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ラオスの肝吸虫について

(IASR Vol.46 p10-12:2025年1月号)

東南アジアの内陸国ラオス人民民主共和国(以下、 ラオス)では、 メコン川をはじめとする河川、 湖、 池、 水田等で採れる淡水魚が貴重なタンパク源となっている。様々な魚の調理方法があり、 煮る、 焼く、 揚げる、 バナナの葉に包んで蒸すなどの他に、 生食や発酵調味料なども好まれている。しかしラオス、 タイ、 カンボジアのコイ科の淡水魚には、 タイ肝吸虫(Opisthorchis viverrini)が感染していることがあり、 感染魚の生食や不十分な調理で喫食すると、 タイ肝吸虫に感染する危険がある。ラオスでは、 生魚の発酵調味料や、 生魚にライム汁と唐辛子などスパイスを加えて混ぜた料理があるが、 発酵時間が短いと感染リスクがある。またこれまでの調査で、 多くのラオス人はライム汁に殺虫効果があると信じていることが明らかとなったが、 殺虫効果は確認されていない。また、 慢性感染は胆管がんのリスク因子として知られており1)、 その感染者数はラオスとタイだけで1,000万人と推定され、 肝障害や胆管がんによる経済的損失はタイで年間1億2千万ドルとの報告がある2)

成虫は終宿主であるヒトを含む哺乳類(ネコ、 イヌ)の胆管内に寄生し、 虫卵が終宿主の便とともに外界へ排出される。水辺での排便、 または虫卵が雨水などで川や湖などに流されて、 そこに第1中間宿主である淡水産巻貝(Bithynia spp.)が生息していると貝に感染し、 ミラシジウム、 スポロシスト、 レジア、 セルカリアへと貝の中で発育する。セルカリアは貝から水中に遊出し、 第2中間宿主であるコイ科の魚に感染して、 ヒレや筋肉で、 メタセルカリアへと発育する。感染魚を哺乳類が生食することで哺乳類が感染する3)

我々がラオスのカムアン県で2015年に実施した母子調査では、 Kato-Katz法による便検査でのタイ肝吸虫罹患率が母親(n=348)で平均92.9%、 その子ども(n=284)で平均82.9%であった4)。この中にはタイ肝吸虫の虫卵と非常によく似た虫卵を産卵する異形吸虫類が混ざっている可能性も否定できないが、 非常に高い感染率だと言える。また母親が魚の生食を好む場合、 その子どもの罹患率が有意に高まることが明らかとなった。またサワンナケート県での調査によると、 タイ肝吸虫罹患率は20~30代でピークに達することが確認されている5)

タイ肝吸虫症を防ぐために、 ラオス保健省ならびに世界保健機関(WHO)は淡水魚の生食を禁止するキャンペーンを実施してきたが、 魚の生食はラオスの食文化であり、 行動変容を促すのは非常に困難である。さらに、 少数民族や農村部では識字率が低いため、 生食を禁止する啓発ポスターを保健省が作成しても、 その意味を理解できない住民が多い()。またラオスで調査を実施すると、 生魚料理にライム汁を絞ることで寄生虫が死に、 感染予防になると信じている住民も多いことが明らかとなった。

ラオスの隣国タイ東北部コーンケン県のLawa湖周辺は、 タイ肝吸虫症の高度流行地域であったが、 コーンケン大学のSripa教授らの指導のもと、 One Health/Ecohealthアプローチを取り入れた包括的な対策が十数年にわたり実施された。その結果、 対策前は住民の罹患率が平均50%であった地域で、 対策後の2015年には約1/3になり、 魚の罹患率は70%から1%にまで低下した1,6)。これは診断と治療だけでなく、 住民参加型の対策が継続された結果であると推察される。これら一連の取り組みは、 Lawaモデルと呼ばれ、 顧みられない熱帯病対策の成功例として有名である。ラオスは文化的・言語的にタイ東北部と近いので、 タイ肝吸虫症対策のお手本としてタイで成功しているLawaモデルをラオスへ導入することは効果的であると期待している。

最後に、 タイ肝吸虫感染がどのように胆管がんの形成に寄与するのか不明な点も多いが、 Sripa教授らは、 タイ肝吸虫に感染している細菌が、 胆管がんの形成に寄与しているのではないかと推察している。Lawa湖での調査によると、 タイ肝吸虫メタセルカリアにレプトスピラが感染していることが確認され、 住民の血清調査では、 タイ肝吸虫抗体陽性者は陰性者と比べ、 有意にレプトスピラの抗体陽性率が高かった7)。将来的には、 タイ肝吸虫に感染している細菌を抗菌薬で治療することで、 胆管がんを予防できる日が来るかもしれない。

参考文献

  1. Tangkawattana S, Sripa B, Adv Parasitol 102:115-139, 2018
  2. Liau MYQ, et al., Pathogens 12:795, 2023
  3. CDC, Opisthorchiasis
    https://www.cdc.gov/dpdx/opisthorchiasis/index.html(外部サイトにリンクします)
  4. Araki H, et al., Trop Med Health 46:29, 2018
  5. Sato M, et al., J Helminth 89:439-445, 2015
  6. Sripa B, et al., Acta Trop 141:361-367, 2015
  7. Van CD, et al., Parasitol Int 66:503-509, 2017

国立国際医療研究センター研究所熱帯医学・マラリア研究部
石上盛敏

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