本邦における慢性B型肝炎患者の遺伝子型の推移
公開日:2023年3月30日
(IASR Vol.44 p36-37:2023年3月号)
慢性B型肝炎はB型肝炎ウイルス(HBV)によって引き起こされる疾患であり、一般的にB型肝炎表面抗原(HBsAg)の陽性率は3.6%と、ヒトの間で最も流行している慢性ウイルス疾患の1つである。HBVゲノムは約3,200塩基から構成されており、このゲノムの塩基配列が8%以上異なる場合には異なる遺伝子型(Genotype:Gt.)とされる。HBVは現在、世界中で9つのGt.に分類されている。日本ではGenotype B(Gt. B)とGenotype C(Gt. C)が大部分を占めるが、Genotype A(Gt. A)が1990年代から増加傾向にあり、特に若年者と都市部に多い。その理由として、Gt. Aは他のGt.のウイルスによる急性肝炎に比べて、成人における水平感染であっても慢性化しやすいことが挙げられる。これは宿主の免疫反応が弱いことに起因する可能性があり、また症状も弱いため、発見が難しく、無意識のうちに性的接触を介して広がることもある。これらの特徴から、慢性B型肝炎患者の遺伝子型としてGt. Aの増加が予想されていた1-3)。
そこで、我々は2000年から5年ごとに全国の20の医療機関の協力を得て、慢性B型肝炎患者のHBV Gt.の分布調査を行ってきた。その結果(図)、地域的には、Gt.分布は沖縄以外の地域ではGt. Cが優勢であった。沖縄ではGt. Bが優勢であるが徐々にGt. Cが増加し、東北ではGt. Bの割合が相対的に高く、四国ではGt. Dの割合が他の地域と比べて高い傾向であった。また、各時期の調査結果をGt.ごとに比較すると、全国的には2000年(1.7%)、2005年(3.4%)、2010年(4.1%)ではGt. Aの割合が増加していた。2010年(4.1%)から2015年(4.0%)にかけては上げ止まっている結果であったが、今後も注視していく必要がある(図左上)1,4-6)。
本邦では、1985年から開始された「B型肝炎母子感染防止事業」によりHBs抗原陽性の母親から生まれた児のみにB型肝炎(HB)ワクチンが接種され、母子感染によるHBV キャリアの減少が認められているが、2016年以降は出生児全員にHBワクチン接種(ユニバーサルワクチン)が開始されたため、これを受けた世代が成人となる2030年代でのGt. Aの減少が期待される。
参考文献
- Ito K, et al., J Gastroenterol Hepatol 31: 180-189, 2016
- Sugiyama M, et al., Hepatology 44: 915-924, 2006
- Ito K, et al., J Gastroenterol 53: 18-26, 2018
- Orito E, et al., Hepatology 34: 590-594, 2001
- Matsuura K, et al., J Clin Microbiol 47: 1476-1483, 2009
- Sakamoto K, et al., J Gastroenterol 57(12): 971-980, 2022
愛知医科大学
坂本和賢注)併任 伊藤清顕
国立国際医療研究センター・ゲノム医科学プロジェクト注)
溝上雅史