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カルバペネム耐性腸内細菌目細菌感染症届出に必要な検査所見(届出基準)の背景と経緯

(IASR Vol. 46 p43-45: 2025年2月号)

カルバペネム耐性とカルバペネマーゼ産生

    細菌に対する抗菌薬の臨床的有効性は, ブレイクポイント(breakpoint: BP)といわれる閾値で, 最小発育阻止濃度(MIC)を感性(susceptible: S), 中等度(intermediate: I)そして耐性(resistant: R)に分類して評価される。にカルバペネムであるイミペネムとメロペネムの腸内細菌目細菌におけるBPを示す。BPは, 薬物動態, 臨床試験, 薬剤耐性機序などに基づき設定され, 新たな知見によって随時更新される。主要なものに, 米国のClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)および欧州のEuropean Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing(EUCAST)が設定するBPがある。2010年頃よりカルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌(carbapenemase-producing Enterobacterales: CPE)の知見が増え, カルバペネムのMICが低いCPEへの懸念から, CLSIは2010年半ばにBPの大幅な引き下げを行った。この頃から, カルバペネムのMICが高いカルバペネム耐性腸内細菌目細菌(carbapenem-resistant Enterobacterales: CRE)が問題なのか, MICにかかわらずCPEが問題なのかが議論されるようになった。

    CRE感染症の臨床研究では, カルバペネマーゼ産生の有無よりもカルバペネムのMICが予後に影響するとの報告もある1)。しかし, 多くのカルバペネマーゼはカルバペネムに加えセフェム系などのβ-ラクタム系抗菌薬を幅広く分解し, かつ, CPEは抗菌薬曝露等によりカルバペネムに高度耐性化しうること, 他系統の抗菌薬に対する耐性遺伝子も保有することで多剤耐性傾向が強いといった薬剤耐性の特性がある。そして疫学的にはCREによる院内感染事例のほとんどがCPEによるものであり, 感染対策の面からMICにかかわらずCPEを検出することは重要であるとされている。

    EUCASTは2013年にBPとは別に, CPE検出を目的としたスクリーニングカットオフ値としてメロペネムのMIC 0.25μg/mL以上を提唱した2)。一方, イミペネムは当初よりCPEのスクリーニングには適さないと記載されており, 2017年の改訂版では削除された3)

    感染症発生動向調査におけるCRE感染症届出基準の制定

    CRE感染症が感染症法における5類全数把握疾患となった際, CPEを考慮しCLSIの耐性のBPよりもさらに低いMIC 2μg/mL以上がカルバペネム耐性の基準となり, 届出のために必要な検査所見は, 「メロペネムのMIC 2μg/mL以上, もしくはイミペネムのMIC 2μg/mL以上かつセフメタゾールのMIC 64μg/mL以上であること」とされた。当時, メロペネムの感受性を測定していない医療機関が多かったことからイミペネムを基準から外すことは難しかった。そのため, 少なくともイミペネムのMICのみ高くメロペネムやセフェム系抗菌薬のMICは低いことが知られていたProteus属は除外するため4), セフェム系のうち基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)に分解されないセフメタゾールに耐性の条件を加えることになった。これはESBL産生Proteus属がすでに国内で広く報告されていたためである。

    イミペネム耐性+セフメタゾール耐性による届出の問題点と基準改定

    CRE感染症発生動向調査が2014年9月より開始されたところ, Enterobacter属やKlebsiella aerogenesといった染色体性AmpC β-ラクタマーゼ(AmpC-BL)産生菌種が報告の半数以上を占めた。これらの菌種はAmpC-BLに分解されるセフメタゾールには生来耐性であり, かつ, 一定の割合で, カルバペネマーゼ遺伝子を獲得していない野生株でもイミペネムのMICが2μg/mLに達する。ただ, メロペネムのMIC は0.25μg/mL未満と低く, EUCASTが推奨するCPE検出のスクリーニング対象には該当しない。一方で, 感染症法上はCREに該当するため, 感染症を発症した場合は保健所への届出が必要となり, また標準予防策に加え接触予防策の対象としていた医療機関もあった。2017年からは地方衛生研究所(地衛研)等によるCRE病原体サーベイランスが開始され, CRE感染症届出症例分離株のうちCPEの割合は20%未満を推移した5)。さらにイミペネムとセフメタゾール耐性の基準のみで報告されたものが半数以上を占め, かつその中にCPEは含まれないことが明らかになった6)

    CPEによる感染症の発生を感度良く把握するよう制定した基準であったが, イミペネム耐性の基準により特異度が下がり, 本来把握すべきCPE感染症の動向がみえづらいうえ, 保健所や医療現場に不要な負担がかかっていた。医療機関でのメロペネムの感受性試験に加えCPE検出の検査法も普及してきたことをふまえ, 2025年4月よりイミペネム耐性の基準を削除し, カルバペネマーゼ産生, またはカルバペネマーゼ遺伝子が確認された場合が届出対象に含まれる方針である7)

    今後の課題

    メロペネムのMICの低いOXA-48型CPEが世界的に増加傾向であり, わが国でも報告が増えてきた。さらに, 近年上市されたCRE感染症に有効な新規抗菌薬の適正使用には, MIC 0.25μg/mL以上を鑑別できるメロペネムの感受性の測定とカルバペネマーゼ酵素型の同定が推奨されている8)。感染対策上も, カルバペネムのMICが低くかつ保菌であってもCPEを感度良く検出する必要性は高い。しかし, CPE検出のための検査は, 費用と労力, および検査法によっては精度の問題から必ずしもすべての医療機関で実施できてはおらず, 必要に応じて地衛研など行政の支援が必要と思われる。

    わが国のCRE対策推進のためには, 地衛研等の実施するCRE病原体サーベイランスで全国的かつ経年的なCPEの動向を詳細に把握するとともに, 臨床検査室におけるCPE検査の拡充が必要と思われる。

    参考文献

      1. Daikos GL, et al., Antimicrob Agents Chemother 53: 1868-1873, 2009
      2. EUCAST, The EUCAST guideline on detection of resistance mechanisms v 1.0(2013-12-11)
        https://www.eucast.org/resistance_mechanisms
      3. EUCAST, The EUCAST guideline on detection of resistance mechanisms v 2.0(2017-07-11)
        https://www.eucast.org/resistance_mechanisms
      4. Girlich D, et al., Front Microbiol 11: 256, 2020
      5. 松井真理ら, IASR 46: 26-28, 2025
      6. Ikenoue C, et al., BMC Infect Dis 24: 209, 2024
      7. 厚生労働省, 第92回厚生科学審議会感染症部会資料
        https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001352580.pdf
      8. 厚生労働省, 抗微生物薬適正使用の手引き 第三版 別冊, 2023
        https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001169114.pdf
      国立感染症研究所薬剤耐性研究センター
       鈴木里和

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