海外の麻疹―2023年の流行状況について(2024年6月現在)
公開日:2024年9月20日
(IASR Vol. 45 p154-155: 2024年9月号)
2023年は、世界保健機関(WHO)が分類する6つの地域のうちアメリカ地域以外のすべての地域で麻疹症例の増加が観察され、全麻疹症例数は2022年に比べて64%増加し322,216例であった(疑い症例数615,583例)1)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響による予防接種活動の遅れにより、2021年には世界の麻疹初回予防接種率が約81%となり、2008年以降で最低となった。このため、感染しやすい人口が蓄積し、世界中でより大きな麻疹流行のリスクが高まっている。2022年には、推定136,000人が麻疹で死亡しており、そのほとんどが5歳未満の小児であった。なお、2024年6月の時点で、すでに178,381例の報告があがっている。現在、世界各国で流行しているウイルスの遺伝子型はB3型、D8型の2種類のみである。本稿では、WHOの6地域における2023年の麻疹流行状況およびその遺伝子型について報告する。
アメリカ地域(AMR)
2023年の症例報告数2)は43例で、米国の41例が最多で、コスタリカとチリが1例ずつの報告数にとどまった。AMRでのウイルスの遺伝子型は、B3型とD8型が混在していた。汎米保健機構(PAHO/WHO)は、2023年2月および10月に麻しん、風しんの1回目と2回目の予防接種率の低下について警告を発した。2024年に入り、米国では輸入例にともなうアウトブレイクが複数発生し、4月までの報告数は131例である。
ヨーロッパ地域(EUR)
2020年に12,202例の症例報告があったが、2021年と2022年は1,000例以下に減少した。ところが2023年は53カ国中41カ国で麻疹が発生し、報告数は61,070例と急増した3)。2023年に報告された症例の半数近くが5歳未満の小児で発生しており、2020年のCOVID-19流行時に定期予防接種を受けなかった小児が蓄積し、2021年と2022年にワクチン接種率の回復が遅れたことを反映している。症例数の多い国は、カザフスタン(15,111例)、アゼルバイジャン(13,728例)、ロシア(12,928例)であった。検出されたウイルス遺伝子型はB3型とD8型が混在していた。2024年も多くの国で流行が継続しており、5月時点におけるEURの症例報告数は56,634例と、前年同期を大幅に上回っている。アゼルバイジャン、キルギスは現在世界で麻疹罹患率が高い国である。
西太平洋地域(WPR)
2021年(1,080例)と2022年(1,391例)は麻疹感染のレベルが低かったが、2023年には5,743例に急増した4)。COVID-19流行時の麻しんワクチン接種の減少により、この地域の360万人の小児が2020~2022年にかけて定期予防接種を受けられなかった。症例数が多い国は、フィリピン(2,887例)、マレーシア(2,002例), 中国(648例)であった。流行しているウイルス遺伝子型は、B3型とD8型が混在しているが、D8型が圧倒的に多い。2024年5月時点におけるWPRの症例報告数は5,074例で、フィリピン(2,655例)、マレーシア(2,008例)、中国(219例)で流行が継続している。
南東アジア地域(SEAR)
インドとインドネシアで大規模な流行状態が続いており5)、2023年にインドで68,889例の報告があった。インドでは2019~2021年にかけて、3歳までに麻しんワクチンを2回接種した小児の割合は56%に過ぎなかった。感染者の多くは10歳未満で、流行しているウイルス遺伝子型はD8型であった。なお, 2024年5月時点におけるインドの症例報告数は13,618例となっている。インドネシアの2023年の報告数は19,879例で、2024年現在も流行が続いている(1,392例)。インドネシアにおける麻しんワクチンの第1期, 第2期の接種率は, 2022年で84%, 67%であった。
東地中海地域(EMR)
麻しんの初回予防接種を受けられなかった小児の数は、2019年の300万人から2022年には316万人に増加し、2回目の接種を受けられなかった小児はさらに500万人いる。2019年以降、ワクチン接種歴のない小児の数は累計で1,300万人になる。これらの小児たちの2/3以上が、アフガニスタン、パキスタン、ソマリアに住んでいる6)。2023年の症例報告数は90,876例であった。報告数の多い国は、イエメン(49,571例)、パキスタン(17,515例)、イラク(9,666例)、スーダン(4,429例)、アフガニスタン(2,529例)、サウジアラビア(2,162例)、ソマリア(1,781例)であった。流行しているウイルス遺伝子型は, 主にB3型であった。2024年6月時点においても多くの国で流行が続いている。イエメンは現在世界で麻疹罹患率が高い国の1つである。
アフリカ地域(AFR)
2022年から麻疹の発生が急増しており、2021年と比較して400%増加した7)。COVID-19による混乱により、多くのアフリカ諸国では予防接種活動の中断を余儀なくされ、2020年には約2,300万人の小児が麻しんワクチンを含む、すべての基本的な小児ワクチンを受けられなかった。2019年にはAFRの6カ国が麻しんワクチン1回目の接種率95%を達成したが、2020年にこの目標を達成したのはわずか3カ国であった。2022年、AFRにおける麻しん含有ワクチンの1回目の接種率は69%と推定され、2019年の水準を下回った。AFRでの症例報告数は73,443例で、報告数の多い国は、エチオピア(16,505例)、ナイジェリア(12,224例)、コンゴ民主共和国(10,701例)、カメルーン(6,175例)であった。流行しているウイルス遺伝子型は、主にB3型である。2024年6月時点においてAFRでの報告数は44,366例となっており、多くの国で流行が続いている。
参考文献
- WHO, Provisional monthly measles and rubella data
https://www.who.int/teams/immunization-vaccines-and-biologicals/immunization-analysis-and-insights/surveillance/monitoring/provisional-monthly-measles-and-rubella-data(外部サイトにリンクします) - WHO PAHO, Measles/Rubella bi-Weekly Bulletin
https://www.paho.org/en/measles-rubella-weekly-bulletin(外部サイトにリンクします) - WHO, Measles and rubella monthly update - WHO European Region - April 2024
https://www.who.int/europe/publications/m/item/measles-and-rubella-monthly-update---who-european-region---april-2024(外部サイトにリンクします) - https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/375987/Measles-Rubella-Bulletin-2024-Vol-18-No-06.pdf(外部サイトにリンクします)(PDF:1,934KB)
- WHO, Expanded programme on Immunization (EPI) factsheet 2023: SEAR
https://iris.who.int/handle/10665/375314(外部サイトにリンクします) - WHO EMR, Immunization in the Eastern Mediterranean Region: some signs of post-COVID-19 recovery, but more work ahead
https://www.emro.who.int/emhj-volume-29-2023/volume-29-issue-9/immunization-in-the-eastern-mediterranean-region-some-signs-of-post-covid-19-recovery-but-more-work-ahead.html(外部サイトにリンクします) - WHO AFR, Vaccine-preventable disease outbreaks on the rise in Africa
https://www.afro.who.int/news/vaccine-preventable-disease-outbreaks-rise-africa(外部サイトにリンクします)
田原舞乃 大槻紀之 梁 明秀