コンテンツにジャンプ
国立健康危機管理研究機構
感染症情報提供サイト
言語切り替え English

トップページ > サーベイランス > 病原微生物検出情報(IASR) > IASR特集記事 > IASR 45(1), 2024【特集】マイコプラズマ肺炎 2023年現在

IASR 45(1), 2024【特集】マイコプラズマ肺炎 2023年現在

公開日:2024年1月30日

(IASR Vol.45 p1-2:2024年1月号

マイコプラズマ肺炎は一般にみられる肺炎で、流行時には市中肺炎全体の20-30%を占めることもある。病原体の肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae: M.pneumoniae)は、細菌としてはゲノムサイズが約800kbと小さく、増殖にコレステロールなど多くの栄養素を要求するが、人工の培地で純培養が可能である(本号3ページ)。ペプチドグリカン細胞壁を欠くため、β-ラクタム系の抗菌薬は効果がない。感染経路は主に飛沫感染と接触感染で、家族内や学校など濃厚接触が多い場所で、しばしば集団発生が起こる。患者は小児、青年期年齢層に多く、潜伏期間は感染後2~3週間程度である。症状は発熱、全身倦怠感、頭痛、咳などで、解熱後も咳が長く続くことがある。M.pneumoniaeによる呼吸器感染症は肺炎に至らない気管支炎症例も多く、肺炎の場合も比較的症状が軽いため、英語では“walking pneumonia”という呼び名もある。これは肺炎を発症していても患者が起きて歩けるからである。一方で、重症化して入院治療が必要な症例もある。また、M.pneumoniaeは呼吸器以外にも造血器系、心血管系、消化器系、泌尿器系、中枢神経系、皮膚・粘膜などに炎症をはじめ、様々な病変や合併症を起こすことがある。現時点で有効なワクチンはない。

M.pneumoniaeの病原性機序は完全には解明されていないが、本菌が宿主の呼吸器粘膜上皮細胞に付着して増殖し、百日咳毒素のS1サブユニットに構造が類似したcommunity-acquired respiratory distress syndrome toxin(CARDS TX)や過酸化水素を放出して細胞を傷害すること、膜リポタンパク質などの菌体成分が免疫応答を刺激して過剰な炎症を引き起こすことなどが病原性因子とされている(本号4ページ)。M.pneumoniaeは太さが0.2-0.3μm、長さが1-2μmの細長い細胞形態をしており、0.45μm孔のフィルターは容易に通過し、一般的な細菌は通過しない0.22μm孔のフィルターでも通過できる(本号5ページ)。培地中での倍加時間は実験室で継代された株で6時間程度、分離されたばかりの株はこれよりも長時間であることが多い。菌体の片方の端に細胞膜が突出した接着器官と呼ばれる構造があり、その表面に宿主細胞への接着に必須なP1とP40/P90タンパク質が集まっている。P1とP40/P90はそれぞれ170、130kDaのタンパク質で、2分子ずつのヘテロ4量体で細胞接着分子を形成している。P40/P90の表面にシアル酸結合部位があり、ここに宿主細胞表面のシアル酸含有糖鎖が結合することによってM.pneumoniaeの細胞接着が起こる(本号4ページ)。M.pneumoniaeはP1とP40/P90タンパク質の働きによって、付着した細胞表面上を移動する滑走運動性も有する。P1とP40/P90タンパク質は分離株間でアミノ酸配列に違いがみられ、菌株の分類、型別法に利用されている。M.pneumoniaeの分離株は1型と2型の2つの系統に大別できる(本号6ページ)。

感染症発生動向調査

感染症法に基づく感染症発生動向調査においてマイコプラズマ肺炎は5類感染症(定点把握)に位置付けられており、基幹定点医療機関(全国約500カ所の小児科および内科医療を提供する300床以上の病院)から毎週患者数(入院・外来の総数)が報告されている。届出基準では、医師が臨床的にマイコプラズマ肺炎を疑い、「菌の分離・同定」、「抗体検出」、「核酸増幅法による病原体の遺伝子検出」、あるいは2014年から加わった「イムノクロマト法による病原体の抗原の検出」のいずれかの検査法によってマイコプラズマ肺炎と診断された際、届出が求められている(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-38.html(外部サイトにリンクします))。

マイコプラズマ肺炎の発生には季節性があり、患者の報告数は秋~冬に増加する。年によっては初夏に少し報告数の増加がみられることもある(図1)。また、国内外の疫学調査研究では3~7年程度の間隔で大きな流行が起きることが報告されているが、感染症発生動向調査における2010~2012年、2015~2016年の顕著な報告数の増加も、このような周期的な大流行と思われる。2020年の4月に日本では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の緊急事態宣言が出されたが、その直後より、マイコプラズマ肺炎の報告数は激減し、2020~2022年は秋冬期にも報告数の増加がみられなかった。2023年11月末の時点でも報告数は少ない状況で推移している(図1および本号8ページ)。

患者は全年齢層で報告されているが若年齢層に多く、1~14歳の患者が全体の6-8割を占める。報告数の多い年は小児患者の割合が高い傾向がある(図2)。一方、2020~2022年は報告数が大きく減り、中でも小児患者数の減少が大きく、成人年齢層の患者割合が高くなっている(図2)。

マクロライド耐性菌の動向

マイコプラズマ肺炎の治療にはマクロライド系抗菌薬、ニューキノロン系抗菌薬、テトラサイクリン系抗菌薬などが有効だが、ニューキノロン系抗菌薬とテトラサイクリン系抗菌薬の小児への投与は慎重に行う必要があるため、マクロライド系抗菌薬が第一選択薬となる。1990年代まではマクロライド耐性のM.pneumoniaeが臨床から分離されることは稀であったが、2000年以降、国内および東アジア地域でマクロライド耐性菌が頻繁に分離されるようになり、2012年頃には国内分離株の80-90%がマクロライド耐性になっていた。M.pneumoniaeのマクロライド耐性は23S rRNA遺伝子の点突然変異によって生じる(多くは2,063または2,064番目のAが他の塩基に置換)。その後、2010年代後半から国内分離株のマクロライド耐性率は減少し、2018~2020年の分離株の耐性率は30%台以下になった。このように国内でマクロライド耐性率が減少した要因としては、マクロライド耐性菌の出現を考慮した診療ガイドラインが普及し、抗菌薬の使用が適正に行われたこと、2016年からの薬剤耐性(AMR)対策アクションプランによって抗菌薬の使用量が全体的に減少していること、マクロライド系抗菌薬投与で効果がみられない小児の症例に対して、ニューキノロン系抗菌薬のトスフロキサシンが投与されていること、などがあげられる(本号9ページ10ページ)。

一方、分離株の遺伝子型調査では、マクロライド耐性の分離株の大部分が1型系統であるのに対して、感受性の分離株は2型系統であることがわかっている。2000年代は1型系統が多く出現しており、この時期に1型系統の耐性化が進んだものと思われる。近年の国内分離株のマクロライド耐性率の低下の背景には、まだ耐性化していない2型系統の増加がある。2型系統の菌が増加してきた理由は、治療薬の使用状況以外にも、集団免疫によって流行菌型が変化した要因も考えられる(本号6ページ9ページ)。

おわりに

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によるパンデミック発生以降、他の呼吸器感染症と同様に、国内のマイコプラズマ肺炎の報告数は激減した。多くの国で同様な状況がみられ、SARS-CoV-2に対する感染防止策である手指衛生の励行や人の移動制限等によって、M.pneumoniaeの感染と伝播がおさえられたと考えられる。一方、SARS-CoV-2とM.pneumoniaeの重複感染例も少なからず報告がある。また、2023年10~11月に、中国で小児を中心に広がった呼吸器感染症の中にマイコプラズマ肺炎が多く含まれていたとの情報もあった。今後、日本でも社会活動がパンデミック前の状況にもどっていけば、マイコプラズマ肺炎の大きな流行が起こる可能性は高いであろう。引き続き発生動向の監視が必要である。パンデミック前の日本では、M.pneumoniae分離株のマクロライド耐性率は低下傾向で、2型系統の感受性菌が増えていた。一方、中国では2型系統のM.pneumoniae株もマクロライド耐性化が進んでいるとの報告がある。今後、国内で分離される菌株について、研究者による薬剤耐性と遺伝子型の動向調査が望まれる。

PDF・Word・Excelなどのファイルを閲覧するには、ソフトウェアが必要な場合があります。
詳細は「ファイルの閲覧方法」を確認してください。