IASR 44(4), 2023【特集】風疹・先天性風疹症候群 2023年2月現在
公開日:2023年4月21日
(IASR Vol.44 p45-47:2023年4月号)
風疹は発熱、発疹、リンパ節腫脹を主徴とする風疹ウイルスによる感染症である。一般的に症状は軽症であるが、稀に脳炎や血小板減少性紫斑病を併発することがある。また、風疹に対する免疫が十分でない妊婦が風疹ウイルスに感染した場合、死産、流産または児に心疾患、難聴、白内障など様々な症状を示す先天性風疹症候群(CRS)をもたらす可能性があり、特に妊娠20週までに感染するとそのリスクが高い。
風疹に対するワクチンの接種率が世界的に向上したことにより、全世界の風疹患者数が減少している。2015年には世界保健機関(WHO)アメリカ地域全体からの風疹の排除が宣言され、2020年までにWHO加盟国のうち48%の国において風疹排除が認定されている(本号3ページ)。日本が所属するWHO西太平洋地域(WPR)の地域委員会においてもWPRからの風疹の排除を目指すことを決議した(本号4ページ)。日本においては、2014年に厚生労働省(厚労省)が「風しんに関する特定感染症予防指針(指針)」を策定し、早期にCRSの発生をなくすとともに、2020年度までに風疹排除を達成することを目標にした施策の方針を示した。これを促進するため、さらに厚労省は2018年に「風しんに関する追加的対策骨子」を策定し、過去に風疹の定期予防接種を受ける機会がなく、特に抗体保有率が低い世代(1962年4月2日~1979年4月1日生まれ)の男性を対象として、2019年から抗体検査を前提とした定期予防接種(第5期)を実施することとした。本定期予防接種の実施は2025年3月末まで延長されている。
感染症発生動向調査
風疹は感染症法に基づく全数把握対象の5類感染症である(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-14-02.html(外部サイトにリンクします))。近年では2012~2013年ならびに2018~2019年に全国流行が発生した(図1)。2020年以降は患者届出数が少なく、特に2021年および2022年はそれぞれ12例および15例と、2008年に全数把握が開始されて以来、最少の届出数となっている。
2018~2019年の流行時には20歳以上が患者の約95%を占め、特に40代を中心とする男性の届出が多かった(図2)。女性患者からの届出数は男性患者の約4分の1であったが、妊娠・出産の多い年代である20~30代での届出数が多かった。
風疹患者の予防接種歴は、例年「接種歴不明」の割合が最も多いが、全国流行が発生した2012~2013年ならびに2018~2019年には、「接種歴なし」の割合が全体の21-30%を占める。一方、「接種1回あり」が5-8%、「接種2回あり」が1-2%と少なかったことから、予防接種の効果が示唆された(図3)。流行のなかった2020~2022年においては、上記のような患者の性別年齢分布ならびに予防接種歴別割合の傾向は異なるが、届出数が少ないため解釈には注意が必要である。
CRSも感染症法に基づく全数把握対象の5類感染症である(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-10.html(外部サイトにリンクします))。風疹流行にともなってCRS患者届出数は増加し、2012~2014年には45例、2019~2021年には6例の届出があった。2021年第3週以降は届出がない。
風疹の検査
2017年に指針が一部改正され、2018年以降、原則として全例に検査の実施が求められるようになった。病型別届出割合をみると、2018年以降は検査診断例としての届出が90%以上を占めている(図4)。
麻疹は風疹と類似した症状を示す発熱発疹性疾患であり、しばしば検査による鑑別が必要となる。国立感染症研究所(感染研)・病原体検出マニュアル<麻疹>および<風疹>に記載されている各ウイルス遺伝子単独の検出法の統合を目指し、麻疹ウイルスおよび風疹ウイルスのマルチプレックスリアルタイムRT-PCR法が開発され、感染研・病原体検出マニュアル<麻疹・風疹同時検査法>として公開された(本号6ページ)。風疹の病原体検査では、麻疹の病原体検査と同種の臨床検体(咽頭ぬぐい液、血液、尿等)が用いられることが多いが、風疹患者では、咽頭ぬぐい液が最もウイルスRNA量が多く、ウイルスRNAおよび感染性ウイルスの検出可能期間も長いことが示された(本号7ページ)。
定期予防接種率調査と感染症流行予測調査
2006年度から1歳児(第1期)ならびに小学校就学前1年間の児(第2期)に対し、風疹の定期予防接種が実施されており、2008年度からは毎年、全国の都道府県・市区町村の協力により、定期接種率の調査が実施されている(本号9ページ)。2021年度の風疹ワクチンの全国の定期接種率は、第1期が93.5%、第2期が93.8%と、前年度の接種率から低下し、風疹排除に向けた目標値である95%以上の接種率をいずれも下回った。特に第1期の接種率低下は顕著であり、調査開始以来最も低い結果となっている。第5期定期接種対象男性のうち、2022年11月までに抗体検査を受けた人は28.6%、予防接種を受けた人は6.2%であった。
2021年度の感染症流行予測調査における風疹感受性調査は、16都道府県で4,114名(男性2,380名、女性1,733名、不明1名)を対象にして実施された(図5)。風疹HI抗体価1:8以上の抗体保有率は、2歳~30代までの年齢群では男女ともにおおむね90%以上であった(本号11ページ)。女性は40~50代においても90%以上の抗体保有率を示したが、同年代の男性は90%を下回った。しかし、第5期定期接種の対象である1962~1978年度生まれの男性の抗体保有率は、前年度の調査より6ポイント増加して88%となった。
今後の課題
国内の風疹排除を達成し、それを維持するためには、小児の定期予防接種の接種率を回復させるとともに第5期定期予防接種の利用を促進することが重要である。“風疹ゼロ”プロジェクト実行委員会は、2017年に「2(ふう)月4(しん)日」を「風疹の日」と定め、予防啓発活動を進めている(本号14ページ)。現在は、国内の風疹発生が非常に少ない状況であるが、今後、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対策が緩和されることで、海外からの風疹の流入が契機となり患者が増加する可能性がある。全国的な流行を繰り返さないための対策強化が急務である。