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WHO西太平洋地域におけるポリオ根絶事業の現在

公開日:2023年8月30日

(IASR Vol.44 p116-120:2023年8月号

1.背景

1988年5月、世界保健総会は2000年までに急性灰白髄炎(ポリオ)の世界根絶(global eradication)を達成することを、同年9月、東アジア、東南アジア、オセアニアにある28の国と9の地区からなる世界保健機関(WHO)西太平洋地域(WPR)のWHO西太平洋地域委員会(WPRC)は1995年までにポリオの地域根絶(regional eradication)を達成することを、決議した。両決議における、制圧(elimination:国レベルでの感染伝播の遮断)の目的は、土着性(その地域で持続的に伝播してきた)の野生株ポリオウイルス(wild poliovirus:WPV)の感染伝播を遮断することであった1,2)

2.WPRにおけるポリオ根絶事業(2000年まで):WPVの制圧

ポリオの地域根絶やその維持のための基本戦略は、事業開始時も現在も、(1)乳児に対する定期接種においてポリオワクチンを3回接種し、それぞれの接種率を向上し維持すること(目標接種率は、事業開始時は70%以上、現在は90%以上)、(2)ポリオウイルスに対する感受性人口の蓄積に対処するため、小児の複数の年齢コホートに対してポリオワクチンの一斉接種を実施すること、(3)積極的疫学調査や実験室診断を含むポリオのサーベイランスを確立し強化すること、である。

1990年代、WPRではポリオの地域根絶事業は順調に進展し、1990年に6万と推定されていた麻痺性ポリオの患者数は、1995年には432にまで減少した。1997年、カンボジアでの麻痺性ポリオ患者が報告されて以降、土着性WPVの感染伝播は認められず、2000年10月、WHO西太平洋地域ポリオ根絶認定委員会(WPRCC)は、WPRのすべての国と地区において土着性WPVの伝播が遮断されWPRはポリオから解放された(polio-free)、と結論した3)

3.WPRにおけるポリオ根絶事業(2000年以降):WPVフリーの維持

2001年以降2022年末現在に至るまで、WPRでは3回のWPVの侵入があったことが確認されている。2006年、シンガポールでナイジェリアからやって来た2歳の少女から、2007年、オーストラリアでパキスタンからやって来た22歳の学生から、1型WPVが検出された。ともに臨床症状(麻痺ないし筋力低下)があったが、他者への感染は認められなかった。また、2011年には中国新疆ウイグル自治区でポリオが流行し、21人の急性弛緩性麻痺(AFP)患者と27人の無症状者からパキスタンで流行中の1型WPVが検出された。このWPVの流行は集中的な対応(ワクチンの一斉接種やサーベイランスの強化)によって、3カ月以内に制圧された(表1-1)。したがって、WPRでは現在に至るまで、WPVの土着性伝播は再確立されたことはなく、WPRCCはWPRのpolio-freeは維持されていると結論してきた。

一方、WPRにおけるpolio-freeを維持するために、2000年以降も、先述したポリオ根絶の基本戦略は継続されてきたが、ワクチン接種において、中国、フィリピン、ベトナム、カンボジア、ラオス、パプアニューギニア、モンゴルおよび8つの太平洋島しょ国では、経口生ポリオワクチン(oral polio vaccine:OPV)を使用し続けている。

OPVの接種率が低い状態が持続し、ポリオウイルスへの感受性者が蓄積してくると、OPV株が感受性者の間で長期間、増殖と伝播を繰り返すことがある。その際、ゲノムに遺伝子変異が蓄積されWPVと同等の病原性や伝播能を持つウイルスになり、このワクチン由来変異ポリオウイルスが感受性集団でポリオの流行を起こすことがある。これを伝播型ワクチン由来ポリオウイルス(circulating vaccine-derived poliovirus:cVDPV)によるポリオ流行という。1型および3型ポリオウイルスについては、カプシドVP1領域の塩基配列がOPV株と比較して1%以上変異したOPV由来株をワクチン由来ポリオウイルス(VDPV)と定義する。2型VDPVは、他の型と比べて出現頻度が高く、ポリオ流行に関与するリスクが高いことから、VDPV伝播をより早い段階で検出するため、0.6%以上変異した株(6塩基以上の置換)をVDPVと定義する4)

WPRでは、2001~2012年まで、断続的にcVDPVによるポリオ流行を経験してきたが(いずれも徹底したワクチンの一斉接種やサーベイランスの強化によって3カ月以内に制圧された)、それぞれの流行におけるcVDPVの塩基配列の変異と伝播の規模は、2012年までの流行では比較的小さかったが(表1-2)、2015~2020年の間の流行では顕著に大きくなった(表1-2)。特に、2019~2020年にかけての1型cVDPVおよび2型cVDPVによるフィリピン(ルソン島中央部とミンダナオ島南部)とマレーシア(カリマンタン島北部)にまたがる同時流行では、ともに塩基配列の変異と伝播の規模は、WPRにおけるcVDPVの流行の中で最大のものとなった5)

4.世界ポリオ根絶事業の現在

WPVは、2021~2022年にかけて、限定的な輸入例がマラウイやモザンビークであったものの、土着性伝播は引き続きパキスタンとアフガニスタンに限定されており、2021年以降は縮小傾向にあるようにもみえる(表2)。

一方、cVDPV、とくに2型によるポリオの流行は、2017年以降、極めて深刻である。WHOの6つの地域すべてで2型cVDPVが検出され、とくにWHOアフリカ地域(AFR)では30以上の国で、また2022年には米国、カナダ、英国、イスラエルでも2型cVDPVが検出されている(表3)。

5.WPRにおけるポリオ根絶事業の今後と課題

2015~2020年にかけての、ラオス、パプアニューギニア、フィリピン、マレーシアにおけるcVDPVの発生とその大規模な流行、および2017年以降の世界的なcVDPVの発生、流行、輸入を考慮し、WPRでは、2021年からのポリオ地域根絶事業の目標をWPVフリーの維持から、VDPVを含むすべてのポリオウイルスによるポリオの根絶を目標とすることを提案し、その基本戦略を「WPRにおけるワクチンで予防可能な疾患(VPD)とワクチン接種に関する総合戦略(2021-2030年)」に記した6)

現在、WHO西太平洋地域事務局では、(1)OPV使用の中止を加速させ、ポリオワクチンには不活化ポリオワクチン(inactivated polio vaccine:IPV)のみを使用するようにすること、(2)cVDPVの発生を予防すること(定期接種におけるポリオワクチンの接種率の向上とポリオワクチンの一斉接種の継続)、(3)地域内での新規発生ないし他の地域から輸入されたcVDPVの検出を早期に迅速に行うこと(積極的疫学調査や実験室診断を含むポリオのサーベイランスのみならず環境サーベイランスの拡大強化)、(4)cVDPVの発生ないし輸入への対処要領〔2型cVDPVに対しては、2型Sabinウイルスと同等の免疫原性を有しながら遺伝子変異の起こりにくい新規2型経口生ポリオワクチン(novel oral polio vaccine type 2:nOPV2)7)の使用やリスクコミュニケーションを含む8)〕をあらかじめ準備しておき、必要時に迅速にこれを実施すること、を加盟国に勧告している。

参考文献

  1. WHO, World Health Assembly Resolution WHA41.28, Global Eradication of Poliomyelitis by the Year 2000, Geneva, 1988
  2. WHO, Regional Committee Resolution WPR/RC39.R15, Regional Eradication of Poliomyelitis by 1995, Manila, 1998
  3. WHO, Regional Committee Resolution WPR/RC52.R3, Eradication of Poliomyelitis in the Region, Manila, 2001
  4. 中村朋史ら, IASR 37: 24-26, 2016
  5. Snider CJ, et al., Vaccine 41: A58-A69, 2023
  6. WHO Regional Office for the Western Pacific: Regional strategic framework for vaccine-preventable diseases and immunization in the Western Pacific 2021-2030, Manila, 2020
  7. Bandyopadhyay AS , et al., Lancet Infect Dis 23: e67-e71, 2023
  8. WHO, Implementation of novel oral polio vaccine type2 (nOPV2) for circulating vaccine-derived poliovirus type 2 (cVDPV2) outbreak response: technical guidance for countries, Geneva, 2000

世界保健機関西太平洋地域事務局
高島義裕
Tigran Avagyan
Varja Grabovac
Benjamin Bayutas
Kayla Mae Mariano
Josephine Logronio

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