腸管出血性大腸菌検査・診断マニュアルの改訂について
公開日:2023年5月26日
(IASR Vol.44 p71-72:2023年5月号)
腸管出血性大腸菌(EHEC)検査・診断マニュアルについては、2012年以降、必要に応じて改訂を行っており、2022年10月にはEHECの陰性確認手法に関する記述を追加したので関係各位に周知したい。
EHEC感染の陰性確認手法については、平成11(1999)年3月30日健医感発第43号の通知文で次の通りとされている。
- 患者については、24時間以上の間隔を置いた連続2回(抗菌剤を投与した場合は服薬中と服薬中止後48時間以上経過した時点での連続2回)の検便によって、いずれも病原体が検出されなければ病原体を保有していないものと考えてよい。
- 無症状病原体保有者については、1回の検便によって菌陰性が確認されれば病原体を保有していないものと考えてよい。
しかし、上記の通知文では病原体の検出・確認方法についての具体的な記述がなく、これまでは自治体ごとに独自に陰性確認が行われてきた経緯がある。厚生労働省科学研究費の新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業では、令和2~4(2020~2022)年度に「感染症の病原体を保有していないことの確認方法について」の改訂に資する研究班が組織され、陰性確認手法に関する改訂に向けた研究が進められてきた。本稿ではその研究経過とともに、陰性確認手法改訂に向けた取り組みについて述べたい。
1)EHECの陰性確認手法についてのアンケート調査
2021年8~9月に、全国79施設の地方衛生研究所および保健所等に対して以下のアンケート調査をメールにて実施し、57施設から回答を得た(回収率72.2%)。
アンケート回答項目
- 分離途中段階でPCRによる確認を取り入れるべきか否か(培養法および分離株のPCR検査のみを実施するべきか否か)?
- PCRを取り入れるとした場合、どの段階(便から直接、増菌培養後、コロニースイープなど)でやるのがよいか?
- PCRの鋳型DNA抽出法は、(アルカリ)ボイル法でよいか、あるいはDNA精製を行ったものを使用すべきか?
- コンベンショナル(エンドポイント)PCRとreal-time PCRのどちらを使用するか?
- 各施設での陰性確認の方法について(自由記載項目)
アンケートの集計結果から、1.および2.については、回答のあった57施設中55の施設でPCRまたはLAMP(loop-mediated isothermal amplification)による遺伝子検査でShiga毒素遺伝子(stx)の有無について確認を実施していることが判明した。EHECの分離途中段階での陰性確認について、増菌培養液から(アルカリ)ボイル法で抽出した鋳型DNAを用いてPCRまたはLAMPを実施し、この結果が陰性の場合に確認終了としているのが4施設(PCRによる陰性確認が3施設、LAMPによる確認が1施設)あった。増菌培養を用いたPCRに加え、選択分離培地上に出現したコロニーを掻き集めて抽出した鋳型DNAを用いるコロニースイープPCRを併用することで陰性確認が実施可能と回答したのが計35施設あり、前出の4施設と合わせて回答のあった施設の66.1%を占めたが、選択分離培地上に出現した典型的なコロニーの確認および(または)生化学的性状の確認、スイープPCRによる確認法を必須としている施設がほとんどであることが判明した。加えて、分離途中段階でのPCRのみによる陰性確認をすべきでないと回答したのが4施設あり、その理由としては、分離途中段階でのPCRのみによる陰性確認には科学的データの蓄積が必要である、増菌液を用いたPCRで陰性の場合でもEHECが分離される場合がある、死菌を検出する可能性がある、などであった。3.PCRに使用する鋳型DNA抽出法については、ほとんどすべての施設で(アルカリ)ボイル法が適切であるとの回答があった。4.PCRの種類に関してはreal-time PCRと回答したのが13施設、コンベンショナル(エンドポイント)PCRと回答したのが18施設、どちらでもよい(選択可能としてもらいたい)と回答したのが7施設、LAMPを選択肢に入れてもらいたいと回答したのが2施設あった。その他、国内で分離頻度の高い3つのO血清群(O群)(O157、O26、O111)については、選択分離培地が各種開発されており、迅速な分離同定に有効であることから、PCRに加えてこのような選択分離培地の活用も併用する必要があるとの意見もあった。
2)EHECの陰性確認手法改訂についての基本方針について
以上のアンケート調査の結果を基に、EHECの陰性確認手法については検査時間短縮のためにPCRまたはLAMPによる陰性確認を実施可能とし,
- PCRの結果は陰性確認に限定する(PCR陽性の場合は死菌またはstx遺伝子を運ぶバクテリオファージを検出している可能性が考えられるため、コロニースイープPCR等の確認を必要とする)。
- O157,O26、O111等選択分離培地が有効なO群については培養法のみによる確認も可能とする。
- real-time PCR/コンベンショナル(エンドポイント)PCR/LAMP各法の選択、DNA調製法は各施設での選択とする。
とする基本的な方針を策定し、「腸管出血性大腸菌(EHEC)検査・診断マニュアル」(PDF:2.9 MB))に記載することで、検査担当者からご意見を受け付けている。詳細は上記リンクからご確認いただきたい。
国立感染症研究所細菌第一部
伊豫田 淳 李 謙一 明田幸宏