2023年の日本の新規未治療HIV感染者・AIDS患者における薬剤耐性変異の動向
(IASR Vol. 45 p169-170: 2024年10月号)
抗HIV治療歴のないHIV感染者・AIDS患者において、 薬剤耐性変異をもつHIVが検出される場合があり、 これらの伝播性薬剤耐性および治療前薬剤耐性の動向は初回推奨抗HIV療法の選択や予防投与の選択に必要な基礎情報である。
全国の医療機関の協力のもと、 2003年から研究班において、 新規未治療HIV感染者・AIDS患者の薬剤耐性変異の動向調査を伝播性薬剤耐性サーベイランスとして行っている1)。2023年(1~12月)は350例の新規未治療登録例のHIV-1プロテアーゼ(PR)・逆転写酵素(RT)領域、 インテグラーゼ(IN)領域の塩基配列を解析した。2023年にエイズ発生動向調査で報告されたHIV感染者とAIDS患者を合わせた新規報告数を分母とすると、 約36.5%に相当する。
2023年新規登録例のHIV-1サブタイプ・CRF(circulating recombinant form)はB: 78.0%、 CRF01_AE: 14.0%、 CRF07_BC: 1.4%、 C: 1.1%、 GまたはCRF02_AG: 0.3%、 A: 0.3%、 他のCRF・URF: 4.9%であった。
本邦での新規未治療HIV感染者・AIDS患者のサーベイランスのための薬剤耐性変異保有率の2003~2023年の動向を図に示す。サーベイランスのための薬剤耐性変異のリストは、 世界保健機関(WHO)のワーキンググループにより作成されたリスト2,3)に従った。核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)、 非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)、 プロテアーゼ阻害薬(PI)、 インテグラーゼ阻害薬(INSTI)の4クラスのいずれかにサーベイランスのための薬剤耐性変異を保有する率は2023年は9.4%(33/350)であった。
2023年の薬剤クラス別内訳ではNRTI 6.0%(21/349)、 NNRTI 2.0%(7/349)、 PI 1.4%(5/350)、 INSTI 0.6%(2/349)であった。変異の内訳を表1に示す。NRTIのラミブジン(3TC)やエムトリシタビン(FTC)に対する耐性変異であるM184Vは4件(1.1%)検出され、 保有率としては2003年以降最も高かった。古い世代のPIに対する耐性変異のM46I/L、 NRTIのジドブジン(AZT)などに対する耐性変異の復帰変異であるT215C/D/E/S/I/V(T215X)、 INSTIに対するアクセサリー耐性変異であるE138Kなどは本邦で伝播クラスタを形成している。その他、 表1にリストされていないpolymorphic mutationも含めたminor mutationを表2に示す。
M184Vの近年の増加については、 HIV曝露前予防内服(pre-exposure prophylaxis: PrEP)開始前にHIV検査を確実に行うことと定期的なHIV検査を受ける必要性についてあらためて注意喚起が必要である。国内流行株の動向の変化とともに、 PrEPの普及や抗HIV薬の使用動向等の影響を受け、 本邦の薬剤耐性動向は変化していく可能性があり、 引き続き注視する必要がある。
本研究は日本医療研究開発機構 エイズ対策実用化研究事業「国内流行HIV及びその薬剤耐性株の長期的動向把握に関する研究」により行われた。研究班の分担・協力機関をはじめ、 多くの医療機関の先生方、 HIV陽性者の皆様にご協力をいただいたことを感謝いたします。
参考文献
- 薬剤耐性HIVインフォメーションセンター
https://www.hiv-resistance.jp/research01.htm(外部サイトにリンクします) - Bennett DE, et al., PLoS ONE, e4724, 2009
- Tzou PL, et al., J Antimicrob Chemother 75: 170-182, 2020
- Stanford University, HIVDB Algorithm, Version 9.6
https://hivdb.stanford.edu/page/algorithm-updates/(外部サイトにリンクします)
国立感染症研究所エイズ研究センター
菊地 正
薬剤耐性HIV調査ネットワーク1)