IASR 45(7), 2024【特集】レジオネラ症 2013~2023年
公開日:2024年7月31日
レジオネラ症 2013~2023年
(IASR Vol.45 p107-109: 2024年7月号)
レジオネラ症は細胞内寄生性のグラム陰性桿菌であるレジオネラ属菌(Legionella spp.)による経気道感染でおこる。感染のリスク因子として、 年齢(50歳以上)、 慢性呼吸器疾患、 喫煙、 免疫不全等がある。原則としてヒトからヒトへの感染はない。レジオネラ肺炎に特有な症状はないため、 症状のみでは他の肺炎との鑑別は困難である。治療には、 キノロン系やマクロライド系の抗菌薬が使用される。適切な抗菌薬の投与がない場合、 急速に全身症状が悪化することがある(本号4ページ)。レジオネラ属菌は、 水中や湿った土壌中等でアメーバ等の原生動物を宿主として存在し、 20-45℃で繁殖し、 36℃前後で最もよく繁殖する。エアロゾルが生じる人工水系で適切な衛生管理が行われていないと、 生物膜が形成され、 本菌が増殖し、 感染リスクが生じる。本特集では2013~2023年のデータをまとめた。
患者発生状況: レジオネラ症は、 感染症法に基づく感染症発生動向調査において医師に全数届出が義務付けられている4類感染症である(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-39.html(外部サイトにリンクします))。2013~2023年までに、 20,378例が届出された(2024年5月20日現在)。感染地域は、 国内が18,045例(88.6%)、 国外325例(1.6%)、 不明2,008例(9.9%)であった。
診断年月日を月別に集計すると、 届出数が最も多いのは7月で、 次いで9月、 10月が多く、 冬~春にかけては少なく、 季節変動がある(図1)。レジオネラ属菌の環境中での増殖やその伝播が温度や湿度の影響を受けることが季節変動の理由と考えられる。人口10万対届出数は富山県、 石川県、 岡山県、 群馬県、 栃木県、 宮城県、 長野県、 茨城県、 福井県、 広島県、 岐阜県の順で多く、 地域性がみられる(図2)。
患者の平均年齢は69.4歳(男性67.6歳、 女性77.2歳)で、 0~107歳まで幅広く分布していた。50歳以上が93.0%を占めており、 30歳未満は0.4%と少ないが、 乳児の集団感染が報告されたこともあり、 年齢にかかわらず注意を払う必要がある(図3)。20~90歳は男性の患者数が多く、 全体では男性が81.9%で、 米国の62.8%(2003~2018年; Emerg Infect Dis 28: 527-538、 2022)より多い。
病型は肺炎型が94.3%(19,224/20,378例)、 感冒様のポンティアック熱型が4.8%(982/20,378例)、 無症状病原体保有者が0.8%(172/20,378例)であり、 肺炎型が大半を占めた。届出時死亡は255例であった。発生届に記載された症状を表1にまとめた。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行以降のレジオネラ症の届出状況: 国内においてCOVID-19の流行が拡大して以降、 ヒトからヒトへ飛沫により感染する呼吸器疾患の届出数は、 大きく減少した(IASR Vol.44、 No.1 (No.515)、 January 2023 肺炎球菌感染症、 IASR Vol.42, No.11 (No.501), November 2021 インフルエン、 IASR Vol.45, No.1 (No.527), January 2024 マイコプラズマ肺炎 2023年現在)。一方、 同期間のレジオネラ症届出数の減少はわずかであった(2019年届出数: 2,316例、 2020年: 2,048例、 2021年: 2,137例、 2022年: 2,147例、 2023年: 2,290例、 図1)。これは、 レジオネラ症が、 環境中のレジオネラ属菌を含んだエアロゾル吸入により感染する疾患であることと関連している可能性がある。COVID-19に対する感染対策は、 ヒトからヒトへ飛沫により感染する疾患に対して特に効果が大きいと考えられた。
診断法: レジオネラ症届出20,378例中、 尿中抗原検出と記載のあったものが19,485例(95.6%)、 病原体遺伝子の検出763例(3.7%)、 分離・同定421例(2.1%)、 血清抗体の検出111例(0.5%)、 蛍光抗体法による病原体抗原の検出18例(0.1%)であった(複数の検査法が記載された例を含む)(表2)。前回の2008~2012年の特集(IASR 34: 155-157, 2013)と比較すると、 尿中抗原検出による診断がほとんどを占める状況に変化はなく、 病原体遺伝子の検出は1.5%から3.7%に増加した。
起因菌: 病原体検出情報サブシステムに報告された症例の起因菌と、 国立感染症研究所細菌第一部レジオネラ・レファレンスセンター(本号18ページ&19ページ)に送付された菌株について、 菌種および血清群の内訳をそれぞれ表3に記載した。
集団感染事例等: 2013~2023年にかけての集団感染事例を表4に示した。直近の事例として、 2022年3月に神戸市の宿泊施設の浴槽における2例(1例死亡)の感染事例(本号5ページ)、 2023年7月に宮城県の病院の冷却塔に起因する21例の集団感染事例(本号6ページ)、 2023年9~10月に大阪府の冷却塔に起因する20例の集団感染事例(本号8ページ&10ページ)等がある。
感染経路: 本症はレジオネラ属菌を含むエアロゾルや塵埃を吸入することにより発症する。エアロゾルを生じうる感染源としては、 表4にも示されているような入浴施設、 冷却塔、 加湿器等がある。他に高圧洗浄機、 給湯・給水設備、 廃水処理施設等も感染源となる(本号13ページ)。レジオネラ症患者に多くみられる職業は、 建設・採掘従事者、 輸送・機械運転従事者で、 塵埃吸入のリスクがある。園芸、 農作業等も、 特に高齢者ではリスクとなりうる(本号11ページ)。災害後の浸水建造物清掃や、 がれき撤去等での感染事例もある(IASR 34: 160-161, 2013)。届出によると、 感染経路(確定・推定)は、 水系感染が6,386例(全報告に占める割合: 31.3%)、 塵埃感染が1,180例(5.8%)、 その他(不明を含む)6,818例(33.5%)(以上重複あり)、 記載なし6,425例(31.5%)となっている。
対策: 人工水系によるレジオネラ症防止対策の基本は、 1)微生物の繁殖および生物膜等の生成の抑制、 2)設備内に定着する生物膜の除去、 3)エアロゾル飛散の抑制、 4)外部からの菌の侵入の阻止、 である。そのためには、 1)水の消毒(本号14ページ)を行い、 適切な培養(本号14ページ)あるいは迅速検査(本号16ページ)等で確認する。エアロゾルを直接吸引する恐れのある浴槽水等の衛生管理基準値は100mL当たり10CFU未満(不検出)である。2)浴槽壁や各種タンクの内面の清掃が必須である。3)各種設備はエアロゾルの飛散を防ぐ構造が要求される。4)浴槽壁の洗浄作業や腐葉土の取り扱いには、 防塵マスクを着用した慎重な作業が求められる。
本症の予防には、 レジオネラ対策(厚労省)(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124204.html(外部サイトにリンクします))、 建築物衛生(厚労省)(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei09/03.html(外部サイトにリンクします))、 第5版レジオネラ症防止指針(日本建築衛生管理教育センター)等に沿った適切な衛生管理が必須である(本号20ページ)。
感染拡大防止には、 疫学情報に基づき臨床検体と環境検体の双方から菌株を分離して、 分子疫学を用いることにより感染源を特定し、 消毒・設備撤去等の対策を講じることが重要である(本号5ページ、 6ページ、 10ページ、 17ページ&18ページ)。