B型肝炎治療薬開発の動向
公開日:2023年3月30日
(IASR Vol.44 p40-42:2023年3月号)
はじめに
B型肝炎ウイルス(HBV)の持続感染に対する抗ウイルス療法として、本邦では主にインターフェロン(IFN)および、核酸アナログ(エンテカビル、テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩、テノホビル アラフェナミド)が用いられている。しかし、これらによってウイルスDNAの陰性化および肝炎の沈静化は達成されるものの、ウイルス抗原は多くの場合残り続け、肝がん進展を完全に阻止できない。また持続感染の原因である核内複製鋳型covalently closed circular DNA(cccDNA)を排除することもできず、新たな治療法の開発が求められている。本稿ではB型肝炎治療薬開発の現在の動向について述べる。
肝細胞でのHBV感染複製を標的とした治療薬候補
現在、IFNや核酸アナログの他に多くの治療薬候補が世界中で開発されている(表)。HBV感染複製を標的とした抗ウイルス薬としては、主に(1)侵入阻害薬、(2)HBV RNA標的薬、(3)コアタンパク質アロステリックモジュレーター、(4)HBs抗原放出阻害薬、(5)FXRアゴニスト、がある。
(1)侵入阻害薬
侵入阻害薬としては、主にHBVの感染受容体であるナトリウムタウロコール酸共輸送体(NTCP/SLC10A1)を標的とした開発が行われている。Bulevirtide(myrcludex-B/Hepcludex)はHBV表面抗原(HBs抗原)の受容体結合領域を模倣した47アミノ酸からなるペプチドであり、NTCPと結合することにより強力なHBV感染阻害効果を示す1)。Bulevirtideは、ウイルス粒子にHBs抗原を持つD型肝炎ウイルスに対する治療薬として、2020年に欧州で条件付き販売承認されている。B型肝炎に対しては臨床第2相試験が欧米を中心に行われている。
(2)HBV RNA標的薬
HBV RNAの分解を促進する薬剤として、RNA干渉薬(siRNA)やアンチセンスオリゴヌクレオチドなどの核酸薬と、低分子性RNA分解促進薬がある。例としてVIR-2218は、HBVの主要な10の遺伝子型(A-J)で保存されたX遺伝子を標的としたsiRNAであり、中国やオーストラリアなどで臨床第2相試験が行われている。また、HBV RNAに特異的な配列を認識するアンチセンスオリゴヌクレオチドであるBepirovirsenは、臨床第2相試験においてHBs抗原低下の有効性が報告された。
(3)コアタンパク質アロステリックモジュレーター
コアタンパク質は、カプシドの構成成分としてだけではなく、ウイルスゲノム複製や核内複製鋳型cccDNAの機能制御など、HBV生活環において重要な役割を果たす。コアタンパク質アロステリックモジュレーターはコアタンパク質に直接結合することにより、異常な凝集カプシド形成を誘導するクラス1と、HBV RNAを含まない空カプシドを形成させるクラス2に分類される。クラス1として、Morphothiadin(GLS4)は中国で臨床第2相試験が行われており、クラス2はBersacapavir(JNJ 56136379)が臨床第2相試験中であり、本邦でも試験が行われている。
(4)HBs抗原放出阻害薬
ホスホロチオエート型オリゴヌクレオチドである核酸ポリマーは様々なウイルスに対して抗ウイルス効果を持ち、HBVに対してはHBs抗原放出阻害が重要な標的と考えられている。REP2139は40塩基からなる修飾核酸ポリマーであり、欧州で臨床第2相試験が行われている。
(5)FXRアゴニスト
核内受容体であるfarnesoid X受容体(FXR)のアゴニストは非アルコール性脂肪性肝炎の代表的な治療薬候補であり、いくつかのFXRアゴニストがB型肝炎治療薬としても開発中である。FXRはHBV生活環の複数の過程を制御しているようであるが、その詳細は理解されていない。EYP001(Vonafextor)は欧州、中国、オーストラリアなどで臨床第2相試験が行われている。
免疫修飾を介した治療薬候補
免疫修飾を介した候補薬としては主に、(a)治療ワクチン、(b)TLR-8アゴニスト、(c)ヒトモノクローナル抗体、(d)免疫チェックポイント阻害薬、がある。
(a)治療ワクチン
HBVの排除には細胞障害性T細胞が主な役割を果たすと考えられており2)、細胞障害性T細胞の活性化を目的とした多くの治療ワクチンが開発されている。抗原としてHBs抗原やHBc抗原、HBx、逆転写酵素などが用いられる。NASVACはHBsおよびHBc混合抗原を経鼻的に免疫する治療ワクチンであり、バングラデシュにおいて臨床第3相試験が行われている。BR2-179(VBI-2601)は3種類のHBs抗原を持つ組換えワクチンで、T細胞およびB細胞免疫を活性化するようデザインされており、臨床第2相試験が行われている。
(b)TLR-8アゴニスト
慢性B型肝炎では、免疫疲弊により細胞傷害性T細胞およびNK細胞の機能不全をともなう。TLR-8アゴニストは、主にミエロイド系細胞での炎症性サイトカインや免疫修飾サイトカイン誘導を介してこれら免疫担当細胞の活性を増強すると期待される3)。Selgantolimod(GS-9688)は経口TLR-8アゴニストであり、欧米を中心に臨床第2相試験が行われている。
(c)ヒトモノクローナル抗体
HBs抗原に対するヒトモノクローナル抗体が、HBs抗原量低下とHBV再感染阻害を目的として開発されている。Lenvervimab(GC1102)はHBs抗原に対する完全ヒトモノクローナル抗体である。感染予防に広く用いられる抗HBsヒト免疫グロブリンよりも高い親和性を示すことが報告されており4)、韓国で臨床第2相試験が行われている。
(d)免疫チェックポイント阻害薬
慢性B型肝炎では持続的な免疫刺激によってT細胞上のPD-1が発現上昇し、これが免疫疲弊に関連するため、PD-1/PD-L1経路の阻害によってT細胞機能の回復が期待される5)。抗PD-L1抗体であるASC22(KN035、Envafolimab)が、中国で臨床第2相試験が行われている。
おわりに
現行の抗HBV薬では達成されない、HBV抗原陰性化および複製鋳型cccDNAの排除を目指した創薬開発が加速している。今後、これら新規治療薬と既存薬を用いた多剤併用療法を含めた治療により、HBV抗原の陰性化およびcccDNA排除に有用な治療法が開発されることが期待される。
参考文献
- Petersen J, et al., Nat Biotechnol 26: 335-341, 2008
- Thimme R, et al., J Virol 77: 68-76, 2003
- Daffis S, et al., Hepatology 73(1): 53-67, 2021
- Jeong GU, et al., PLoS One 15(8): e0236704, 2022
- Peng G, et al., Mol Immunol 45(4): 963-970, 2008
国立感染症研究所治療薬・ワクチン開発研究センター
森田武志 渡士幸一