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デング熱の実験室診断

公開日:2024年8月29日

(IASR Vol. 45 p145-146: 2024年8月号)

デング熱は蚊媒介性の急性熱性疾患であり、 世界の熱帯、 亜熱帯地域で流行している。そのためデング熱の臨床診断には、 デング熱の流行地域を2週間以内に渡航した経歴があること、 あるいはこの地域からの訪問者であること、 などの確認が参考となる。また、 近年デング熱の国内症例も報告されているため、 蚊の活動が活発な時期にその症状からデング熱が疑われる場合は、 患者の渡航歴の有無にかかわらず実験室診断を実施するべきである。デング熱の確定診断には、 病原体検査あるいは血清学的検査等の実験室診断が必須である。病原体検査にはウイルス分離、 ウイルス遺伝子検査、 NS1抗原検査、 血清学的検査には抗デングウイルス特異的IgM抗体検査、 抗デングウイルス特異的IgG抗体検査、 中和抗体検査、 等がある。デング熱患者の血清中に含まれるデングウイルスは発症前より上昇し始め、 第1~5病日頃まで高い力価を示す1)。デングウイルス由来の非構造蛋白質であるNS1抗原は発症直前から徐々に血清中で認められ、 第9病日頃まで高濃度に維持される。またIgM抗体は第3~5病日頃から上昇し始め、 その後、 数カ月間維持される1,2)。一方、 IgG抗体は第7病日頃から徐々に上昇し始める。これらの経過は、 再感染の患者では異なった動態を示す場合がある1)。再感染の患者では、 IgG抗体が第3病日頃から検出され、 初感染よりも早期に誘導される場合がある。

感染初期である第5~7病日頃までは、 遺伝子検査としてreal-time RT-PCR法が用いられる。real-time RT-PCR法はウイルス遺伝子を検出する方法で、 信頼性の高い診断法である。検出感度、 特異度とも高く、 血清型特異的なプライマーを使用することでウイルス型を判別することができる3)。同様に、 感染初期から第9病日頃まで抗原検査としてNS1抗原検出迅速診断イムノクロマト法やNS1-ELISA法が診断に用いられる。NS1抗原検出迅速診断イムノクロマト法は簡便な検査法で、 短時間で診断結果を得ることができる。ところで、 再感染の患者ではNS1の検出率が低いことに注意する必要がある。これは急性期に抗NS1特異的IgG抗体が血中に誘導されるために、 NS1との免疫複合体を形成するためである1)。NS1の検出感度は検査試薬によっても異なり、 NS1が検出されないことが必ずしもデング熱を否定するものではない4,5)。国内ではNS1-ELISA法およびNS1抗原検出迅速診断イムノクロマト法による検査試薬が「医薬品、 医療機器等の品質、 有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年八月十日法律第百四十五号)」上の製造販売承認を取得している。

第3~5病日から、 血清学的診断としてIgM-ELISA法、 IgMイムノクロマト法が有用である。IgM-ELISA法は急性期において検出率が低い可能性があるものの、 一般的に診断で用いられる。また、 IgMイムノクロマト法は、 短時間で診断結果を得ることができる6)。IgG-ELISA法も一般的に用いられる診断法であり、 再感染の患者では急性期からIgG抗体が検出可能である7)。ところで、 抗体検査は患者の過去のフラビウイルス感染歴やワクチン接種の影響を受ける可能性がある7)。また、 わが国は日本脳炎の流行地域であるので、 日本脳炎ウイルスに対する交差反応にも注意が必要である1)。中和試験は、 血清中に存在する抗体のデングウイルス中和能を評価する試験であり、 最も信頼性が高い診断法の1つである。ペア血清による中和抗体価の陽転、 あるいは中和抗体価の4倍以上の上昇を指標とする。この検査は、 デングウイルスの血清型別判別および他のフラビウイルス感染との鑑別診断にも有用である。しかし本試験は専門的な人材、 バイオセーフティレベル2実験施設および時間を必要とする。このことから一般的な診断には用いられない。近年、 酵素結合免疫吸着スポットアッセイやELISAマイクロ中和試験などの次世代の中和試験の開発が進んでいる3)

以上をふまえ、 デング熱の確定診断はデング熱の臨床学的特徴が認められ、 感染症法に基づく医師および獣医師の届出基準に沿って、 次のいずれかの基準により行う(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-19.html(外部サイトにリンクします))。まず、 1)患者検体から病原体が分離・同定されること、 2)患者検体からRT-PCR法により病原体の遺伝子が検出されること、 3)患者血清中に非構造蛋白抗原(NS1)が検出されること、 4)IgM抗体の検出(ペア血清による抗体陽転または抗体価の有意の上昇)、 あるいは5)中和試験または赤血球凝集阻止法による抗体の検出(ペア血清による抗体陽転または抗体価の有意の上昇)、 が確認されることとされている。

ところで、 デング熱は特異的な症状に乏しいため、 チクングニア熱やジカウイルス感染症等との類似点が多く、 実験室診断による鑑別が必須である。またその他の熱性疾患との鑑別も重要であり、 特に中南米ではオロプーシェ熱がデング熱との鑑別疾患として近年注目されている8)。そのため、 デング熱の診断は臨床症状だけでなく、 遺伝子検査、 抗原検査、 血清学的検査の結果とともに総合的に判断したうえで行う必要がある。

参考文献

  1. Muller DA, et al., J Infect Dis 215: S89-S95, 2017
  2. Beltrán-Silva SL, et al., Rev Med Hosp Gen (Mex) 81: 146-153, 2018
  3. Harapan H, et al., Viruses 12: 829, 2020
  4. Ruchusatsawat K, et al., Sci Rep 12: 17299, 2022
  5. 田島 茂ら, 日本臨床 74: 2042-2046, 2016
  6. Hunsperger EA, et al., PLoS Negl Trop Dis 8: e3171, 2014
  7. Peeling RW, et al., Nat Rev Microbiol 8: S30-8, 2010
  8. Wesselmann KM, et al., Lancet Infect Dis 24: e439-e452, 2024

国立感染症研究所ウイルス第一部
西山祥子 林 昌宏 田島 茂 中山絵里 海老原秀喜

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