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デング熱ワクチンの現状について

公開日:2024年8月29日

(IASR Vol. 45 p137-138: 2024年8月号)

デング熱ワクチンを開発するうえでの最重要課題は、 ワクチン接種により、 逆にデング熱の重症化が引き起こされないワクチンを開発することである。デングウイルスには4種類の血清型(DENV-1、 DENV-2、 DENV-3、 DENV-4)があるが、 血清型間の免疫交差性は高くない。よって異なる血清型による2回目の感染時には、 初回感染時の血清型ウイルスに対する抗体が、 防御ではなくむしろ増強に働いてしまう可能性がある。この現象は抗体依存性感染増強(ADE)と呼ばれ、 重症化デング(デング出血熱、 デングショック症候群)の主要因の1つと考えられている1)。よって、 ワクチン接種により、 4つの血清型に対して同様に免疫が誘導されなければならず、 このことがデング熱ワクチンの開発を困難にする一因となっている2)

2024年6月現在までに、 2種類のデング熱ワクチン、 Denguvaxia(R)とQDENGA(R)が上市されている。

Denguvaxia(R)(CYD-TDV)は、 サノフィパスツール社より世界で最初に承認されたデング熱生ワクチンであり、 黄熱ウイルス生ワクチン株YF17D株をバックボーンとして、 前駆膜タンパクおよびエンベロープタンパクをコードする領域(prM/E領域)を、 4種類のデングウイルス血清型の同領域に置換(遺伝子組換え)することにより作製された、 4種類のキメラウイルスの混合物(4価生ワクチン)である。6カ月の間隔をあけて計3回接種する。CYD-TDVは2015年12月にメキシコで最初に認可され、 これまでに20を超える国と地域で認可されている。しかし接種後の長期追跡調査結果では、 抗デングウイルス抗体陰性者において、 CYD-TDV接種群でのデングウイルス感染による入院リスクは、 非接種群での入院リスクに比べ高い傾向が示された3)。このことは、 デングウイルス感染歴がない人に対しては、 CYD-TDV接種がむしろADEを誘発しやすい可能性を示唆する。また、 CYD-TDVのバックボーン(非構造タンパクコード領域)が黄熱ウイルスであることが、 デングウイルスに対する免疫誘導能に影響する可能性も指摘されている4)。一方で、 抗デングウイルス抗体陽性者においては、 CYD-TDV非接種群よりも接種群で入院リスクが低いことが示された。これらの調査結果を受け、 世界保健機関(WHO)は、 9~45歳、 あるいは9~60歳(選択は、 各国の判断による)のデング熱流行国および地域に居住する者のうち、 抗デングウイルス抗体陽性者に対してのみCYD-TDV接種を推奨している5)

QDENGA(R)(TAK-003)は、 武田薬品工業(インビラージェン社)が米国疾病予防管理センター(CDC)とともに開発したデング熱ワクチンである6)。CYD-TDV同様、 TAK-003もprM/E領域をデングウイルスの各血清型に置換した遺伝子組換え4価生ワクチンではあるが、 弱毒化DENV-2 PDK-53株をバックボーンに使用している。TAK-003の大きな特徴は、 ワクチン接種に際し、 感染歴や抗デングウイルス抗体有無の確認を問わない点である。TAK-003は2022年8月にインドネシアで初めて承認され、 以来、 EU、 英国、 タイ、 アルゼンチン、 ブラジルでも承認されている。一方、 米国では現在、 データ収集に関する議論の末、 自主的に承認申請を取り下げている。3カ月以上の間隔で2回接種する。WHOは、 深刻なデングウイルス蔓延地域に暮らす6~16歳の小児に対しTAK-003の接種を推奨している4)。6歳未満は効果が低いとのことで推奨外となっている。また、 妊婦や1カ月以内に妊娠を検討中の人、 授乳中の人、 後天的・先天的免疫不全の人、 免疫に異常がみられるHIV陽性の人などは接種を控える。

今後、 早期の承認が期待されるワクチンとして、 ブタンタン研究所(ブラジル)のButantan-DV(TV003/TV005)がある7)。TV003/TV005は米国国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が開発したワクチンであるが、 現在ブタンタン研究所が中心となって臨床試験を進めている。TV003/TV005も4価生ワクチンであるが、 弱毒化したDENV-1、 -3、 -4株を使用している。DENV-1、 -4は、 ウイルスゲノム上の3非翻訳領域を30塩基欠失させることにより、 DENV-3はさらに同領域内に31塩基の欠失を導入して弱毒化させている。DENV-2は、 弱毒化DENV-4をバックボーンに、 prM/E領域をDENV-2の配列に置換したキメラウイルスを採用している。本ワクチンは単回接種である。最近、 ブラジルでの第3相臨床試験結果が誌上公表された8)。2~59歳までの1万6千人を超えるワクチン接種者における2年間の追跡調査の結果、 DENV-1に対しては89.5%、 DENV-2に対しては69.6%の発症抑制効果が確認された。なお、 DENV-3、 -4に対しては、 調査地域で流行がなかったため解析不能であった。

そのほか開発途上にあるものとして、 グラクソ・スミスクライン社と米国ウォルター・リード陸軍研究所が共同開発している弱毒化4価生ワクチンTDENおよびホルマリン不活化4価ワクチンDPIV、 米国海軍医学研究センターが開発する4価DNAワクチンTVDV、 メルク社が開発中の4価サブユニットワクチンV180、 国内メーカーのKMバイオロジクスによる弱毒化4価生ワクチンKD-382などがある9,10)。またウイルス様粒子(VLP)ワクチンやmRNAワクチンなどの開発も試みられている11)

参考文献

  1. Halstead SB, et al., J Biol Med 42: 311-328, 1970
  2. Ooi EE and Kalimuddin S, Sci Transl Med 15: eadh3067, 2023
  3. Sridhar S, et al., N Engl J Med 379: 327-340, 2018
  4. Stephen JT, NJP Vaccines 8: 55, 2023
  5. WHO, Vaccines and immunization: Dengue
    https://www.who.int/news-room/questions-and-answers/item/dengue-vaccines(外部サイトにリンクします)
  6. Rivera L, et al., Clin Infect Dis 75: 107-117, 2022
  7. Kirkpatrick BD, et al., J Infect Dis 212: 702-710, 2015
  8. Kallás EG, et al., N Engl J Med 390: 397-408, 2024
  9. 前木孝洋ら, IASR 41: 99-100, 2020
  10. Yoshimura M, et al., Vaccine 39: 3169-3178, 2021
  11. Silva JP and Fernandez-Sesma A, J Gen Virol 104: 001831, 2023

国立感染症研究所ウイルス第一部
田島 茂 中山絵里 西山祥子 林 昌宏 海老原秀喜

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