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アニサキスとアニサキス食中毒

(IASR Vol.46 p3-4:2025年1月号)

はじめに

アニサキスを原因とする食中毒(アニサキス食中毒)は、2013年より厚生労働省の食中毒統計において個別集計される食中毒となっている。2018年以降、本食中毒は食中毒の中で最多件数となり、2022年には全国における食中毒件数の58.8%(566/962件)にまで達した。本稿では、国内の発生状況や原因食品など、アニサキス食中毒の現状について概説する。

アニサキスの分類と日本近海の魚介類におけるアニサキスの種類

アニサキス属(Anisakis spp.)線虫はクジラやイルカ等を終宿主とする寄生虫で、これまで主に9種が知られている。魚介類に寄生するアニサキス第3期幼虫(以下、アニサキスとする)は、形態の違いから6種(A. simplex sensu stricto、A. pegreffiiA. barlandiA. typicaA. ziphidarumA. nascettii)が1型幼虫、他の3種(A. physeterisA. brevispiculataA. paggiae)はそれぞれ2、3および4型幼虫に分類される。しかしながら、近年、アニサキス2-4型幼虫の3種は、1型幼虫と形態学的・遺伝学的な相違からSkrjabinisakis属に再分類されるという報告1)がなされ、今後は1型幼虫6種が狭義のアニサキス属線虫とされると考えられる。

日本近海の魚介類においては、太平洋側やオホーツク海で漁獲されるものにはA. simplex sensu stricto(As)、日本海側・東シナ海ではA. pegreffii(Ap)が主に寄生している。また、太平洋側で漁獲される魚でもキンメダイやアカムツのような深海魚においては、Asは少数で、主にA. physeterissyn. S. physeteris)が寄生し、沖縄周辺で漁獲されるタチウオからは主にA. typicaが検出されている2)。しかしながら、近年、温暖化にともなう海水温の上昇や海流の変化により魚介類の生息海域に変化が生じており、魚介類に寄生するアニサキスの種類に変化が生じる可能性がある。

アニサキス食中毒とアニサキスの種類

アニサキス食中毒は、アニサキスが寄生した魚介類の刺身、マリネなどの喫食により、多くが喫食後12時間以内に主に激しい腹痛をともなう胃腸炎症状を呈する。国内のアニサキス食中毒はAsが主な病因物質と考えられており、2011~2023年に当センターに検査依頼のあったヒト由来虫体の94.2%がAs、4.3%がApと同定されている()。マサバのアニサキス寄生調査において、内臓から筋肉部位への虫体の移行率がAsの方がApより約100倍高い結果が得られており3)、そのためヒト由来虫体にAsが多いと考えられる。また、アニサキス食中毒は他の細菌やウイルスによる食中毒と異なり、国内報告事例の97%が患者1名の孤発例である。また、他の食中毒と比較して原因施設が家庭のことが多く、そのため外食が自粛されたコロナ禍においても、他の食中毒件数が減少する中、アニサキス食中毒はほとんど減少していない。

また、アニサキス科シュードテラノーバ属線虫(Pseudoterranova spp.)はアザラシやトドを終宿主とし、魚介類にその第3期幼虫が寄生している。終宿主の生息域から主に北海道周辺の魚介類にP. azarasiの寄生が認められる。本幼虫も胃腸炎の原因となることが知られているが、アニサキスの場合と症状が異なり、腹部疼痛が軽く、嘔吐や吐き気が強いのが特徴とされる。また、魚介類にはコントラシーカム属などのアニサキス科線虫も認められるが、ヒトへの感染例は極めて稀である。

アニサキス食中毒の原因食品

都内流通の魚介類におけるアニサキスの寄生調査では、様々な種類の海産魚介類に寄生が認められている。その一方で、都内食中毒事例の原因食品はサバが最多で、年間を通じて報告が認められており、他にアジ、サンマ、カツオ、ヒラメなどの報告例もあるが魚種は限定的である4,5)。また、同一魚種を原因とするアニサキス食中毒が同時期に全国で発生することは極めて稀であるが、2018年4~5月にカツオを原因食品としたアニサキス食中毒が全国で散発的に報告された。これは、黒潮の大蛇行により伊豆諸島周辺海域で海水温が高い状態が続き、2018年4~5月にこれまでにないカツオの大きな漁場が本州に近い伊豆諸島周辺海域に形成されたことが背景にあり、同海域で漁獲されたカツオにAsが高率に寄生しており、それらが全国に流通したためアニサキス食中毒が急増したと考えられている5)

ほとんどのアニサキス食中毒は天然魚介類の喫食によるものであるが、近年、養殖マサバの喫食が原因と考えられた事例が都内で数例発生している6)。2019~2020年に実施した養殖マサバの寄生調査では、天然種苗による畜養魚の場合では高率にアニサキスの寄生が認められており、中には虫体が腹腔だけではなく筋肉中にも移行していることが明らかとなった7)。その一方、卵からの完全養殖マサバには寄生が認められず、人工飼料を用いた完全養殖魚についてはアニサキス寄生の可能性は極めて低いと考えられる。

食中毒防止対策と今後の課題

魚介類の生食によるアニサキス食中毒の防止対策として、前述の完全養殖魚の利用や中心温度が-20℃以下で24時間以上の冷凍処理が最も有効である。海外でも国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)によるCODEX、欧州連合委員会(EU Commission)、米国食品医薬品局(FDA)がそれぞれ冷凍条件に関する基準を示している8-10)。また、アニサキスは魚の内臓から主に腹側筋肉(ハラス)に移行することから、ハラスを取り除くこともアニサキス食中毒防止対策に一定の効果があるが、サバやシロザケなどでは虫体が背側筋肉まで移行している場合がある。さらに、カツオのアニサキス寄生調査において、漁獲直後の筋肉中からも虫体が検出されたため、魚種によっては魚の生時にアニサキスが腹腔から筋肉に移行していることから、低温(チルド)流通の徹底だけではアニサキス食中毒が防止できないことがある5)。そのような中、近年では鮮度を落とさないという凍結方法が検討され製品化されたものや、鮮魚に瞬間的な高圧電流を流すことによりアニサキスを死滅させる方法が考案されており、今後、事業者におけるアニサキス対策が大きく進展する可能性がある。

各自治体の保健所に届出がなされるほとんどのアニサキス食中毒は、激しい腹痛をともなう胃腸炎患者から虫体が摘出された事例である。その一方で、蕁麻疹、血管浮腫、呼吸苦などの症状を呈するアニサキスを原因としたアレルギーについては、実態把握と対策が今後の食品衛生上の課題である。

参考文献

  1. Takano T & Seta N, Parasitol Int 91:102631, 2022
  2. Suzuki J, et al., Food Safety 9:89-100, 2021
  3. Suzuki J, et al., Int J Food Microbiol 137:88-93, 2010
  4. 神門幸大ら、日本臨床寄生虫誌 34:67-69, 2023
  5. Murata R, et al., Int J Food Microbiol 337:108930, 2021
  6. 神門幸大ら, 日本臨床寄生虫誌 29:83-85, 2018
  7. Kodo Y, et al., Int J Food Microbiol 404:110347, 2023
  8. FAO and WHO, Code of Practice for Fish and Fishery Products:342-348, 2020
  9. EU OJ, Commission regulation No 1276/2011
  10. FDA, Fish and fishery products hazards and controls guidance, 2022 Edition, 91-98, 2024
    https://www.fda.gov/media/80777/download(外部サイトにリンクします)(PDF:1.94MB)

東京都健康安全研究センター
鈴木 淳 村田理恵 神門幸大 森 功次 貞升健志

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