千葉市におけるサポウイルス検出状況(2019~2023年)
(IASR Vol. 45 p217-218: 2024年12月号)
2019年1月~2023年12月までの5年間に、本市で発生したヒト-ヒト伝播(疑い)による感染性胃腸炎の集団発生は99事例であり、原因究明のために、保健所から当所に搬入された糞便435検体(事例ごとに発症者3-5名)についてウイルス検索を実施した結果、サポウイルス(SaV)が28事例で検出されたのでその概要について報告する。SaVについてはreal-time RT-PCR法1)により遺伝子の検出を行った。さらに、SaVが検出された検体のうち各事例1-2検体について、1245 Rfwd/SV-R2プライマー2,3)によるPCR産物(約430bp)を用いダイレクトシーケンス法により塩基配列を決定し、近隣接合法による系統樹解析を実施した。
99事例のうちウイルスが検出されたものは97事例で、SaVは28事例、85検体から検出され(表)、その他ノロウイルスが82事例、アストロウイルスが3事例およびロタウイルスが1事例から検出された(重複感染含む)。
SaVによる集団発生事例は、2019~2021年までの3年間では、2019年7月に認められた1事例のみであったのに対し、2022~2023年にかけては27事例と多発していた。特に2022年の5月には11事例が認められた。このことは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の流行によってヒト-ヒト伝播の機会が減少し、胃腸炎ウイルス感受性者が蓄積したこと、さらにSARS-CoV-2の流行抑制に係る行動規制が緩和されたことにより、感受性者間で流行が拡がった可能性が考えられた。また、感染性胃腸炎の集団発生事例のほとんどが保育所で発生していたことは、感染性胃腸炎の流行が乳幼児に多く認められるSaVの特徴に合致していた。
本市におけるSaVによる感染性胃腸炎は3、5、12月に検出数が多かったことから、主に冬季~春季にかけて発生していたことが明らかとなった。SaVの系統樹解析の結果、市内におけるSaVの感染性胃腸炎はG1.1が優位な遺伝子型であったが、2022年1月および12月、2023年1月および7月にはG2.3が流行するなど、時期によって優位となる遺伝子型が異なっていたことが示唆された(図)。また、市内の流行状況と全国の流行状況を比較すると、ほぼ同様の傾向を示していた4)。2023年12月に、5年間を通じ初めて市内で遺伝子型GV.1の株が検出され、2003年に石川県で検出された株と同一クラスターに分類された(図)。さらに、G5.1株の塩基配列についてBLAST検索を行い、既知のSaVとの相同性を比較したところ、2018年に日本で検出された株であるLC787639と最も高い相同性(100%)を示した。このことから、国内で流行していた株が2023年12月頃、市内に流入、流行した可能性が示された。
SaVの遺伝子解析を行った結果、市内のSaVによる感染性胃腸炎の発生動向が明らかとなった。今後も遺伝子解析を継続し、市内のSaV遺伝子型の流行状況を包括的に把握することにより、集団発生事例の原因究明および感染拡大の防止に寄与できるものと考えられた。
謝辞:本稿を執筆するにあたり、疫学調査資料の提供をいただいた千葉市保健所感染症対策課の方々に深謝いたします。
参考文献
- Oka T, et al., J Med Virol 78: 1347-1353, 2006
- Kitajima M, et al., Appl Environ Microbiol 76: 2461-2467, 2010
- Okada M, et al., Arch Virol 147: 1445-1451, 2002
- 国立感染症研究所, IASR 月別サポウイルス遺伝子群別検出報告数, 2015/16-2023/24シーズン(2024年10月8日アクセス)
千葉市環境保健研究所
瀬野智史 清水幸恵 神谷美里 水村綾乃 近藤 文
荒井健二 田中俊光 前嶋 寿