コンテンツにジャンプ
国立健康危機管理研究機構
感染症情報提供サイト
言語切り替え English

トップページ > サーベイランス > 病原微生物検出情報(IASR) > IASR特集記事 > IASR 45(5), 2024【特集】腸管出血性大腸菌感染症 2024年3月現在

IASR 45(5), 2024【特集】腸管出血性大腸菌感染症 2024年3月現在

公開日:2024年5月29日

(IASR Vol. 45 p71-73: 2024年5月号) (2024年9月19日黄色部分修正)

病因,臨床症状

腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli: EHEC)感染症はVero毒素(Vero toxin: VTまたはShiga toxin: Stx)を産生するEHECの感染によって起こり、主な症状は腹痛、下痢および血便である。嘔吐や38℃台の発熱をともなうこともある。VT等の作用により血小板減少、溶血性貧血、急性腎障害をきたして溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome: HUS)を引き起こし、脳症などを併発して死に至ることがある。

行政・検査対応

EHEC感染症は感染症法上、3類感染症に定められている。本感染症を診断した医師は直ちに保健所に届出を行い(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-03-03.html(外部サイトにリンクします))、届出された情報は都道府県等を通じて厚生労働省(厚労省)に報告される。医師が食中毒として保健所に届け出た場合や、保健所長が食中毒と認めた場合は、食品衛生法に基づき各都道府県等は食中毒の調査を行うとともに厚労省へ報告する。地方衛生研究所(地衛研)および保健所はEHECの分離・同定、血清型別、VT型(産生性が確認されたVT型またはVT遺伝子型)別を行い、その結果を感染症サーベイランスシステムの病原体検出情報サブシステムに報告する(本号3ページ特集関連資料1)。国立感染症研究所(感染研)細菌第一部は、地衛研および保健所から送付された菌株の血清型、VT型の確認・同定を行うと同時に、反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis: MLVA)法、パルスフィールドゲル電気泳動法および全ゲノム配列情報を用いた単一塩基多型(single nucleotide polymorphism: SNP)解析による分子疫学的解析を行っている(本号10ページ)。これらの解析結果は各地衛研および保健所へ還元されるとともに、必要に応じて食品保健総合情報処理システム(National Epidemiological Surveillance of Foodborne Disease: NESFD)で各自治体等へ情報提供されている。

感染症発生動向調査

感染症発生動向調査の集計によると、2023年にはEHEC感染症患者(有症者)2,546例、無症状病原体保有者(患者発生時の積極的疫学調査や調理従事者等の定期検便などで発見される)1,276例、計3,822例が届出され(表1)、この数は2011~2019年までの届出平均数3,847例の99.3%(2020年は同80.4%、2021年は同84.4%、2022年は同87.6%)であった。例年と同様、夏期に届出が多かった(図1)。都道府県別届出数(無症状を含む)は、100名以上の届出のあった北海道、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府、兵庫県、岡山県、福岡県、鹿児島県の12都道府県で全体の45.7%を占めた。人口10万対届出数では島根県(11.9)が最も多く、次いで山梨県(8.5)、鹿児島県(7.9)であった(図2左)。0~4歳の人口10万対届出数では、島根県(127.1)、鹿児島県(101.8)、山梨県(100.0)などが多かった(図2右)。届出に占める有症者の割合は、男女とも20歳未満および70歳以上で高かった(図3)。HUSを合併した症例は68例(有症者の2.7%)で、そのうち51例からEHECが分離された。O血清群(O群)の内訳はO157が49例、その他のO群が2例であり、VT型は47例がVT2陽性株(VT2単独またはVT1&2)であった(本号12ページ表)。EHECが分離されなかったHUS症例17例は、患者血清中のO抗原凝集抗体検出によるものであった。有症者のうちHUS発症例の割合が高かったのは5~9歳(7.8%)、0~4歳(6.9%)であった(本号12ページ図)。

地衛研および保健所からのEHEC検出報告

2023年に病原体検出情報サブシステムへ地衛研および保健所から報告されたEHEC検出数は1,865件であった(本号3ページ特集関連資料1)。この数は保健所等で調査を行った菌株と、医療機関や民間検査機関への菌株や検体の提出依頼に応じた菌株数の合算であるため、EHEC感染症届出数(表1)より少ない。全検出数における上位のO群の割合は、O157が65.6%、O26が7.9%、O111が4.6%であった(本号3ページ特集関連資料1)。VT型でみると、O157ではVT2単独が最も多く、O157の49.6%を占め、VT1&2は48.5%であった。O26、O111およびO103はVT1単独が最も多く、それぞれ85.1%、53.5%および95.2%を占めた。EHECが検出された有症者1,240例の主な症状は、下痢82.8%、腹痛80.3%、血便56.9%、発熱28.4%であった。

集団発生

病原体検出情報サブシステムには2023年も保育施設等におけるEHEC感染症集団発生事例が報告され、人から人への感染によるものと推定された〔表2:No.5「発症者数」を10(県内74)→10へ修正、No.6「発生地」を村山市→山形県、「発症者数」を10(県内74)→64(山形市を除く)、 「菌陽性者数/被検者数」を10/31→28/78へ修正〕。一方、「食品衛生法」に基づいて都道府県等から厚労省に報告された2023年のEHEC食中毒は19事例、患者数265名(菌陰性例を含む)(2019年は20事例165名、2020年は5事例30名、2021年は9事例42名、2022年は8事例78名)で、死亡例はなかった(本号5ページ特集関連資料2)。感染研細菌第一部での解析から、疫学的関連が不明な散発事例間で同一のMLVA型を示す菌株が広域から分離されていることが明らかとなっている(本号5ページ6ページ7ページ9ページ10ページ)。

予防と対策

牛肉の生食による食中毒の発生を受けて、厚労省は生食用食肉の規格基準を見直した(2011年10月、告示第321号)。さらに、牛肝臓内部からEHEC O157が分離されたことから、牛の肝臓を生食用として販売することを禁止した(2012年7月、告示第404号)。2012年には、漬物によるO157の集団発生を受けて、漬物の衛生規範が改正されている(2012年10月、食安監発1012第1号)。

EHECは少量の菌数(100個程度)でも感染が成立するため、人から人への経路、または人から食材・食品への経路で感染が拡大しやすい。例年同様、2023年も飲食店等を原因施設とする食中毒事例(本号5ページ特集関連資料2)が発生している。EHEC感染症を含む食品による危害を防ぐため、2020(令和2)年6月から原則すべての食品事業者に対して危害分析重要管理点(hazard analysis and critical control point: HACCP)に沿った食品衛生管理の実施が義務化され、営業者は自らが立てた計画に基づき衛生管理を実施することとなった(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/index.html(外部サイトにリンクします))。この他にもEHEC感染症を予防するためには、食中毒予防の基本「付けない、増やさない、やっつける」を守り、生肉または加熱不十分な食肉等を食べないように注意を喚起し続けることが重要である(https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201005/4.html(外部サイトにリンクします)、https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/index.html(外部サイトにリンクします))。保育施設等での集団発生も多数発生しており,その予防には、手洗いの励行や簡易プール使用時における衛生管理が重要である(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/seikatsu-eisei01/02.html(外部サイトにリンクします))。家族内や福祉施設内等で患者が発生した場合には、二次感染を防ぐため、保健所等は感染予防の指導を徹底する必要がある。

PDF・Word・Excelなどのファイルを閲覧するには、ソフトウェアが必要な場合があります。
詳細は「ファイルの閲覧方法」を確認してください。