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小児感染症診療ネットワークで探知したマクロライド耐性マイコプラズマ重症肺炎の症例集積

公開日:2024年4月25日
(IASR Vol. 45 p69-70: 2024年4月号)

新興呼吸器感染症はパンデミックをもたらす可能性がある。そのため、病原体診断によらずに探知すべく、重症急性呼吸器感染症(SARI)という症候群サーベイランスを運用している国も多い。日本では感染症法第14条に基づく疑似症サーベイランスが、その役割を目的として運用されている1)。しかし、本サーベイランスは、原則として自治体によって定められた疑似症定点からの報告であり、さらに日常的な検査診断で病原体が明らかとなった感染症は対象とならない。つまり、既知の急性感染症の異常な経過や集積は探知できない。そのような事例については、主に臨床医のネットワークで情報交換がなされることも少なくない。

今回、そのようなネットワークで単一医療機関におけるマクロライド耐性マイコプラズマ重症肺炎の症例集積を探知した。国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース研修員が週1回、小児感染症診療に従事する有志のネットワークでunusual/unexpectedな症例について臨床像や治療経過の議論をしている(個人情報は含まない)。その議論を通じて、東京都立小児総合医療センター(以下、センター)において、2023年12月1日~2024年1月31日までに集中治療を要するマイコプラズマ肺炎が3例集積し、これらの症例すべてで検出されたMycoplasma pneumoniaeM. pneumoniae)がマクロライド耐性であることが判明した()。以下に症例の経過を抜粋する。

症例1

2歳女児。基礎疾患に超早産児、慢性肺疾患がある。入院5日前より発熱、咳嗽があり、呼吸状態が増悪しセンターを受診した。小児集中治療室(PICU)に入院し、気管内挿管による人工呼吸器管理を開始した。入院時の呼吸器マルチプレックスPCR検査(以下、FilmArray®呼吸器パネル2.1)でM. pneumoniaeが陽性であったことからマイコプラズマ肺炎と診断し、アジスロマイシン静注で治療した。検出されたM. pneumoniaeはのちに全自動遺伝子解析装置(以下、Smart Gene®)でマクロライド耐性と判明した。

症例2

15歳女子。生来健康。入院6日前より発熱、咳嗽があり、呼吸状態が増悪したことからセンターを受診し、PICUに入室した。FilmArray®呼吸器パネル2.1でM. pneumoniaeが陽性でマイコプラズマ肺炎と診断し、市中肺炎としてアジスロマイシンとアンピシリンの静注を開始した。入院4日目に呼吸状態が増悪し、気管内挿管による人工呼吸器管理を開始した。Smart Gene®でマクロライド耐性と判明したため、レボフロキサシン静注へ変更し、全身ステロイド薬を併用した。

症例3

3歳男児。基礎疾患に21トリソミー、先天性心疾患がある。入院7日前より発熱、咳嗽があり、努力呼吸が出現しセンターを受診した。FilmArray®呼吸器パネル2.1でM. pneumoniaeが陽性となったことからマイコプラズマ気管支炎と診断した。呼吸状態が増悪したため入院2日目にPICUに転棟し、入院3日目にSmart Gene®でマクロライド耐性と判明した。高流量酸素投与による呼吸管理とレボフロキサシン静注で治療した。
なお、小児のレボフロキサシン使用は添付文書上禁忌だが、院内の倫理委員会で承認を得て、保護者に同意を取得のうえで使用した。

マイコプラズマ肺炎は感染症発生動向調査における5類感染症(定点把握)に位置付けられ、全国約500カ所の基幹定点医療機関から週ごとの性別・年齢群別の患者数が報告される。報告内容には重症度や薬剤感受性検査の結果は含まれない2)。一般的に軽症が大半で、人工呼吸器管理や集中治療管理を要するような重症例は稀である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が開始した2020年以降、報告数は激減し、2023年11月末までは報告数が少ない状況で推移していた2)。また、国内の研究報告によると、病原体であるM. pneumoniaeは2012年頃にマクロライド耐性率が80-90%と非常に高値を示したが、その後は漸減し、2018~2020年は20-30%程度で推移した2)。一方で2023年7月以降、中国や欧州を中心にマイコプラズマ感染症患者数が増加し3)、特に近年の中国におけるM. pneumoniaeの大部分がマクロライド耐性と報告された4,5)ため、本邦におけるマクロライド耐性マイコプラズマ肺炎の発生動向が注目されていた。基幹定点医療機関からの報告数が減少している中で、重症のマクロライド耐性マイコプラズマ肺炎が短期間に単一医療機関で3例集積したことから、全国での重症度の高いマクロライド耐性M. pneumoniae感染症の発生が懸念された。

今回の症例集積は、既存の感染症発生動向調査による探知は困難であり、小児感染症診療に従事する有志のネットワークを通じて発生を探知した。医療機関の診療経験に基づく異常な感染症事例の探知は、既存のサーベイランスシステムを補完しうる重要な情報であることが示唆された。新興・再興感染症の早期探知の一翼として系統的に運用できることが望ましい。

参考文献

  1. 国立感染症研究所, 疑似症サーベイランスの運用ガイダンス(第三版)
  2. IASR 45: 1-2, 2024
  3. Sauteur PMM, et al., Lancet Microbe 5: e100-e101, 2024
  4. Li H, et al., Lancet Microbe, 2024 https://doi.org/10.1016/S2666-5247(23)00405-6
  5. Gong C, et al., Euro Surveill 29: 2300704, 2024

東京都立小児総合医療センター
感染症科 中村祥崇 堀越裕歩
集中治療科 斎藤 修
総合診療科 幡谷浩史

国立感染症研究所実地疫学研究センター
大竹正悟 島田智恵 砂川富正

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