感染症発生動向調査におけるHIV感染症の診断時の症状の有無, HIV感染初期と推測された記載についての集計
(IASR Vol. 45 p162-163: 2024年10月号)
背景
厚生労働省エイズ動向委員会による令和5(2023)年エイズ発生動向年報1)によると、 2019年と比較し2020~2022年において、 保健所等でのHIV検査数が大幅に減少し(本号3ページ図8参照)、 HIV感染者およびAIDS患者の年間新規報告数は、 2020年以降、 大きく減少する年と、 増加する年がみられている。
HIV検査機会の減少により、 診断の遅れが生じうる影響については、 診断時のCD4値の動向や、 2020年以降の新規報告者数に占めるAIDS患者の割合の増加に表われている可能性がある。一方で、 2020年以降、 最近の感染事象の動向に大きな変化があった場合に、 検査機会の減少により、 それを十分にとらえられていない可能性については、 感染初期のHIV感染者の診断数など、 別の指標を評価する必要がある。血清学的手法を用いた感染初期の定量的評価は、 保健所等での検査について研究班で行われている2)。一方で、 全数届出であるHIV感染症の発生届3)においては、 医師が急性HIV感染症や感染初期と推測した場合に自由記載されることがあり、 これらの届出情報を評価することも重要と考えられる。また、 新規に診断されたHIV感染者に何らかの症状があったかについての情報も、 重要な基礎情報である。2020年までのこれらの集計は過去に報告しているが4)、 今回、 2023年までのデータについて集計を行った。
方法
感染症発生動向調査に登録された情報に基づき、 2009~2023年に報告された発生届における診断時の症状の有無、 HIV感染初期と推測された記載等について集計した。
「診断時の症状有」は、 発生届で「診断時の症状」が「有」として報告されたものとした。「HIV感染初期と推測された記載」とは、 診断時の症状の有無にかかわらず、 発生届に「急性」、 「acute」、 「感染初期」等、 または、 HIV-1抗体の確認検査について「判定保留」、 「陰性」等の記載があり、 HIV感染初期と推測された記載内容があるものとした。HIV感染初期ではなく、 他の急性期疾患として「急性」等の語が使用されているものは除外した。
集計にあたり、 感染症発生動向調査に登録されたデータにおいて、 「疾病共通備考」、 「病型(入力値)」、 「症状: 有(入力値)」、 「確認検査: 3その他(入力値)」に記入された自由記載を確認した。
また、 発生届には「感染したと推定される年月日」の欄があり、 これが「診断年月日」から6カ月以内であるものについてもあわせて集計を行った。
エイズ発生動向調査と同様に、 報告日を基準として、 報告年別、 HIV感染者・AIDS患者別に集計した。国籍・性別には、 新規報告数の多い日本国籍男性と外国国籍男性を分けた集計も行った。
本報告は2024年9月4日現在の感染症発生動向調査登録データに基づく集計のため、 各年に翌年4月頃時点の登録データに基づいて集計を行うエイズ発生動向年報の年間新規報告数とは乖離が生じる場合がある。
結果
発生届における診断時の症状の有無、 HIV感染初期と推測された記載等の集計を表1~3に示す。HIV感染者新規報告のうち、 「診断時の症状有」と報告された割合は2020年: 11.4%(85/748)、 2021年: 12.8%(95/742)、 2022年: 12.3%(78/632)、 2023年: 10.2%(68/669)であった。「HIV感染初期と推測された記載」のあった割合は2020年: 5.5%(41/748)、 2021年: 6.2%(46/742)、 2022年: 5.5%(35/632)、 2023年: 4.0%(27/669)であった。このうち、 「抗体確認検査判定保留または陰性等の記載」のあったものは2020年: 5件、 2021年: 3件、 2022年: 1件、 2023年: 1件であった。また、 「HIV感染初期と推測された記載または診断日から6カ月以内の日付での推定感染年月日記載」のいずれかがあったものは、 2020年: 14.6%(109/748)、 2021年: 16.0%(119/742)、 2022年: 14.7%(93/632)、 2023年: 15.1%(101/669)であった。
外国国籍男性は日本国籍男性と比較して、 「診断時の症状有」の割合や、 「感染初期と推測された記載」のある割合は低い傾向にあった。
AIDS患者については表を省略するが、 「診断時の症状有」の割合は2020年以降もそれまでと同様に各年で99%以上、 「感染初期と推測された記載」は2020年以降0件、 「感染初期と推測された記載または診断日から6カ月以内の日付での感染推定年月日記載」のいずれかがあった割合は、 2020年以降もそれまでと同様に約2%以下であった。
まとめ
2021年に「感染初期と推測された記載」の割合がわずかに増加(全体で5.5%→6.2%、 日本国籍男性で6.4%→7.3%)した。その他については、 2020年以降の「診断時の症状有」の割合や、 「HIV感染初期と推測された記載」のある割合について、 2019年までと比較して明らかな上昇はみられなかった。
ただし、 発生届の診断時の症状欄は記載されていない場合があること、 HIV感染初期と推測された記載については発生届の自由記載欄に基づく集計であること、 HIV感染初期と推測した根拠や推定感染年月日の根拠は様々であると考えられること、 2022年頃から抗体確認検査に使用される検査キットがウエスタンブロット法からイムノクロマト法に切り替わった影響で感染早期を疑う根拠の1つとなる抗体確認検査判定保留の期間が短縮したこと、 などに留意する必要がある。より詳細には、 その他の血清学的手法による調査等もあわせて評価する必要がある。
謝辞: 感染症発生動向調査に御協力いただきました保健所、 地方衛生研究所、 自治体本庁、 医療機関の皆様に深く感謝申し上げます。
参考文献
- 厚生労働省エイズ動向委員会, 令和5(2023)年エイズ発生動向年報(1月1日~12月31日)
https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/nenpo.html(外部サイトにリンクします) - Matsuoka S, et al., Prev Med Rep 16: 100994, 2019
- 厚生労働省, 後天性免疫不全症候群発生届(HIV感染症を含む)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/pdf/01-05-07-3-b.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:639KB) - 国立感染症研究所, 感染症発生動向調査における診断月別HIV感染者・AIDS患者新規報告数, 診断時の症状の有無, HIV感染初期と推測された記載についての集計
エイズ研究センター
感染症疫学センター