IDWR 2015年第26号<注目すべき感染症> 伝染性紅斑(ヒトパルボウイルスB19感染症)

注目すべき感染症、注:PDF版よりピックアップして掲載しています。
伝染性紅斑(ヒトパルボウイルスB19感染症)
伝染性紅斑(erythema infectiosum)は、ヒトパルボウイルスB19(Human parvovirus B19)を病原体とし、幼児、学童の小児を中心にみられる流行性の発疹性疾患である。典型例では両頬に蝶翼状の紅斑が出現することが特徴的で、リンゴのように赤くなることから「リンゴ(ほっぺ)病」と呼ばれることもあるが、本疾患の約4分の1程度は不顕性感染である。
本疾患の特徴的な症状は、感染後10~20日の潜伏期間を経て出現する両頬の境界鮮明な紅斑であり、続いて腕、脚部にも両側性に網目状・レース様の発疹がみられる(伝染性紅斑とは 写真1、写真2参照)。体幹部(胸腹背部)にもこの発疹が出現することがある。この潜伏期間を過ぎる前の、感染後約1週間で、約半数にインフルエンザ様症状などを呈することがある(倦怠、発熱、筋肉痛、鼻汁、頭痛、掻痒症など)。この時期にウイルス血症を起こしており、ウイルスの体外への排泄量は最も多くなる。発熱はあっても軽度である。発疹出現時期を迎えて伝染性紅斑と臨床的に診断された時点は抗体を産生する頃であり、ウイルス血症はほぼ終息し、既に周囲への感染性は殆どないといわれている。発疹は1週間前後で消失するが、一度消えた発疹が短期間のうちに日光や熱(入浴や運動など)により再出現することがある。成人では両頬の蝶形紅斑は少ない。非典型例の鑑別診断として風疹は重要である。
ヒトパルボウイルスB19感染症の典型的な臨床像が伝染性紅斑であり、基本的には予後良好であるが、他にも多彩な臨床像が知られる。関節痛・関節炎がみられることがあり、小児より成人、男性より女性に多く、数日から数カ月に及ぶ場合がある。また、妊婦が感染すると、垂直感染を呈し、流産や死産、胎児水腫を起こすことがある。なお、伝染性紅斑を発症した妊婦から出生し、ヒトパルボウイルスB19感染が確認された新生児でも妊娠分娩の経過が正常で、出生後の発育も正常であることが多い。さらに、生存児での先天異常は知られていない。その他、鎌状赤血球症などの溶血性貧血患者が感染した場合に貧血発作(aplastic crisis)を引き起こしたり、免疫不全者が感染すると、重症で慢性的な貧血を引き起こしたりする場合がある。
感染経路は通常は飛沫感染もしくは接触感染であるが、まれにウイルス血症の時期に採取された血液製剤からの感染の報告がある。
伝染性紅斑は、感染症発生動向調査では5類定点把握疾患に分類され、全国約3,000カ所の小児科定点からの報告に基づいて動向を収集・分析されている疾患である。伝染性紅斑の報告数は例年夏季に増加し、第26週前後でピークとなることが多い。伝染性紅斑は1982年よりその発生動向の調査が開始されている。報告数のピークが高く、比較的大きな流行となったのは、感染症法施行以前では1987年、1992年、1997年、同施行後においては2001年、2007年、2011年であり、ほぼ4~6年ごとの周期で大きな流行を迎えていた。2014年末にかけて、やや増加を認めていたが、2015年に入り、第2週から定点当たり報告数が数週間増加後、一旦減少したが、第12週頃から再び増加傾向が明らかとなり、現在まで継続している。2015年第26週の伝染性紅斑の定点当たり報告数は1.12(報告数3,522)となり、第26週としては過去10年間で最高であり、また、1週間の定点当たり報告数としては前回全国的に流行した2011年第25週の定点当たり報告数1.47(報告数4,629)に次ぐものであった。
2015年第1~26週までの定点当たり累積報告数は14.21(累積報告数44,728)であり、2005年以降の同期間では2011年の18.84、2007年の18.68に次いで多くなっている。
都道府県別の2015年第26週の定点当たり報告数は、滋賀県(2.91)、長野県(2.54)、埼玉県(2.53)、福島県(2.41)、大分県(2.03)の順となっている。39都府県で前週よりも増加がみられており、特に栃木県、佐賀県では定点当たり1以上の増加となっている。また、2015年に入ってからの週ごとの定点からの報告数の推移を見ると、人口の多い関東地方(茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、東京都、神奈川県)からの占める割合が全体の50%前後を占めることが大半であったが(第26週においても数としては依然増加傾向にある)、第23週以降は伝染性紅斑報告数に占める全国の定点からの関東地方の割合はむしろ低下傾向であり、第26週では41%となった。
2015年第1週から第26週までの定点からの累積報告数における年齢群別割合をみると、5歳の17%を最多に3~7歳までの各年齢でそれぞれ10%を超え、7歳以下で全報告数の80%を、9歳以下で90%以上を占めているのは例年と同様である。2015年の伝染性紅斑の流行は、2011年以来の流行となり、例年の傾向から現在そのピークを迎えつつあるものと推測される。これまで流行の中心であった関東地方に加えて、関東以外の地域における報告数の増加に対しても注意が必要である。
伝染性紅斑は多彩な臨床像を呈する疾患であり、また、不顕性感染も一定程度存在することから、届出のあった症例以外にも感染者が存在すると考えられる。本症は発疹出現時期には殆ど感染力を消失しているが、反対にウイルス排泄時期には特徴的な症状を呈さず診断に至らないため、その対策は容易ではない。特に溶血性貧血を基礎疾患に持つもの、免疫不全のあるもの、そして妊婦に対して、本疾患の流行に関する情報を提供することが重要である。流行地域の家庭内で調子を崩している小児を妊婦がケアをする場合においては通常以上の手洗いの徹底や、食器の共有をしないこと、本疾患が流行している保育園や学校などに対しては、流行が終息するまでの間、妊婦等は施設内に立ち入らないこと、などを考慮すべきである。今後しばらくの間、全国の伝染性紅斑の発生動向には注意が必要である。
参考文献
- 国立感染症研究所「伝染性紅斑とは」
- 感染症週報(IDWR)注目すべき感染症「伝染性紅斑」
- David L.Heymann(edit).Erythema Infectiosum.Human Parvovirus Infection(Fifth disease).
Control of Communicable Diseases Manual 19th edition.2008 - Erik D.Heegaard and Kevin Brown.2002.Human Parvovirus B19.Clin.Microbiol.Rev.15(3):485-505.
国立感染症研究所 感染症疫学センター