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富山県で発生したボツリヌス症の家庭内集団発生例について

公開日:2025年1月28日

(IASR Vol. 46 p20-22:2025年1月号)

はじめに

ボツリヌス症は、 ボツリヌス菌が産生するボツリヌス神経毒素によっておこる神経中毒疾患である。本疾患は、 感染症法上では4類感染症に位置付けられており、 その病態から1)ボツリヌス食中毒(食餌性ボツリヌス症)、 2)乳児ボツリヌス症、 3)創傷ボツリヌス症、 4)成人腸管定着ボツリヌス症、 の4型に分けられる。このうち、 ボツリヌス食中毒は国内では1984年以降、 2024年11月27日時点で、 本報告事例を含め35件〔国立感染症研究所(感染研)細菌第二部第三室所有データ、 疑い事例を含む〕が報告されている。過去30年間に国内で発生したボツリヌス食中毒の52.6%(10/19件)は、 原因食品として、 発酵食品や缶詰、 真空パック食品など、 嫌気状態の食品が報告されている(表1)。一方、 本報告事例を含む47.4%(9/19件)のボツリヌス食中毒の原因食品は不明であり、 特に2016年以降は原因食品が不明の事例が6事例報告されている(表1)。今回、 我々は同一家族内で4名の集団発生を経験した。本事例は家族内発症で時系列が追跡できた貴重な症例と考えられ、 経過を含め報告する。

症例

症例は5人家族内の4例。患者A(10代女性)、 患者B(50代女性、 患者Aの母)、 患者C(70代女性、 患者Aの祖母)、 患者D(80代男性、 患者Aの祖父)、 E(10代男性、 患者Aの弟)の5人家族で、 Eを除く4名が発症した。

臨床経過

患者Aが消化器症状や複視、 気分不快などで受診し、 体動困難であったため入院(day1)、 翌日には患者BおよびCも同一症状が出現し、 入院した(day2)。入院後、 全例症状は経時的に増悪。筋力低下に加え、 羞明、 便秘、 口喝、 頻脈などの自律神経障害も出現、 day4に患者Aは呼吸筋麻痺のために気管挿管の下に人工呼吸器管理が開始された。患者Dは軽度の複視のみで症状は軽かったものの、 症状が緩徐に増悪傾向であったため入院とした。day5に患者Bが呼吸筋麻痺で気管挿管、 人工呼吸器管理を開始した。

症状発現前の最後の食事から症状が現れるまでを推定潜伏期間とすると、 患者Aは約半日、 患者BおよびCは約1日、 患者Dは約3日であった。

day7に全例に4価ボツリヌス抗毒素を投与したが、 効果は限定的かつ一時的であり、 数時間で症状は再増悪した。同日中に患者Cが呼吸筋麻痺で気管挿管、 人工呼吸器管理となった。day9に後述する細菌学的検査でボツリヌス症が確定した。患者Dは症状が改善し、 day12に退院した。患者Cはday23に人工呼吸器離脱でき、 day90にリハビリ目的に転院となった。患者Bはday41に人工呼吸器離脱し、 day99にリハビリ目的に転院となった。最も重症であった患者Aは、 day100の段階で症状は改善傾向であるものの、 人工呼吸器依存状態となっている。Eは全く無症状であった。原因食品について保健所で詳細に検索したが、 特定することができなかった。

細菌学的検査

富山県衛生研究所(富山衛研)から感染研細菌第二部に患者検体(便、 血清)を送付し、 便、 血清のボツリヌス毒素検査および便のボツリヌス菌検査を行った。マウスを用いた検査の結果、 患者便はいずれもボツリヌス毒素検査陰性であった。一方、 患者血清の検査では、 患者A、 B、 Cの血清を投与したマウスでボツリヌス症特有の症状が出現したが、 患者Dの血清を投与したマウスでは症状出現は認めなかった(表2)。患者の便検体培養液を接種した試験では、 すべてのマウスがボツリヌス症特有の症状を呈して死亡し、 便中にボツリヌス菌が存在することが示された。また、 中和抗体を用いた検査にて、 A型ボツリヌス毒素が同定された1)。感染研および富山衛研で患者便の培養検査を行い、 感染研では患者4名の便から、 富山衛研では患者2名(B、 D)の便からボツリヌス菌(A型およびB型のボツリヌス毒素遺伝子陽性)が分離された。富山衛研は分離株の16S rDNA塩基配列による種同定を行い、 本菌がClostridium botulinumであることを確認した。マウス試験、 培養試験および遺伝子解析の結果から、 本菌はB型毒素遺伝子が機能していないA(B)型株であることが判明した。

また、 国立医薬品食品衛生研究所(国衛研)が患者宅から入手できた食品検体19検体のボツリヌス毒素検査を行ったが、 食品のボツリヌス毒素による汚染は陰性であった。富山衛研で食品検体19検体について培養検査・ボツリヌス毒素遺伝子検査を行ったが、 すべて陰性であった。これらの結果、 本事例の原因食品を特定することはできなかった。

考察

本事例は家庭内で発生した集団食中毒事例であるが、 いずれの患者も発酵食品や缶詰、 真空パック食品など、 嫌気状態の食品の喫食は認められず、 原因食品は不明であった。ボツリヌス食中毒の約半数は原因不明であることから、 患者に嫌気状態の食品の喫食歴が確認できないという理由からボツリヌス食中毒を否定する根拠にはならない。

また、 本事例では食餌摂取時間がほぼ同時と考えられ、 食餌摂取時間から発症までの推定潜伏期間が短い症例が最も重症化した。国外での報告でも、 潜伏期間が短い症例が重症化しやすいとされている2)。集団発生においては、 潜伏期間が短い症例では、 気管挿管や人工呼吸器管理を含めた集学的治療を要する可能性を考慮する必要があり、 同時に治療期間が長くなると考えられる。

参考文献

  1. Lindstrom M, Korkeala H, Clin Microbiol Rev 19:298-314, 2006
  2. An Y, et al., World J Emerg Med 15:365-371, 2024

富山大学医学部
救急科
川岸利臣 土井智章 渕上貴正 波多野智哉

感染症科
江嵜真佳 長岡健太郎 山本善裕

富山市保健所
瀧波賢治 山田雅俊

富山県衛生研究所
齋藤和輝 木全恵子 大石和徳

富山県
生活衛生課食品乳肉係
黒田真弓 西尾恵美里

感染症対策課
扇 のぞみ 川尻百香 竹内比佐子

国立感染症研究所
妹尾充敏 見理 剛(検査担当:油谷雅広)

国立医薬品食品研究所食品衛生管理部
百瀬愛佳 岡田由美子 上間 匡

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