クドア食中毒の現在と今後の問題
(IASR Vol.46 p12-13:2025年1月号)
従来、 魚類の寄生虫として知られる粘液胞子虫のクドアが食品衛生行政上の問題となって10余年が経過した。その間クドアに関する情報は集積したが、 食中毒の発生が抑え込まれているとは言い難く、 一方でKudoa septempunctata以外の粘液胞子虫も食中毒問題にかかわる事例が続いている。さらに、 近年顕著となった気候変動による海水温上昇が魚類のクドア汚染に与える影響も懸念される。複雑化するクドア問題の現状を、 クドア食中毒の現在と今後の問題という視点で概説する。
クドア食中毒の現在
ヒラメに寄生するK. septempunctataが厚生労働省により2011年に食中毒の病因物質として指定され(生食安発0617第3号通知)、 2013年からは食中毒統計資料の病因物質「寄生虫」でクドアとして統計がとられている。現状は本種の関連が明らかな場合にクドア食中毒と定められる。
図は2013~2024年11月までの食中毒統計から抽出したクドア食中毒の事件数を示している。クドア食中毒の主因とされた養殖ヒラメのクドア対策が奏功し、 発生件数は2013年以前よりは減少している。しかしながら漸減する傾向はなく、 この10年は年間20件前後で推移している。2020~2022年の落ち込みは、 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による外出規制等の社会的影響によるものであろう。2010年頃クドア問題が拡大した背景の1つに、 日本へ輸入された韓国産養殖ヒラメの存在があった。実は韓国においても日本と同様のクドア食中毒が問題となっており1)、 最近は日本への輸出用ヒラメも含め韓国産養殖ヒラメは日本同等のクドア管理の下で生産されているという2)。
技術開発が進み、 陸上養殖でのクドア汚染防止が可能となっている現在もクドア食中毒が続くのはなぜか。そこには検査の限界という問題が絡んでいる3)。養殖ヒラメは魚群単位で検査する。現行のふきとり検査では、 魚群中にわずかに存在する高クドア感染ヒラメの流通を見逃す可能性がある。また、 天然ヒラメに関しては高クドア感染個体の割合は少ないものの、 検査なしで流通する。このような検査の眼をすり抜ける危険性に対して、 やはり検査の難しかった馬刺しのサルコシスティス食中毒では、 急速冷凍の導入と普及で、 問題は一挙に沈静化した。クドアの場合は-20℃、 4時間以上の冷凍で失活するが、 刺身の美味しさが損なわれるということで冷凍処理が一般的とはならない難しさを抱えている。この点もクドア食中毒が終わらない要因の1つとなっている。
K. septempunctata以外の粘液胞子虫による有症事例
これまで病原微生物検出情報月報(IASR)ではK. septempunctata以外の粘液胞子虫の関与が疑われる健康被害の事例が多くの地方衛生研究所(地衛研)より報告されている。クドア属ではK. hexapunctata4)、 K. iwatai5-7)、 またクドア属以外にUnicapsula seriolae8)の報告がある。これらの粘液胞子虫はヒラメ以外の主要な生食用魚種から検出されており、 クドア問題を拡大化している。一方、 行政対応としては、 これらの粘液胞子虫による健康被害は原因物質の病原性が明らかではないという理由で、 病因物質は不明の食中毒として報告される。しかしながら、 患者の病状、 胞子摂取量など、 K. septempunctataの事例と変わらない疫学的情報の集積があり、 また原因物質に関しても実験的に病原性が示されている場合もある。
2024年1月、 福島県で発生したキハダマグロを原因食品と考えるK. hexapunctataによる食中毒疑い事例は、 食中毒統計上「寄生虫-その他の寄生虫」として扱われた9)。260名の喫食者の中の111名が発症という大規模な健康被害であった点も食中毒扱いの背景にあったと推察されるが、 K. septempunctata以外の粘液胞子虫による有症事例が全国的に発生し、 かつ今後、 その増加が懸念される現状に際しては、 その実態を把握することを優先すべきであろう。科学的な病害性は明らかではないが、 疫学的に因果関係が明確な寄生虫種に対する受け皿が「その他の寄生虫」というカテゴリーと考える。K. septempunctata以外の粘液胞子虫による健康被害事例は、 現状対応として被害の規模の大きさにかかわらず「その他の寄生虫」枠で食中毒扱いとされることが望まれる。
クドアから粘液胞子虫へ
今後、 食中毒にかかわるような粘液胞子虫の種類、 また感染する魚種がさらに増えていくのか、 そして粘液胞子虫が潜在的な危険因子となるのか、 現状でその答えはないが、 近年の気候変動による海水温上昇が養殖の現場で既に魚病(感染症)増加の原因となっていることには注意すべきである10)。地球規模の変化の中で、 魚類-粘液胞子虫の生物学的関係が影響を受けずに済むとは考えにくい。現状、 クドア問題はK. septempunctataにとどまらないのは明らかである。粘液胞子虫の種類、 感染魚種、 そして胞子量が今以上に増大した場合、 食中毒対策上極めて厳しい問題が生ずることは容易に想像される。モニタリングによりこれらの変動を常時把握し、 蓄積した情報を食中毒対策に活かすなど、 今から備えておくことが重要と考える。
参考文献
- Gyung-Hye Sung, et al., Parasit Host Dis 61:15-23, 2023
- 林 奉洙, 日本食品微生物学会雑誌, 34, 81-83, 2017
- 食品安全委員会微生物・ウイルス専門調査会, 寄生虫評価, 2015
https://www.fsc.go.jp/fsciis/evaluationDocument/show/kya20151110862(外部サイトにリンクします) - 川瀬雅雄ら, IASR 37:238, 2016
- 鈴木 淳ら, IASR 33:153-155, 2012
- 塚田竜介ら, IASR 39:224-225, 2018
- 浅沼貴文ら, IASR 43:97-99, 2022
- 丸山暁人ら, IASR 39:225-226, 2018
- 滝沢和央ら, IASR 45:68-69, 2024
- 鹿児島県水産技術開発センター, うしお 375:1-2, 2022
国立感染症研究所寄生動物部
八木田健司