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世界に認知されたサポウイルス―発見と命名への日本の貢献

(IASR Vol. 45 p207-208: 2024年12月号

サポウイルス(Sapovirus: SaV)はその発見から長い間、主に5歳未満の小児に急性胃腸炎を引き起こすと考えられてきた1,2)。しかし、RT-PCR法によるSaV遺伝子の検出法が普及するにつれて、その遺伝的多様性が明らかになるとともに、学童や成人における感染や食中毒との関連など、臨床的にも新知見が得られつつある3,4)

本稿では、SaV発見当初の経緯と、なぜサポウイルスと命名されたのか、その歴史的背景について解説したい。ノロウイルス(Norovirus: NoV)もSaVと同じcalicivirus科に属し、ヒトに急性胃腸炎を引き起こすが、歴史的にヒトcalicivirusという表記は、現在のSaVとほぼ同義である。

サポウイルス研究と命名に関する歴史的経緯

SaVの発見と研究の歴史については、札幌医科大学名誉教授であった故・千葉峻三先生の論文1,5)に詳しく記載されており、そのまとめを表1(文献5より引用)に示す。札幌医科大学小児科は1979~1997年までの約20年間に、サッポロウイルスの発見から、抗原的・遺伝的多様性の認識までかかわってきた。論文内と表には、SaVのプロトタイプであるサッポロウイルス(Sapporo virus: SV)と表記されている。

Calicivirusに特徴的な表面構造を持つウイルスがヒトから初めて検出されたのは、1976年、英国においてである(表1)。多数の乳幼児の糞便検体を対象に、電子顕微鏡(EM)法によってウイルスのスクリーニングを行ったところ、10人の乳幼児(8人が生後2か月児)の糞便から“ダビデの星”と形容される、動物calicivirusに特徴的な表面構造を持つウイルス粒子が確認された。軟便もしくは下痢といった軽症の胃腸炎症状を呈する者もいたが、必ずしも胃腸炎症状とウイルス検出がパラレルではなく、この時点では胃腸炎ウイルスかどうかは不明であった。また、それらの株の抗原解析や遺伝子解析はなされていない。

その後、ノルウェー、カナダ、英国、日本の急性胃腸炎散発例、入院例や集団発生例から同様なウイルス粒子の検出が報告された3)。Chibaらは、1977年に札幌市の乳児院においてみられたヒトcalicivirus(現在のサッポロウイルス)による急性胃腸炎集団発生を解析し、1979年に報告している(表1)。引き続き行われた様々な研究によってヒトcalicivirus(現在のSaV)は胃腸炎ウイルスの1つとして確立された3,6)。しかし、試験管内培養法が確立できなかったため、本ウイルスの入手は容易ではなく、1980~1990年代までの研究は主に日本の札幌医科大学と英国、一部米国に限られていた1-3)。1977~1982年にかけて、札幌市の乳児院において4回のヒトcalicivirus胃腸炎の集団発生がみられ、札幌医科大学ではそれら抗原性が同じ一連のウイルス(SaVのプロトタイプSaV/G1.1/Sapporo/1982/JP)を材料とすることで、以下に述べるように多くの研究を行うことができた。

まず、EM法、免疫EM法を使用した札幌医科大学の初期研究で得られた知見は、後に食中毒と関連する遺伝子型が判明したものの、多くが現在でも通用する基本的なものであった(表2、文献5より引用)(表1、Chiba S、et al.、1979)7,8)。英国のCubittらも抗原性の違い、臨床徴候、不顕性感染の存在、高齢者施設での感染等の報告を行っていた3)。その後、Chibaらは豊富な糞便材料を用いることで、このウイルス粒子は62kDaのsingle capsid proteinを持つというcalicivirusの特徴を確認した(表1)。また、radioimmunoassay (表1)やenzyme immuoassayの開発により、多くの疫学的および免疫学的研究を行い、主に5歳未満の小児にみられる世界的に普遍的な感染症であることを示した2)

1990年のNorwalk virus遺伝子クローニングの成功を契機にcalicivirusの分子生物学的解析が始まり、1995年、英国で初めてSaV全遺伝子クローニングが行われた(表1)。しかし、そのウイルスは散発例からの検出で、そのウイルスに関する包括的なデータは示されていない。札幌医科大学も米国ベイラー医科大学との共同研究で、1995年にプロトタイプSaVの部分的遺伝子解析を発表し、1997年にはcapsid proteinの発現とvirus like particle(VLP)の作製を行い、さらに、SaVの抗原的・遺伝的多様性を確認した(表1)。

このように、1970年代後半から、SaVのプロトタイプであるサッポロウイルスに関して、臨床的、ウイルス学的、疫学的、分子生物学的研究を札幌医科大学小児科において継続し、1つのウイルスに関して包括的なデータをまとめたことが評価され、Caliciviridae Study Group 1997の10名の専門家の投票により、1999年の国際ウイルス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses: ICTV)で種名にSapporo virusの名前が付けられた。その後、属名はそれぞれのウイルス種が想起される4文字で統一するということになり、2002年のICTVでSapovirusと命名された3,6)。現在、SaVのウイルス種名はSapovirus sapporoenseに変更となっているが、sapporoの名称は残っている。

サポウイルス感染症の診断法、治療、予防

臨床スペクトラムは、不顕性感染から下痢、嘔吐、発熱の3主徴を示すものまで多彩で、臨床的に他のウイルスとの鑑別は困難である。外来で実施できる抗原迅速診断キットの開発が望まれるが、すべてのgenogroupを検出できるものはない。2000年以降、RT-PCR法による診断・解析が世界的に導入されている3)

大部分は軽症に経過し、入院が必要なものは少ないと考えられてきた3,9)。しかし、RT-PCR法による解析が世界的に導入されると、入院例や重症例の報告、学童・成人での感染、食中毒事例が増加し、SaV胃腸炎の重要性が認識されつつある3,4,10)

現時点では、抗ウイルス剤といった特異的な治療法やワクチンはない。oral rehydration solution(ORS)による経口輸液、中等症以上では経静脈輸液などの対症療法と食事療法を行うことで、ほとんどの症例が自然軽快する。感染は糞便を介した接触感染によるので、十分な手洗いとマスク着用を行う。汚染されたものや場所の消毒などは、NoVの感染対策に準拠する。

参考文献

  1. Chiba S, et al., J Infect Dis 181: S303-S308, 2000
  2. Nakata S, et al., Arch Virol 12: 263-270, 1996
  3. Oka T, et al., Clin Microbiol Rev 28: 32-53, 2015
  4. 小林慎一ら, 臨床とウイルス 41: 52-60, 2013
  5. 千葉峻三, 臨床小児医学 51: 87-95, 2003
  6. Green KY, in Knipe DM & Howley P(eds), Fields Virology 6th ed: 582-608, 2013
  7. Chiba S, et al., J Infect Dis 142: 247-249, 1980
  8. Sakuma Y, et al., J Med Virol 7: 221-225, 1981
  9. Sakai Y, et al., PIDJ 20: 849-853, 2001
  10. Becker-Dreps S, et al., Curr Opin Infect Dis 33: 388-397, 2020

札幌市あさぬま小児科
中田修二

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