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IASR 44(6), 2023【特集】エムポックス 2023年現在

公開日:2023年6月22日

(IASR Vol.44 p83-84:2023年6月号

エムポックス注)(下記脚注参照)は、オルソポックスウイルス属に属するモンキーポックスウイルス(別名エムポックスウイルス:MPXV)の感染によって起こる感染症で、感染症法上の4類感染症に指定されている。MPXVは主に感染動物や、感染患者の血液・体液・皮膚病変との接触により伝播することが知られてきた。MPXVの自然宿主は現在も明らかになっていないが、アフリカの熱帯雨林に生息するげっ歯類が自然宿主であり、サルなどの哺乳類は偶発的に発生する宿主である可能性が高い。流行はアフリカ地域でみられてきたが、アフリカ地域以外の輸入感染事例としてヒト集団におけるアウトブレイクが発生したのは2003年の米国での事例が初めてである。この事例では、ガーナから輸入されたげっ歯類に感染していたMPXVがプレーリードッグに伝播し、そのプレーリードッグとの接触が原因とされ、ヒトからヒトへの伝播は確認されていない。他にもナイジェリア国内で動物から感染したと思われる複数の感染者が、イスラエル、英国、シンガポール、米国を訪問し、そこで輸入症例として確認された事例がある。これらの事例でもヒトからヒトへの伝播は院内感染1例、家族間感染2例にとどまっていた(本号3ページ)。

2022年5月以降、欧米を中心に、常在地域への渡航歴のないエムポックス症例が相次いで報告された(図1)。ヒトからヒトへの伝播が確認され、前例のない流行となり、2023年5月11日時点で111カ国87,377例が確認されている。この流行で報告されている症例の多くは男性であり、men who have sex with men(MSM)が多く含まれていた。病変の部位などから、性的接触にともなう伝播が中心となっている可能性が指摘されている。なお、少数ではあるが、MSM以外の男性、小児、女性の感染例の報告もある(図2)。2022年7月23日、世界保健機関(WHO)事務局長は、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern:PHEIC)」に該当することを宣言した。

MPXVは、遺伝子配列によりclade1、clade2に分類され、それらの系統とその流行地域には関連がある。Clade1はかつてコンゴ盆地型、clade2は西アフリカ型と呼称され、それぞれの系統のMPXVによるエムポックスのアウトブレイクが、中央アフリカ、または西アフリカの地域で報告されてきた。Clade2は、さらにclade2a(従来の西アフリカ型)と、2017年頃よりナイジェリアおよび欧州におけるエムポックス輸入例の原因として報告が増加したclade2bに分かれ、現在世界的に流行しているウイルス株はclade2bに属している。

エムポックスの潜伏期間は1~3週間程度、臨床症状は主に発熱、頭痛、リンパ節腫脹である。特徴的な症状として全身性の皮膚病変があり、皮疹から水疱となり、膿疱、痂皮と経過し、臨床症状は2~3週間程度で消退することが知られてきた。2022年5月以降欧米を中心に感染拡大しているエムポックスは、病変が会陰部・肛門周囲や口腔などの局所に集中しており、全身性の皮疹がみられないなど、2022年以前に報告されてきた典型的なエムポックスの臨床像とは大きく異なっていた(本号4ページ)。

エムポックスは接触感染や飛沫感染を起こすが、今回の流行では接触感染が中心と考えられる。感染予防策は標準・接触予防策が中心で、医療機関においては、空気感染し得る発疹性熱性疾患との鑑別が必要な段階の疑い患者には、空気予防策の実施が求められる(本号5ページ)。

エムポックスの治療は対症療法が主で、特異的な治療薬は存在しないが、テコビリマットなど、いくつかの薬剤が選択肢として期待されている。ワクチンについては、日本で開発され実用化されていた乾燥細胞培養痘そう(天然痘)ワクチンLC16m8ワクチンについて、公知のエビデンスを踏まえ、ヒトにおける有効性が十分に期待できると判断され、2022年8月にエムポックス予防効果が追加承認された。従来のエムポックスは流行規模が限られていたことから、痘そうワクチンのエムポックスに対するヒトでの有効性に関するデータも限定的であった。しかし欧米で承認されているMVAワクチンについては2022年の大規模アウトブレイク中の研究において初めて実社会における有効性が確認された(本号6ページ)。

従来の知見とは異なる臨床像を示すエムポックスの診療対応については十分な知見がないうえに、診療において必要な治療薬やワクチンなどの医薬品が国内で承認されていない、またはアクセスが限られていた。そのため、国立国際医療研究センターが中心となり多施設共同臨床研究という形で、これらを使用、評価できる体制が迅速に構築され、現在、貴重な知見が集積されている。今後、国産ワクチンLC16m8についても実社会における有効性を検証する研究が期待されている(本号8ページ)。

エムポックスは、国内で届出対象となった2003年以降国内において届出はなかった。2022年5月以降の欧米を中心とした感染拡大を受け、国立感染症研究所(感染研)と地方衛生研究所(地衛研)全国協議会において病原体検出マニュアルの整備や各地衛研への検査用試薬の配布を行い、2022年7月までに全国に行政検査の体制を整備した(本号9ページ)。

2022年7月25日(第30週)に、欧州への渡航歴がある成人男性が、国内で探知された初めてのエムポックス症例となった。2022年第38週以降、海外渡航歴のない症例が散発的に届出されていたが、2023年第3週以降は海外渡航歴がない症例が増加し、さらに第10週以降、推定感染地域が国内である症例が急増した。2023年5月2日までに129例が届出されている。性別はすべて男性で、30代と40代が73%(94/129)を占めている。届出された症状のなかでは、発疹95%(118/124)、発熱77%(96/124)、リンパ節腫脹37%(46/124)の順に多かった。HIVの罹患状況が把握できた67例のうち、43例(64%)がHIV陽性者であった。重症例、死亡例の報告はなかった。居住地については、2023年2月中旬(第7週)までは関東圏のみの届出であったが、その後関西圏をはじめ東海、四国、沖縄県で届出されており、全国的な拡がりを認めている(本号11ページ)。

感染拡大を防ぐための対策の1つとして、国際的に多くの感染者が報告されているハイリスクコミュニティにおける「性交渉の相手を減らす」、「その場限りの性交渉を減らす」などの感染リスク低減の行動選択が重要であるとされている。このような人々の意思決定の支援のため、リスクコミュニケーション(RC)が各国で実施されている。差別・偏見につなげることなくRCを行うために重要視されているのがコミュニティエンゲージメント(CE)である。国内でも「感染症コミュニケーション円卓会議」に代表されるリスクコミュニケーション・コミュニティエンゲージメント(RCCE)活動が行われてきた(本号12ページ)。

2023年の年初には世界の多くの地域で新規感染者数は大幅に減少し、疾患の重症度等にも大きな変化はみられなかったことから、2023年5月11日にWHOよりPHEICには該当しない旨が発表された。発症者数が減少に至った要因として、感染やワクチン接種による免疫獲得、コミュニケーションによる行動変容といった要素が考えられるが、流行が再燃する余地はある。また、流行が継続している常在国も含めて、長期的に感染伝播の排除(elimination)を目指し、国際的に協調した対策の計画的な実行が求められている。国内でも、継続してCEを推進しつつ、医療の体制等を充実させていく必要がある。

注)疾患名はmonkeypox(日本語名でサル痘)であったが、WHOの呼称変更の決定を受けて2023年5月26日より政令改正により、感染症法上の名称が「エムポックス」に変更された。

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