感染症発生動向調査に届け出された腸管出血性大腸菌感染症における溶血性尿毒症症候群, 2022年
公開日:2023年5月26日
(IASR Vol.44 p74-75:2023年5月号)
溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)は腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の重篤な合併症の1つである。本稿では2022年に感染症サーベイランスシステム(NESID)感染症発生動向調査に届け出されたEHEC感染症のHUS発症例に関するまとめを報告する。
EHEC発生状況
NESID感染症発生動向調査に基づくEHEC感染症の届出数(2023年4月5日現在、以下暫定値)は、2022年〔診断週が2022年第1~52週(2022年1月3日~2023年1月1日)〕は3,374例(うち有症状者2,258例:67%)であった。有症状者の性別は、男性1,040例、女性1,218例で、年齢層・性別にみると0~4歳が281例(男性145:女性136)、5~9歳が230例(117:113)、10~14歳が164例(105:59)、15~64歳が1,242例(543:699)、65歳以上が341例(130:211)であった。
HUS発症例
EHEC感染例のうち届出時にHUSの記載があった届出は58例であった。性別は女性36例、男性22例で、女性が多かった(1.6:1)。年齢は中央値が13歳(範囲:0-88歳)で、年齢群別では15~64歳が19例(33%)で最も多く、女性が18例であった。有症状者に占めるHUS発症例の割合は全体で2.6%、年齢群別では5~9歳が5.2%で最も高く、次いで0~4歳が5.0%の順であった(図)。
EHEC診断方法と分離菌およびO抗原凝集抗体
診断方法は、便からの菌の分離が31例(53%)、血清からのO抗原凝集抗体の検出が20例(34%)、便からのVero毒素(VT)検出が7例(12%)であった(表)。
31例から分離された菌のO血清群(O群)と毒素型は、O群別ではO157が77%(24例)を占め、毒素型ではVT2陽性株(VT2単独またはVT1&2)が77%(24例)を占めた。また、患者血清からのO抗原凝集抗体または抗Vero毒素抗体のどちらかの検査方法(区別不可)で検出された20例のうち、備考にO抗原凝集抗体が記載されていたものはO157が6例、O121が1例であった。
感染原因・感染経路
確定または推定として報告された感染原因・感染経路(重複含む)は、経口感染が30例(52%)、接触感染が4例(7%)、動物・蚊・昆虫等からの感染が1例(2%)、「記載なし」または「不明」の報告が24例(41%)であった。経口感染と報告された30例中16例に肉類の喫食の記載があり、うち生肉の記載は3例(牛生肉1例、牛内臓肉2例)であった。
臨床経過(症状・転帰)
届出時に報告されたHUS発症例の臨床症状は、昨年と同様に腹痛46例(79%)、血便49例(84%)が多かった。また痙攣4例(7%)、昏睡1例(2%)、脳症合併例は5例(9%)であった。なお、届出時に死亡例として報告された症例はなかった。
考察
2022年に届け出られたEHEC感染症の有症状者数(2,258例)は、2021年(2,026例)と比べて約200名増加した。しかしHUS症例数と有症状者に占めるHUS発症例は58例(2.6%)で、2021年の59例(2.9%)とほぼ同等であった。なお2012~2021各年のHUS発症例の症例数と割合は、59-112例(2.7-4.3%)であった。またHUS発症例の年齢は10歳未満の小児が半数を占めていた。
感染原因・感染経路に関する記載では、2022年においても例年同様「肉類の喫食」が一定数報告され、うちEHEC感染リスクが高い生肉喫食の記載も依然として数例報告されており、引き続き注視する必要がある。EHEC感染にともなうHUS等の重症化の機序は不明な点が多いため、重症例を減らすためには、EHECの感染そのものを予防することが重要である。EHECの感染予防策としては、生肉(加熱不十分な肉を含む)の喫食を避けること、食事前に手を洗うこと、調理時の食品を適切に取り扱うこと、等の基本的な食中毒予防策の実施だけでなく、患者や動物との接触感染予防のための手洗いの実施などの基本的な感染症対策を励行することも重要である。
なお、2023年3月より運用が開始されている感染症サーベイランスシステムの病原体検出情報システムでは、新たに反復配列多型解析(multiplelocus variable-number tandem-repeat analysis:MLVA)法による解析結果が入力できるようになったため、HUS発症例等EHECが分離された際は結果入力のご協力をお願いいたします。
国立感染症研究所感染症疫学センター第四室