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IDWR 2015年第24号<注目すべき感染症> 最近のE型肝炎の状況

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注目すべき感染症、注:PDF版よりピックアップして掲載しています。

最近のE型肝炎の状況

E型肝炎は、E型肝炎ウイルス(HEV)の感染によって引き起こされる急性肝炎である。潜伏期は平均6週間といわれている。臨床症状はA型肝炎との共通点が多く、発熱、全身倦怠感、悪心、嘔吐、食欲不振、腹痛等の消化器症状を伴い、黄疸が認められるが、不顕性感染もある。まれに急性肝炎が悪化して劇症肝炎になり、劇症肝炎から死に至るケースもある。致命率(約1~2%)はA型肝炎より高い1。感染経路は、各国の衛生状態により異なり、いわゆる途上国では感染者の糞便中に排泄されたウイルスによる経口感染が主で、常時散発的に発生しており、時に飲料水を介する大規模集団発生が報告されている。一方、日本をはじめ世界各地で、E型肝炎は動物由来感染症として注目されており、近年の関心の高まりや、サーベイランスの感度等の向上の要因も含め、これまで少なかった先進国からの報告も増加している2-3。また、欧州や、隣国の韓国や台湾の血清抗体調査では、過去に感染した者が少なくなかったことが明らかになった4-6。わが国におけるE型肝炎は、1999年4月から施行された感染症法では、全数把握の4類感染症「急性ウイルス性肝炎」として医師に診断後7日以内の届出が義務付けられていた。2003年の同法改正に伴い、「E型肝炎」として独立した4類感染症となり、診断後ただちに届け出ることが必要となった(届出基準:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-01.html(外部サイトにリンクします))。本稿は、感染症発生動向調査に基づく国内の疫学状況に関する情報を提供することを目的とする。

直近3年間(2012~2014年(注)(注)2014年は以下全て暫定値)に感染症発生動向調査でE型肝炎と届出された患者報告数は402例であった〔2012年:121例、2013年:127例、2014年:154例(注)〕。うち、国内感染と推定された症例(国内例)が大半を占めた〔2012年:112例、2013年:117例、2014年:146例(注);計375例〕。これらの国内例の年齢中央値は60歳(範囲18~89歳)で、性別は男性が多かった〔314/375(84%)〕。また、国内例375例のうち273例はIgAによる診断であり、2012年には58/112(52%)であったIgA検出による診断数は、2013年には97/117(83%)、2014年には118/146(81%)と大きく増加したことは特徴的であり1,7)、E型肝炎のIgA抗体検出キットの保険適用(2011年10月)、感染症発生動向調査のE型肝炎届出基準検査方法へのIgA抗体検出の追加(2013年4月)による影響があったことが考えられた1,7。2015年は第22週(5月25日~5月31日)までに79例(暫定値)が報告されている8

2012~2014年の国内例における感染源の報告は、不明・未記載が〔224/375(60%)〕と最も多かったが、届出内に記載があり、単独の食材が推定された中では豚が最も多く〔54/151(36%)〕、次いでイノシシ〔19/151(13%)〕、シカ〔11/151(7%)〕の順であった。原因食材の複数記載例を含めて、豚肉の喫食が感染原因と推定されたもののうち、豚レバー(生かどうか不明を含む)、生肉(部位によらず)の喫食歴が記載されていたものは、それぞれ〔29/65(45%)〕、〔18/65(28%)〕であった9。豚レバーを生で食すると、E型肝炎以外にも、サルモネラ属菌や、カンピロバクター・ジェジュニ/コリ等の食中毒のリスクがある。また国外では、豚からの有鉤条虫、旋毛虫等の寄生虫への感染も報告されている。これまで一般的に生食用として提供されてこなかった豚の食肉(内臓を含む)が、飲食店等で「豚のレバ刺し」などで提供されている等の実態を受け、厚生労働省は公衆衛生上のリスクが高いと判断し、平成27年6月12日から、豚の生肉やレバー等の内臓を生食用として販売・提供することを禁止した10-12)

また、野生鳥獣であるイノシシやシカ等の食肉からもHEV、食中毒菌及び寄生虫が検出されている。厚生労働省は、「食肉を介するE型肝炎ウイルス感染事例について(E型肝炎Q&A)」13及び「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」14を掲載し、野生動物の肝臓・生肉喫食を避け、十分加熱調理して喫食することの必要性を訴えている12。国民全体にE型肝炎の感染のリスクについてより一層の周知徹底と理解が重要である。

参考文献

  1. 病原微生物検出情報(IASR)「E型肝炎 2005~2013年」
  2. Ahmed A,Ali IA,Ghazal H,Fazili J,Nusrat S.Mystery of hepatitis e virus:recent advances in itsdiagnosis and management.Int J Hepatol.2015;2015:872431.doi:10.1155/2015/872431.Epub 2015Jan 19.Review.
  3. Marano G,Vaglio S,Pupella S,Facco G,Bianchi M,Calizzani G,Candura F,Catalano L,Farina B,Lanzoni M,Piccinini V,Liumbruno GM,Grazzini G.Hepatitis E:an old infection with new implications.Blood Transfus.2015 Jan;13(1):6-17.doi:10.2450/2014.0063-14.Epub 2014 Sep 12.
  4. Mansuy JM,Saune K,Rech H,Abravanel F,Mengelle C,L Homme S,Destruel F,Kamar N,Izopet J.Seroprevalence in blood donors reveals widespread,multi-source exposure to hepatitis E virus,southern France,October 2011.Euro Surveill.2015 May 14;20(19).pii:21127.
  5. Hewitt PE,Ijaz S,Brailsford SR,Brett R,Dicks S,Haywood B,Kennedy IT,Kitchen A,Patel P,Poh J,Russell K,Tettmar KI,Tossell J,Ushiro-Lumb I,Tedder RS.Hepatitis E virus in blood components:a prevalence and transmission study in southeast England.Lancet.2014 Nov 15;384(9956):1766-73.doi:10.1016/S0140-6736(14)61034-5.Epub 2014 Jul 28.
  6. 病原微生物検出情報(IASR)「韓国と台湾におけるE型肝炎の疫学的状況-文献レビュー」
  7. Kanayama A,Arima Y,Yamagishi T,Kinoshita H,Sunagawa T,Yahata Y,Matsui T,Ishii K,Wakita T,Oishi K.Epidemiology of domestically-acquired hepatitis E virus infection in Japan:assessment of the nationally reported surveillance data,2007-2013.J Med Microbiol.2015 May 14.pii:jmm.0.000084.doi:10.1099/jmm.0.000084.[Epub ahead of print]
  8. 感染症週報(IDWR)2015年第22号
    http://www0.nih.go.jp/niid/idsc/idwr/IDWR2015/idwr2015-22.pdf
  9. 加納、砂川、有馬、大石ら.2007~2014年を対象とした感染症発生動向調査におけるE型肝炎の推移と感染リスクの推定に関する研究報告の紹介.第89回日本感染症学会(2015年4月).京都市
  10. 厚生労働省医薬食品局食品安全部長「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について」(2015年6月2日掲載)
    http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/150602hp_1.pdf(PDF:94.5KB)
  11. 厚生労働省「豚のお肉や内臓を生食するのは、やめましょう」(外部サイトにリンクします)
  12. 厚生労働省「豚肉や豚レバーを生で食べないで!」(外部サイトにリンクします)(PDF:328KB)
  13. 厚生労働省「E型肝炎ウイルスの感染事例・E型肝炎Q&A」(外部サイトにリンクします)
  14. 厚生労働省「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」(外部サイトにリンクします)(PDF:279KB)

国立感染症研究所
感染症疫学センター
ウイルス第2部

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