本邦で診断されたHIV-2感染症報告例のまとめとHIV-1/HIV-2抗体確認検査
公開日:2023年10月26日
(IASR Vol.44 p157-158:2023年10月号)
市販されているヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)抗体確認検査が、ウエスタンブロット(WB)法からイムノクロマト(IC)法による検査に移行したことにともない、抗体確認検査の簡便化に加えて、抗体確認検査を行う全例でHIV-2抗体確認検査が行われるようになった。本稿では、わずかながら報告されている日本で診断されたHIV-2感染症報告例のまとめと、HIV-1/HIV-2抗体確認検査の注意点について概説する。
HIV-2は主に西アフリカ地域で流行しており、HIV-1(全世界で3,900万人の推定感染者数)と比較すると感染者数は少なく、正確なデータはないものの、全世界で100-200万人がHIV-2に感染していると考えられている。西アフリカの他に、他のアフリカ地域、ヨーロッパ、アメリカ大陸、インド、その他の地域でも感染者が報告されている1)。
HIV-2感染症は、一般的にHIV-1感染症よりも無症候期が長く、血漿ウイルス量が低いという特徴がある。また、HIV-1とは異なり、非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)が有効でないこと、抗HIV療法(antiretroviral therapy:ART)の最適な開始時期や、ARTレジメン選択や、治療後のフォローについての知見が必ずしも十分でないことなど、治療においてもHIV-1とは一部異なる考慮が求められる2,3)。また、国内で承認されているHIV-2の核酸増幅診断薬がなく、一般的に行われているHIV-1-RNA定量検査ではHIV-2は検出できない。HIV-2の核酸増幅検査は一部の研究機関などで行われているが、血漿ウイルス量が低く検出できない場合もある。
日本の感染症発生動向調査では「後天性免疫不全症候群発生届(HIV感染症を含む)」において、HIV-1とHIV-2を区別して報告する仕組みはなく、HIV-2感染症の報告数を区別して把握することはできない。そのため、把握可能な過去に学会・論文発表された12例と、2022年に行政検査で陽性と判明した2例を合わせた14例を表に示した。検体採取年、国籍、年齢、性別などは様々であり、1970年代に西アフリカで感染したと推定される症例も含まれている。ただし、学会や論文などで報告されていない症例で、国立感染症研究所(感染研)や国立病院機構名古屋医療センターで検査されなかった症例はこの表に含まれない。
HIV感染診断のための検査は、スクリーニング検査と確認検査からなる。詳細は「後天性免疫不全症候群2019年11月改訂4)」を参照されたい。2020年9月(保険収載は2021年1月)にIC法の新しいHIV-1/HIV-2抗体確認検査「Geenius HIV 1/2キット」(バイオ・ラッド ラボラトリーズ)が発売され、WB法の「ラブ ブロット1」「ラブ ブロット2」(いずれもバイオ・ラッド ラボラトリーズ)が2022年6月に発売中止となった。Geenius HIV 1/2キットがWB法に代わって、HIVスクリーニング検査陽性検体の確認検査およびHIV-1/2鑑別用診断薬として使用されている。WB法ではHIV-1抗体確認検査とHIV-2抗体確認検査が別キットであり、本邦のHIV感染例の大半がHIV-1によるものであることから、HIV-2抗体確認検査が行われない場合もあったが、Geenius HIV-1/2キットは、HIV-1抗体とHIV-2抗体を1つのキットで測定し鑑別することができる。
Geenius HIV-1/2キットは肉眼観察と専用の読み取り装置「Geeniusリーダー(バイオ・ラッド ラボラトリーズ)」の両方で使用可能である。感染研における経験で、HIV-1鑑別診断には大きな支障がない一方、HIV-2確認検査用診断薬「ラブ ブロット2」で見られたのと同様に、HIV-2感染者血漿とHIV-1判定ラインとの交差反応が起こりやすく、肉眼観察に基づく解釈では、その40%程度がHIV-2陽性を鑑別できないことが分かっている(図)5)。鑑別可能な例でも、多くはHIV-1判定ラインとの交差反応があり、解釈には注意を要する。これらの大半は「Geeniusリーダー」を用いることにより「HIV-1と交差反応をともなうHIV-2陽性」と判定される5)。HIV-2感染例の感染診断対応に加え、人為的なミスによる誤判定を避けるためにも「Geeniusリーダー」の使用が推奨される。診療におけるHIV-1/2感染症の診断ガイドライン6)にしたがって感染診断を行い、HIV-2核酸増幅検査が必要な場合には、感染研または地方衛生研究所等に相談する。
現在薬事承認を受けているHIVスクリーニング検査の検査診断薬のすべてがHIV-1/HIV-2両方の検出に対応しており、保健所等における無料匿名検査等の施策によりHIV検査の機会を増やし、スクリーニング検査陽性の場合の確認検査を適切に行うことが、HIV-2感染例の診断率の向上にも役立つと考えられる。2009年に発出された厚生労働省健康局疾病対策課長通知7)により、各検査施設ではHIV-2感染を念頭においた検査体制の構築を求められている。HIV-2感染例が国内の様々な地域で見出されていることや、都市部だけでなく地方でも海外との往来の機会が増えたことから、すべてのHIV検査に対応する施設においてHIV-2感染診断に対応できるよう体制を整えておくことが重要である。
謝辞:本邦で診断されたHIV-2感染症報告例をまとめるにあたり、国立病院機構名古屋医療センター臨床研究センター 岩谷靖雅先生、今橋真弓先生、神奈川県衛生研究所 近藤真規子先生、佐野貴子先生、大阪健康安全基盤研究所 川畑拓也先生にご協力をいただいた。
参考文献
- Gottlieb GS, et al., Lancet HIV 5: e390-e399, 2018
- DHHS, Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in Adults and Adolescents with HIV, 2023
- Berzow D, et al., Clin Infect Dis 72: 503-509, 2021
- 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル「後天性免疫不全症候群(エイズ)/HIV感染症 2019年11月改訂」
- Kusagawa S, et al., BMC Inf Dis 21: 569, 2021
- 日本エイズ学会・日本臨床検査医学会, 診療におけるHIV1/2感染症の診断ガイドライン2020版, 2020
- 厚生労働省健康局疾病対策課長通知(健疾発第0203001号), 2019(平成21)年2月3日
国立感染症研究所エイズ研究センター
草川 茂 菊地 正 松岡佐織