集団発生例の調査などで採取された検体の病原体検査を行い、感染症サーベイランスシステムの病原体検出情報サブシステムへの報告を行っている(病原体サーベイランス)。図1は病原体検出情報サブシステムに報告されたサポウイルス検出数に基づいて作成されている。サポウイルスは夏季に検出数が少なくなるものの通年検出されている(本号9ページ)。2022年は、病原体検出情報サブシステムでの集計開始以来、最も多くのサポウイルスが報告された2013年に次ぐ報告数であった(図1)。ヒト-ヒトおよび食品媒介性と考えられるサポウイルス集団発生事例(推定伝播経路別ノロウィルス感染集団発生の月例推移、2010/11~2023/24シーズン)が、保育所、幼稚園、小学校や(本号5&12、13、15、16ページ)、福祉養護施設、老人ホーム、病院、ホテル、家庭等で発生しており、飲食店、宴会場での集団食中毒事例の報告もある(サポウイルス感染集団発生の推定伝播経路別、原因施設・摂取場所の割合、2012/13~2023/24シーズン(PDF:456 KB))。サポウイルスの集団事例の発生場所、推定伝播経路(ヒト-ヒト伝播の疑い、食品媒介の疑い)はノロウイルスと同様である。
サポウイルスは、ウイルス粒子を形成する主要構造蛋白質VP1の配列により、少なくとも19のgenogroup (G)1-19に分けられる。ヒトからはG1、G2、G4、G5が検出され、これらはさらに少なくとも18の遺伝子型(G1は7つ、G2は8つ、G4は1つ、G5は2つ)に分類される。検出されたサポウイルスの遺伝子型の決定は任意の参照株を含めた系統樹の作成(本号4&13ページ)か、オンラインタイピングツール〔Human Calicivirus Typing Tool(https://calicivirustypingtool.cdc.gov/(外部サイトにリンクします))もしくはNorovirus Typing Tool Version 2.0 (https://www.rivm.nl/mpf/typingtool/norovirus/(外部サイトにリンクします))〕で行うことができる。G1.1をはじめとして多様な遺伝子型が検出されているが(本号4、5&9、10、12、13、15、16ページ)、現在の病原体検出情報サブシステムではgenogroupのみが集計されている。
病原体検出情報サブシステムでG1、G2、G4、G5すべての集計が始まった2006年以降、G1もしくはG2の報告が多い(図2)。ただし、2007年にはgenogroup分類できたサポウイルスの90%以上をG4が占めた(図2および本号9ページ)。このように年によってgenogroupの流行パターンが変化する点は、常にG2が感染性胃腸炎患者便からの検出株の主流を占めるノロウイルスにはない特徴である。
サポウイルスは乳幼児から高齢者まで全年齢から検出されているが(本号3ページ)、病原体検出情報サブシステムへ報告されたサポウイルスはG4を除き、15歳以下の年齢からの検出が95%程度もしくはそれ以上となっている(図3)。
海外の状況
サポウイルスは海外でも検出されている。検出国・地域による検出株の明確な差は見出されていない。国内でG4が主流を占めた2007年には、北米(米国、カナダ)でもG4が多く報告された。
現在の課題
感染性胃腸炎の病原因子調査は、現状ノロウイルスの検索が優先されている。サポウイルスによる食中毒事例も報告があるものの(本号7ページ、https://www.niph.go.jp/h-crisis/archives/136699/(外部サイトにリンクします)、サポウイルス感染集団発生の推定伝播経路別、原因施設・摂取場所の割合、2012/13~2023/24シーズン(PDF:456 KB))、厚生労働省食中毒統計にはサポウイルスはほとんど現れてこない(本号7ページ)。複数の感染性胃腸炎原因ウイルスの同時検索により、サポウイルスとノロウイルスなどの混合感染事例もみつかっている(本号4、5、9、12&16ページ)。また病原体検出マニュアル(病原体検出マニュアル「サポウイルス」)に記載のサポウイルスgenogroup特異的RT-PCRを用いることで、同一事例や同一検体から異なるgenogroupのサポウイルスが検出される例も報告されている(本号5&16ページ)。病原体定点医療機関等より感染性胃腸炎と診断された症例から検出された病原体は、ノロウイルスの報告数が多いが、一部の地衛研では1~2シーズンごとにサポウイルスがノロウイルスと同等以上に報告されている(本号10ページ、IASR 44: 62-64、2023)。ノロウイルスに加えて、サポウイルスの検索を同時に行っていくことでサポウイルス感染症の実態把握につながる。
新たな展開
ヒト十二指腸由来の細胞株を用いた効率的なヒトサポウイルス増殖系が確立され、現在までに15遺伝子型(G1.1-7、G2.1-5、-8、G5.1-2)のウイルス株が分離された(本号17ページ)。分離ウイルスを用いた不活化や浄水過程におけるウイルス除去条件の評価に向けた検討も始まっている。
終わりに
本号では感染性胃腸炎の主要な原因ウイルスとして近年、注目度があがってきたサポウイルスについて、その歴史的経緯(本号3ページ)と、病原体検出情報サブシステムでの集計結果(図1および図2&3)、そして、地衛研における小児科定点、集団事例からのサポウイルスの解析手法と検出結果の現状(本号4、5、7および9、10、12、13、15、16、17ページ)についてまとめた。今回の特集号の作成にあたり、症状、患者年齢、検出時期、集団事例の発生場所、伝播経路がノロウイルスと明確に区別できないサポウイルスは、ノロウイルスの検出に重点を置く従来のサーベイランス体制では、同時検出対象になっていない場合に見落とされてきた可能性があること(本号5ページ)、地衛研において遺伝子型別を行っても病原体検出情報サブシステムで集計する体制になっていないこと、食中毒統計では「その他ウイルス」として集計されることなど、サポウイルスの検出や集計がされにくい背景も露わになった(本号7ページ)。
サポウイルス感染症の実態把握には、ノロウイルスとサポウイルスの同時検索の実施とともに、検出結果の集計体制および情報の入手性の改善、整備が必要である。