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京都府で発生したレアステーキ等を原因とする腸管出血性大腸菌O157食中毒事例

公開日:2023年5月26日

(IASR Vol.44 p76-77:2023年5月号

背景

腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症はVero毒素を産生するEHECの感染によって起こり、主な症状は腹痛、水様性下痢および血便である。また、溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こし、脳症などを併発して死に至ることがある。2022年9月に京都府内の食料品店Aが販売した「レアステーキ」および「ローストビーフ」(以下、肉そうざい)を原因食品とするEHEC O157による食中毒事例が発生したので、その概要を報告する。

探知

2022年9月1日に京都府山城北保健所に対し、管内の医療機関からEHEC感染症O157の発生届が提出された。症例について調査した結果、管内の食料品店Aが販売したローストビーフの喫食が判明した。また、9月2日に他の自治体に届出のあったEHEC感染症症例が、食料品店Aから購入したレアステーキを喫食していることが判明した。国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)は、全国の感染症発生動向調査の監視を行う中で同一保健所管内での症例の集積および死亡例の発生を異常として探知し、感染症および食品衛生の両面について保健所と意見交換を行った。

方法

調査は疫学調査、食品の遡り調査、立入検査および細菌学的検査を行った。分子タイピングは反復配列多型解析(multiplelocus variable-number tandem-repeat analysis:MLVA)法により解析を行った。

症例定義は、食料品店Aの利用者で山城北保健所が探知した者のうち、2022年8月18日~9月15日までに下痢、血便、腹痛、発熱等の症状を呈し、原因食品(食料品店Aが2022年8月21日~8月27日に提供した肉そうざい)を喫食した者で、山城北保健所によって食中毒患者と認定された者を「食中毒認定例」とした。また、同年8月10日~9月22日までに「(1)下痢(軟便を含む)、血便、腹痛のうち少なくとも1つ以上の症状を呈した者」、「(2)医療機関または保健所でEHEC感染症と診断され、EHEC O157が検出された者」の1つ以上を満たす者(食中毒認定例を除く)を「可能性例」と定義して記述解析を行った。

情報は保健所が実施した調査結果、感染症発生動向調査システム(NESID)および食品保健総合情報処理システム(NESFD)から収集した。

結果

症例定義を満たす者は44名(食中毒認定例が40名、可能性例が4名)で、性別は女性が32名(73%)、年齢中央値は42歳(範囲:6-92歳)であった。症例のうち、症状のある者が42名(95%)で、主な症状は腹痛が36名(82%)、下痢が34名(77%)、血便が27名(61%)であった。死亡例が1名(90代)で、HUSや脳症を発症した症例はなかった。検査によりEHEC O157が検出された者は16名(36%)であった。初発例の発症日は8月23日、症例数のピークは8月31日、最終の症例の発症日は9月8日であった()。

症例が食料品店Aから購入した品目はレアステーキが23名(52%)、ローストビーフが12名(27%)、レアステーキおよびローストビーフが5名(11%)、その他が4名(9%)であった。

原材料となる牛肉の仕入日、仕入量の記録がなく、詳細は不明であった。また、牛肉のと畜場および脱骨等の処理施設の調査の結果、特段の不備等は認められなかった。

レアステーキの形態は、加熱による変色がない部位の細切りまたは薄切りで、社会通念上「ユッケ」と呼称されるものであった。一方で、食料品店Aは食品衛生法上の生食用食肉を提供可能な施設ではなく、レアステーキの製造は専用の設備を備えた場所で行われていなかった。また、肉そうざいは同一のスチームコンベクションオーブンで調理されていたが、中心温度は測定されておらず、原材料肉の使用量や製造数等の記録保存がなかった。日常的に加熱調理後の食品が未加熱食肉を扱う汚染区域に持ち込まれていた。8月21日~8月28日にかけて、食料品店A内で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行し、通常は社員5名体制のところを2名で製造を行っていた。従業員の手洗いや作業時に着用しているビニール手袋の交換のタイミングが不適切だった可能性があった。生食用食肉の販売に際して消費者に対する注意喚起の表示はなかった。

肉そうざいの製造を行っていた調理従事者2名、収去した肉そうざい(原因食品とは別のロット)、および施設内の環境ふきとりについて、本事例発生後に採取した検体の検査の結果はすべてEHEC陰性であった。
また、検査によりEHEC O157が検出された16名から分離された菌株についてMLVA法による解析を行った結果、MLVA typeがすべて一致した。なお、2022年5~6月に他の自治体に報告された症例でも同一のMLVA typeが確認されているが、本事例との関連は不明であった。

考察と提言

本事例は、有症状者5名および無症状者1名の共通食が食料品店Aで購入した肉そうざいのみであること、6名の便からEHEC O157が検出されたこと、医師から食中毒の届出があったことから、食料品店Aにおける食中毒と断定され、行政処分が行われた。なお、行政処分後に症例の探知が相次ぎ、最終的な症例数は44名となった。

食料品店Aの調査の結果、本事例は、施設内のCOVID-19流行により、製造を行う社員の業務過多が背景にある中で、原材料肉の加熱不足、食品や従業員等による交差汚染が原因で発生した可能性が考えられた。また、食料品店Aは食品衛生法上の生食用食肉を提供可能な施設ではなく、レアステーキは規格基準に適合したものではなかった。

再発防止のためには、生食用食肉を取り扱う場合の規格基準の遵守、加熱工程における中心温度の測定と記録保存および汚染区域と清潔区域の区画の徹底等が必要である。

また、規格基準に適合している生食用食肉の場合も、加工・調理工程でEHECを完全に除去することは困難であることから、子どもや高齢者などの抵抗力の弱い方は食肉の生食を避けるよう、引き続き注意喚起が必要である。
なお、本調査における限界として、思い出しバイアスがあることや原因食品の購入者を特定できておらず症例の全体像を把握できていないことがあげられる。

京都府山城北保健所
入江祐子 岡本裕行 四方 哲

京都府保健環境研究所
小仲兼次 鳥居南豊 藤田直久

京都府健康福祉部生活衛生課
石田真一郎 足立有佳里

国立感染症研究所
実地疫学専門家養成コース(FETP)
千葉紘子 大沼 恵 越湖允也 高良武俊

実地疫学研究センター
八幡裕一郎 砂川富正

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