病院の冷却塔に起因したレジオネラ症集団感染事例について
公開日:2024年7月31日
病院の冷却塔に起因したレジオネラ症集団感染事例について
(IASR Vol. 45 p112-114: 2024年7月号)
1. 事例の概要
令和5(2023)年7月頃から、 大崎保健所管内にある病院(以下、 X病院)で、 受診歴のある8人および利用歴の無い近隣住民等13人がレジオネラ症を発症し、 うち2人が死亡するレジオネラ症集団感染事例が発生した。初動調査の結果、 X病院の冷却塔2基から9,700万および6,800万CFU/100mLものレジオネラ属菌が検出され、 冷却塔と患者から検出されたレジオネラ属菌の血清群および遺伝子型が一致したことから、 冷却塔が原因であると考えられた。
なお、 冷却塔とは、 空調設備等を冷やす冷却水の温度を下げるための装置で、 ファンにより取り込んだ空気を冷却塔内側の冷却水や散布水に当てて、 蒸発した水の気化熱を利用している。冷却塔は屋外に設置されるため、 風雨により汚れて、 レジオネラ属菌が繁殖する。汚染された水がファンにより飛散してしまうことがあるため、 維持管理には注意が必要である。「建築物における維持管理マニュアル」1)や「レジオネラ症防止指針」2)では、 レジオネラ属菌が100CFU/100mL以上検出された場合は直ちに洗浄し、 検出限界以下(10CFU/100mL未満)であることを確認すること、 とされている。「建築物等におけるレジオネラ症防止対策について」3)では、 レジオネラ属菌の繁殖を抑えるために、 冷却水の交換、 消毒および清掃を行うこと、 とされている。
2. 調査方法
- X病院に感染源となる設備の有無、 冷却塔および外調機(外気を建物病室内に導入する外気処理空調機、 温湿度の調整やフィルターの機能がある)の維持管理等について聞き取り。
- 冷却塔、 入院患者が利用し得る給水給湯設備を対象とし、 採水検体を用いてレジオネラ属菌数を測定4)。
- 冷却塔の充填材(水と空気を効率よく接触させる)および外調機のプレフィルター、 洗浄対応型中性能フィルターを対象とし、 ふきとり検体を用いて遺伝子検査(real-time PCR検査)を実施。
3. 調査結果
(1)聞き取りの結果
イ. 冷却塔の清掃方法
- 冷却塔内部の水槽はデッキブラシを使用し、 こすり洗い。
- 充填材はハンドブラシを用いて、 両端部分のみをこすり洗い。
- 上記の物理的清掃は、 稼働開始前の春と稼働終了後の秋の計2回実施し、 (薬剤による)化学的洗浄は実施していない。
ロ. 冷却塔の維持管理方法
- 冷却水中に複合型冷却水処理剤を投入し、 レジオネラ属菌を抑制。
- 冷却水に汚れがあっても、 複合型冷却水処理剤を投入しているため清掃は行わない。
- 毎年1回(7月)冷却水のレジオネラ属菌検査を実施。
(2)給水給湯設備の検査結果
- 受水槽、 高架水槽、 厨房、 病棟の洗面台、 シャワー室の採水検体による培養検査では、 レジオネラ属菌は未検出、 PCR検査は陰性であった。
(3)冷却塔および外調機の検査結果
- 時系列の検査結果等は表のとおり。
- 7月5日の検体採水時に、 冷却塔内部の水槽内壁のぬめりおよび冷却水の濁りを確認した。また、 冷却塔内部に藻が生えており、 充填材にはスケールの蓄積があることを確認した。
- 7月5日の外調機のふきとり検体(フィルターを通過した室内側)のPCR検査では、 一部の検体で陽性となった。
4. 集団感染に至った原因と考察
(1)冷却塔設備の清掃不十分
ハンドブラシによる清掃では充填材の中心部分まで汚れを落とすことができず、 物理的清掃が不十分であったと考えられた。また、 使用開始前に化学的洗浄を実施していなかったことにより、 (冷却水を室内の冷房装置に送る)循環配管中の汚れを除去できていなかったことも発生要因の1つと考えられた。
(2)複合型冷却水処理剤への過信
複合型冷却水処理剤を投与していたため、 冷却水の汚れを確認しても清掃をしていなかった。しかし、 冷却水の検体採取時には、 冷却塔内部水槽に生物膜と思われるぬめりが存在していたことから、 レジオネラ属菌が繁殖しやすい環境が形成され、 生物膜により処理剤が効きにくい状態になっていたと考えられた。
(3)汚染された冷却水の飛散
冷却塔の取扱説明書には、 冷却水が送風機によって空気とともに放出される水滴の量と、 ルーバから外部へ飛散する水によって損失する水量の和は、 循環水量の約0.1%であると記載があり、 計算上、 1日当たり最大で約5,760Lの水が損失・飛散していたものと推測された。
飛散していた水量も多く、 冷却水は高濃度のレジオネラ属菌に汚染されていたことから、 エアロゾルを吸入した高齢者等の易感染性者を中心にレジオネラ症を発症したと考えられた。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染防止のために窓を開けて換気をした際にエアロゾルが病室に入ったことや、 外気取り込み口から病院全体にレジオネラ属菌の汚染が広がった可能性がある。
(4)外調機の中性能フィルターをエアロゾルが通過していた可能性
病院で使われていた外調機のフィルターは、 JIS規格で中位径が1.6-2.3μmの粒子を65%以上捕集できるとされるものを使用していた(細菌の大きさは1μm程で、 例えばレジオネラ検査が目的のフィルター濃縮には孔径0.2μmが用いられる)。よって、 試験粒子と同等またはそれ以下の粒子径のエアロゾルは外調機のフィルターを通過し、 病院内へ拡散した可能性がある。
5. まとめ
本事例は、 冷却水中でレジオネラ属菌が大量に増殖し、 冷却塔の稼働により拡散したことに起因するものと考えられた。増殖した原因としては、 冷却塔稼働前の清掃が不十分であったこと、 複合型冷却水処理剤の効果を過信し冷却塔の稼働中に汚れを確認しても清掃しなかったこと、 が挙げられる。対応として、 物理的清掃による冷却塔本体のスケールや生物膜の除去の徹底に加え、 殺菌洗浄剤の併用による化学的洗浄で、 循環配管中の生物膜の除去およびレジオネラ属菌の殺菌を行ったことで、 レジオネラ属菌を除去することができた。
同様の事例を防止するためには、 冷却塔の稼働開始前、 稼働終了後に物理的清掃および化学的洗浄を徹底すること、 稼働中は殺菌剤を投与し、 汚れの確認・清掃や、 レジオネラ属菌の水質検査を定期的に行うこと、 が必要であると考えられた。
参考文献
- 厚生労働省健康局生活衛生課、 建築物における維持管理マニュアルについて、 平成20(2008)年1月25日 健衛発第0125001号
- 公益財団法人 日本建築衛生管理教育センター、 第4版 レジオネラ症防止指針、 平成29(2017)年7月
- 厚生省生活衛生局企画課、 建築物等におけるレジオネラ症防止対策について、 平成11(1999)年11月26日 生衛発第1679号
- 厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生課長通知、 公衆浴場における浴槽水等のレジオネラ属菌検査方法について、 令和元(2019)年9月19日付 薬生衛発0919第1号
宮城県北部保健福祉事務所
花烏賊広人
宮城県保健環境センター微生物部