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国立感染症研究所内EHECチームにおけるFETPの活動について

公開日:2024年5月29日

(IASR Vol. 45 p83-84: 2024年5月号

国立感染症研究所(感染研)実地疫学専門家養成コース(FETP)では、(原因不明の段階を含む)感染症・食中毒による公衆衛生上の健康危機事象発生時に実地疫学の手法を用いて調査・対応を実施している。また、平時から感染症発生動向調査等に報告された公式情報を監視し、メディア情報等についてもevent based surveillance(EBS)として探知し、国内外の健康危機事象に対してリスク評価を日々行っている(Epidemic Intelligence)。FETPでは、これらの研修を受けた公衆衛生人材をプールし、サージキャパシティとしてネットワーク作りを行っている。

FETPの活動の一つとして、全国の腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症については、異常な症例の集積や広域散発事例(diffuse outbreak/multijurisdictional outbreak)の検知と対応を目標として、日々の情報の監視と解析および評価を行っている。感染研内では、複数の研究部・センターがEHECに関する研究やサーベイランスに従事していることから、FETPを中心として、腸管出血性大腸菌チーム(EHECチーム)として定期的に情報交換が行われている。本稿は、EHECチームにおけるFETPの活動について紹介する。

FETPは、EHECチームにおいて、全国を視野に置いた以下の役割を主に担っている。すなわち、(1)感染症発生動向調査における特定の血清群毒素型の集積の探知、確認、(2)分子タイピングとして特定の反復配列多型解析(multilocus variable-number tandem-repeat analysis:MLVA)型の集積の確認、(3)EBSを含めた大規模・重症度の高い集団発生の探知、確認、等である。EHECに関連する異常な集積等が探知された場合、付随した疫学情報との突合・解析・リスク評価を行い、EHECミーティング()で関係者と共有し、さらに必要と考えられる公衆衛生対応について協議している。

全国の同一MLVA型の症例情報を統合することで、都道府県や保健所単位では散発例としての認識に留まった事例が、広域事例の集積の一部として判明する場合がある。広域事例の可能性が高い群として、同一MLVA型の症例に関する疫学情報の記述的な解析を行うことで、共通事項(キーワード)が見出されることがあり、その後の原因究明や感染拡大防止などの公衆衛生対策への一助となっている。

2023年度に全国の広範な自治体から同一MLVA typeが検出され、広域の散発事例として探知された事例は58件であった。そのうちEHECチームの活動が寄与して、探知および公衆衛生対応に至った広域のEHEC集積事例のうち一例を示す。

本事例は、疫学情報から自治体A管内の研修施設の利用、自治体B管内の高齢者施設の利用、自治体AとBに系列店舗がある飲食店の利用、との関連が示唆された。疫学解析した情報は、厚生労働省(厚労省)を通して自治体へ還元され、さかのぼり調査から、これらの施設が自治体Aにある同一業者のカット野菜を使用していたことが判明した。保健所は、この業者に対して衛生指導を行った。その後、本事例は最終発症日から8週間が経過したため、EHECチームでは監視を終了とした。この監視期間(調査終了の目安)に関する情報として、症例発生後、医療機関での臨床検査から地方衛生研究所での遺伝子解析、広域アウトブレイクの判定までに3~4週間かかるため最終発症日からおおむね8週間経過(判定を要す期間の2倍)とする米国の情報を参考とした。

EHEC等の広域散発事例は、単一自治体において散発的な発生にみえてしまうが、初めてアウトブレイクとして探知された段階では、既に大規模発生または重症例の集積となっている場合が過去の報告において少なくない1,2)。したがって、EHEC等の広域散発事例を早期に探知し、適切な公衆衛生対策を実施することが重要である。国内では、EHEC感染症が発生した際は、保健所における積極的疫学調査に加え、「腸管出血性大腸菌による広域的な感染症・食中毒に関する調査について(平成30年6月29日付け厚生労働省事務連絡)」(令和5年6月28日再周知)に基づいてMLVA法による分子タイピングを実施している。EHECチームにおいて、FETPは、特定の血清群毒素型の集積およびMLVA解析結果を監視し、同一MLVA型が複数みられた場合には疫学情報の解析結果をEHECミーティングにて共有し、早期対策の必要性が認められた場合には、厚労省から発生自治体への情報提供が行われてきた。今後もEHECチームに迅速探知、公衆衛生対策の一助となることを目指して活動を継続していきたい。

謝辞:厚生労働省、都道府県、保健所、地方衛生研究所、関係医療機関の皆様に深謝いたします。

参考文献

  1. 岡崎隆之, IASR 39: 74-77, 2018
  2. Neil KP, et al., Clin Infect Dis 54: 511-518, 2012

国立感染症研究所

実地疫学専門家養成コース(FETP)
高良武俊 折目郁乃 中村夏子 椎木創一 塩本高之 村井晋平
高橋佑紀 佐々木 優 千葉紘子 大沼 恵 越湖允也

実地疫学研究センター
八幡裕一郎 塚田敬子 光嶋紳吾 島田智恵 土橋酉紀 砂川富正

細菌第一部
泉谷秀昌 明田幸宏

感染症疫学センター
高原 理 小林祐介 藤田 修 高橋琢理

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