2024年米国における乳牛の鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)感染事例
(IASR Vol. 45 p194-195: 2024年11月号)
2024年3月25日、米国カンザス州とテキサス州の病牛由来の生乳から、高病原性鳥インフルエンザ(highly pathogenic avian influenza: HPAI)ウイルスA(H5N1)が確認され、その後、米国内の複数の州で乳牛の感染の報告が相次いでいる。本稿では、A(H5N1)感染牛が確認されたことを受け、米国で実施されている牛への対策を中心に述べる。
病原体
現時点で確認されているウイルスは、世界の主流となっているクレード2.3.4.4b(遺伝子型B3.13)であり1)、このクレードは米国以外でも鳥以外の野生哺乳類や家畜ヤギへの感染も報告されている。現時点では、ヒトへの感染性に影響を与えるような遺伝子変異については確認されていない2)。
症状
感染牛の症状は、乳量減少、乳の粘調性増加、食欲減退、下痢、発熱等、と一般的に軽症で、ほとんどが5~14日以内に回復する。症状から診療に繋げることが重要と考えられるが、無症状の感染牛も確認されている1)。
分布・疫学
2024年9月24日時点で、14州の238牛群で感染が確認されている3)。プレプリント論文の遺伝子解析によると、A(H5N1)亜型ウイルスの米国の乳牛への侵入は、2023年12月に野鳥から起こった可能性がある4)。感染牛の乳汁は高いウイルス力価が確認されており1,5)、同一牛群内の水平伝播経路については、経鼻接種と乳房内接種の実験感染の結果から、搾乳作業による可能性が高いことが示唆される5)。州間・農場間の感染拡大については、牛の移動のほか、車両や農業用機械などを介しての人の関与が考えられる1)。なお、全米の小売乳検体を用い2024年5月と8月に計2回の検査が行われた。合計464検体中89検体からウイルスRNAが確認され、広範囲での感染が示唆されたが、鶏卵培養は陰性であったことから、ウイルスは殺菌によって感染性が失われていることが示唆されている6)。
感染拡大防止
農務省(USDA)と米国疾病予防管理センター(CDC)では、酪農関係者等に対しバイオセキュリティの強化を求めており3)、これには、発症動物の隔離および獣医師への連絡を含む。さらに、USDAは、2024年4月24日、搾乳中の乳牛の州間移動前の検査および家畜のインフルエンザウイルス陽性結果の獣医師の報告義務を定めた連邦命令を発表し3)、感染拡大防止と摘発強化を図っている。
感染牛のほとんどは回復するため、現時点では殺処分は行われていない3)。また、現在、USDAでは、乳牛へのA(H5N1)インフルエンザワクチン接種を検討しており、野外試験申請の受付を開始している7)。
食品への影響
乳および乳製品については、基本的に病牛からの搾乳は行われないことに加え、米国の法で定められた殺菌条件(63℃30分または72℃15秒)でウイルスは不活化される6)ため、米国食品医薬品局(FDA)は流通品を安全としている。なお、日本の乳の9割超の流通品は、より殺菌効率の高い120℃以上1~3秒殺菌を採用している。
食肉について現在、肉牛でのHPAIは確認されていないが、USDAは、肉牛農家にも病牛がみられた場合の隔離および獣医師への連絡について通知している。また、米国農務省食品安全検査局(USDA-FSIS)はと畜過程の乳牛の筋肉を検体としてウイルスの検査を行っており、96検体中1検体からウイルス粒子を検出したことを2024年5月22日に発表した3)。FSISは、牛のHPAIについて、通常のと畜検査によりフードチェーンからの排除を行う方針3)だが、本検査結果を踏まえ、2024年9月16日から、米国の食品の病原体・残留化学物質検出プログラムの検体牛肉を用い、HPAIの検査を行うこととしている3)。
他の動物やヒトへの感染
動物については、未殺菌乳を与えられた猫などの小型哺乳類に感染がみられており、乳牛からの感染が示唆されている1)。ヒトについては、2024年9月30日時点で、乳牛からの感染が疑われる症例が、農場関係者において4例報告されている2)。CDCでは、これらの症例の接触者や感染動物に曝露があった者について、4,900人以上を監視し、うち230人以上が検査を受けたが、上記以外の症例はみつかっていない。CDCは2024年9月27日時点でH5N1鳥インフルエンザによる一般市民への直接的なリスクは低いままとしている2)。
このように、米国は乳牛へのHPAI感染に対して、ワンヘルスアプローチによる対応を継続している。
参考文献
- Caserta LC, et al., Nature 634: 669-676, 2024
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07849-4(外部サイトにリンクします) - CDC, Current H5N1 Bird Flu Situation in Dairy Cows
https://www.cdc.gov/bird-flu/situation-summary/mammals.html(外部サイトにリンクします) - USDA, Detections of Highly Pathogenic Avian Influenza (HPAI) in Livestock
https://www.aphis.usda.gov/livestock-poultry-disease/avian/avian-influenza/hpai-detections/livestock(外部サイトにリンクします) - Nguyen TQ, et al., bioRxiv 2024.05.01.591751, 2024
https://doi.org/10.1101/2024.05.01.591751(外部サイトにリンクします) - Halwe NJ, et al., Nature, 2024
https://doi.org/10.1038/s41586-024-08063-y(外部サイトにリンクします) - FDA, Updates on Highly Pathogenic Avian Influenza (HPAI)
https://www.fda.gov/food/alerts-advisories-safety-information/updates-highly-pathogenic-avian-influenza-hpai(外部サイトにリンクします) - USDA, CVB Notice 24-13: Field Studies with Nonviable, Non-replicating Veterinary Vaccines Targeting Highly Pathogenic Avian Influenza in Livestock
https://www.aphis.usda.gov/news/program-update/cvb-notice-24-13-field-studies-nonviable-non-replicating-veterinary-vaccines(外部サイトにリンクします)
国立感染症研究所
実地疫学専門家養成コース
中満智史
実地疫学研究センター
島田智恵 砂川富正