カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)感染症, 2024年現在
(IASR Vol. 46 p35-36: 2025年2月号)
カルバペネム耐性腸内細菌目細菌(CRE)感染症は, グラム陰性菌による感染症の治療において最も重要な抗菌薬であるメロペネムなどのカルバペネム系抗菌薬および広域β-ラクタム系抗菌薬に対して耐性を示すEscherichia coliやKlebsiella pneumoniaeなどの腸内細菌目細菌による感染症の総称である。CREは主に感染防御機能の低下した患者や外科手術後の患者, 抗菌薬を長期にわたって使用している患者などに感染症を起こす。肺炎などの呼吸器感染症, 尿路感染症, 手術部位や皮膚・軟部組織の感染症, カテーテルなど医療器具関連血流感染症, 敗血症, 髄膜炎, その他多様な感染症を起こし, しばしば院内感染の原因となる。時に基礎疾患のない人に感染症を起こすこともある。また無症状で腸管等に保菌されることも多い。2023年5月26日より感染症法上の名称がカルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症からカルバペネム耐性腸内細菌目細菌感染症へ変更となった。
感染症発生動向調査: CRE感染症は2014年9月19日より5類全数把握疾患と定められた。届出基準は, メロぺネム〔最小発育阻止濃度(MIC), ≧2μg/mL〕あるいはイミペネム(MIC, ≧2μg/mL)かつセフメタゾール(MIC, ≧64μg/mL)(イミペネム基準)と制定された。なお本調査では発症者のみを届出対象としている。CRE感染症患者は2015~2017年まで毎年約1,600例の届出があったが, 2018, 2019年は2,200例前後, 2020年以降は2,000例前後の届出数で推移している(図1)。毎年届出全体の約80%の患者が65歳以上で占められている。都道府県別届出数では東京都, 神奈川県, 愛知県, 大阪府, 福岡県の上位5都府県で約40%を占めている(図2)。菌種別届出割合では, 2016年まで上位4菌種はEnterobacter cloacae, Klebsiella aerogenes, K. pneumoniae, E. coliの順であったが, 2017年以降はK. aerogenesが毎年40%前後を占め, 首位となっている(図3)。
病原体サーベイランス: CREの中でもカルバペネム分解酵素であるカルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌(CPE)は多剤耐性を示すこともあり, カルバペネマーゼ遺伝子をプラスミドなどの可動性遺伝因子上に保有するため, 菌種を越えて薬剤耐性を伝播させることが知られている。このため, CPEは院内感染対策上も区別し, 注意を要することから, カルバペネマーゼ遺伝子検査が必要とされる(本号3ページ)。
CRE病原体サーベイランスは2017年3月28日より届出患者分離株を対象として実施され, 地方衛生研究所等で実施されたカルバペネマーゼ遺伝子の検出結果等が感染症サーベイランスシステムに登録されている。感染症発生動向調査届出患者数に対するCRE病原体報告率は, 2017年は52%であったが, 翌2018年には74%に達し, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の影響により低下した期間を含めても70%台を維持している(本号4ページ)。なお, 年による報告自治体の大幅な変動はなく, サーベイランス開始以降継続して報告のない, もしくは, 報告率の低い自治体が存在している。CRE病原体のカルバペネマーゼ遺伝子検出株の総数は2021年以降は横ばいであるが, その大多数を占めるIMP型は年々減少傾向にある一方, NDM型等の検出株数が増加している。NDM型検出株は分離患者に明確な海外渡航歴のない国内例の増加が顕著であり, また下水からもNDM型やOXA-48-likeを保有する大腸菌が分離されている報告があること(本号6ページ)から国内伝播の拡大が推察された。近年, 海外特に東南アジアでは, NDM型やOXA-48-likeの増加が認められている(本号8ページ)。2022年にはICUにおけるKPC型のアウトブレイク事例も報告された(本号9ページ)。感染症サーベイランスシステムへの登録も2023年暫定値ではKPC型やOXA-48型の増加が認められている(本号4ページ)。わが国も海外の薬剤耐性菌動向の影響を受ける可能性があり, CREの菌種や保有する薬剤耐性遺伝子は経年的に変化してゆくことを念頭に, 今後も継続的な監視が重要である。
厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)(本号10ページ): JANIS検査部門では, 参加医療機関で実施されたすべての細菌検査データを継続的に収集・集計し, 日本国内の主要な薬剤耐性菌の分離状況を明らかにしている。感染症発生動向調査とは異なり, 保菌と発症を区別せず, 医療機関で分離された菌の検査データをすべて集計対象としている。JANIS参加医療機関の中でCREが分離された患者数は2018年以降, COVID-19が増加した2020年を除き9,000名を超えて増加傾向にある。参加医療機関数増加の影響を排除するためCRE分離患者数を検体提出患者の総数で割った「分離率」でみると, 2018年以降は0.31-0.33%と横ばいであった。CREの菌種割合は感染症発生動向調査と同様で, 2023年ではK. aerogenesが41.1%で首位となっている。
薬剤耐性(AMR)対策アクションプランと成果指標: 2015年世界保健総会でのAMRに関するグローバル・アクション・プランの採択を受け, 2016年に薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016-2020)が策定され, 政府一体となった取り組みが進められてきた(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000120769.pdf)。COVID-19のまん延の影響により, 計画期間が延長されたのち, 2023年にさらなるAMR対策の推進にあたり, 薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023-2027)(NAP2023-2027)が策定された(https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001092868.pdf)。日本のアクションプランの特徴として様々な数値目標が成果指標として掲げられてきた。カルバペネム耐性に関してはNAP2023-2027においてもE. coliおよびK. pneumoniaeのカルバペネム(イミペネムおよびメロぺネム)耐性率を0.2%以下に維持することが指標として定められている。
新たな展開: わが国では, 今までCRE感染症は非β-ラクタム系抗菌薬を主体とした治療が行われてきたが, 2023年以降, CPEに高い抗菌活性を示す新規β-ラクタム薬(あるいは合剤)が国内承認され始めた(本号12ページ)。新薬はCPEに対して高い抗菌活性を示し, CRE感染症治療の新たな選択肢となりうる(本号13ページ)が, カルバペネマーゼ遺伝子型を診断して適応を検討するなど, 「抗微生物薬適正使用の手引き」に基づいた使用が求められることになる。
2014年にCRE感染症の届出基準を定めた当時は, メロぺネムの感受性を測定していない医療機関がまだ多く, イミペネム基準が必要であったが, 現在はメロぺネムの感受性測定が普及したこともあり, 基準の見直しが検討されている(本号14ページ)