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気管支喘息急性増悪で人工呼吸管理を要した幼児例からのエンテロウイルスD68の検出―小児喘息発作入院サーベイランス

(IASR Vol.46 p17-19:2025年1月号)

はじめに

小児気管支喘息の急性増悪において、 ウイルス感染は重要な要因の1つである。特に、 Enterovirus-D68(EV-D68)は、 1962年に発見されたウイルスで、 2015年の本邦におけるEV-D68エピデミック時に、 小児気管支喘息の急性増悪入院患者数や人工呼吸管理患者数が増加して以降、 注目され続けている1)。また、 EV-D68は、 急性弛緩性脊髄炎(AFM)の増加との関連も示唆されている2)

我々は、 EV-D68エピデミックを契機に、 全国33定点施設にて小児喘息発作入院サーベイランス3)を実施しており、 2010年からの喘息発作入院数データをもとに、 2020年からは病原体との関連を前向きにモニタリングしている。本研究においては、 全国協力施設にて気管支喘息増悪による入院数や人工呼吸管理数等を、 男女別、 年齢別等に収集し、 web入力したものを、 リアルタイムで一般にも公開している3)

病原微生物検出情報によると、 近年のEV-D68検出報告数は2021年(0件)、 2022年(43件)、 2023年(43件)であったが、 2024年12月中旬の段階で54件報告されている。気管支喘息、 下気道炎および急性弛緩性麻痺患者からの検出がみられ、 2024年に検出数が増加する傾向がみられた。特に第33週から検出数の増加が観察されている4)

我々が実施している小児喘息発作入院サーベイランスにおいても、 2024年にFilmArray(R)によりhuman rhinovirus/enterovirus(HRV/EV)の検出数が増え、 その中にEV-D68が含まれていることが懸念される状況であったが、 これまではEVが検出されても、 型別や配列の解析まではできていなかった。今回、 気管支喘息急性増悪において人工呼吸管理を要した小児例を精査し、 B3系統のEV-D68が検出されたため報告する。

症例

埼玉県在住の女児。入院1カ月前より咳嗽時に呼気性喘鳴を聴取するようになり、 ロイコトリエン受容体拮抗薬を内服していた。入院2日前より、 発熱と呼気性喘鳴、 咳嗽、 努力呼吸が出現し、 酸素需要もあり前医に入院した。気管支喘息と肺炎の診断のもと治療が開始されたが、 人工呼吸管理が必要となり、 当院小児集中治療室(PICU)に搬送された。喘息に対する治療として、 挿管人工呼吸管理、 β刺激薬の持続吸入、 ステロイド全身投与を実施した。その後、 呼吸状態は徐々に改善し、 各種治療を漸減・終了でき、 入院19日目に退院となった。

前医において、 FilmArray(R)呼吸器パネル検査ではHRV/EV(ビオメリュー社)が陽性であった。当院にてreal-time PCR〔FTD Respiratory pathogens 21(Fast Track Diagnostics社)〕を実施したところ、 HRVとEVの両方が陽性となった。人工呼吸管理を要する喘息であり、 HRVとEVを認めていたことからEV-D68の可能性を考え、 EV型別を実施5)したところ、 2022年にカナダで検出されたEV-D68(Accession No.PP474890)とVP1領域の部分配列が99%(663/668)一致した。今回検出されたEV-D68はB3系統であり、 B3系統は2024年8~9月にイタリア北部で症例が急増したことが報告されている6)

考察

人工呼吸管理を要した気管支喘息患者から検出されたEVがEV-D68と同定された。EV-D68は、 症例報告数が多い年では夏~秋にかけて症例数が顕著に増加し、 季節性が認められるとされている7)。実際、 本邦においては、 2010年、 2013年、 2015年、 2018年秋季にEV-D68の流行があり、 その際に気管支喘息の急性増悪およびAFMの増加をもたらした1)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行以降、 本邦や米国においては顕著なAFMの流行は発生していない7)。しかしながら、 我々の調査では、 COVID-19流行期に減っていた喘息発作入院8)は、 2023年5月8日にCOVID-19が感染症法上の5類感染症に変更となった後も、 入院患者数の増加はない(2020~2022年度:平均79.1人/月、 2024年4~10月:平均66.1人/月)ものの、 FilmArray(R)呼吸器パネル検査でHRV/EVの検出例が増え、 人工呼吸管理患者数も増えている現象(2020~2022年度:平均2.6人/月、 2024年4~10月:平均4.8人/月)がみられている3)。その間、 2024年7月以降、 東京都ではEV-D68が検出された患者が報告されており、 2024年10月には1施設から同時期に人工呼吸管理を要したEV-D68の2症例の報告もある9,10)。以上のことから、 本邦で2024年秋、 EV-D68が散発していることが疑われる。今回EVとともにreal-time PCRでRVが検出されていたが、 EV/RV用コンベンショナルPCR(VP4領域)11)ではEV-D68のみが検出された。2024年8月以降にイタリア北部でB3に加えA2系統のEV-D68も急増して重度の呼吸器感染症に関与していることが報告された5)。今後、 EV-D68に関連した気管支喘息の急性増悪やAFMの増加を認めないか、 小児喘息発作入院サーベイランスを介して、 注意深い観察を実施していく予定である。

参考文献

  1. Korematsu S, et al., Allergol Int 67:55-60, 2018
  2. Jorgensen D, et al., Lancet Microbe 2024:100938, 2024
    https://doi.org/10.1016/j.lanmic.2024.07.001(外部サイトにリンクします)
  3. 是松聖悟, 小児喘息発作入院サーベイランス
    https://asthma-attack.children.jp/view.php?page=index(外部サイトにリンクします)(2024年11月9日確認)
  4. 国立感染症研究所, IASR 速報グラフ ウイルス 週別診断名別Enterovirus 68分離・検出報告数, 2023&2024年(PDF:9KB)(2024年12月19日確認)
  5. 蕪木康郎ら, 感染症誌 91:376-386, 2017
  6. Pariani E, et al., Euro Surveill 29:2400645, 2024
  7. CDC, AFM Cases & Outbreaks
    https://www.cdc.gov/acute-flaccid-myelitis/cases-in-us.html(外部サイトにリンクします)(2024年11月9日確認)
  8. Korematsu S, et al., Clin Transl Allergy 14:e12330, 2024
  9. 東京都感染症情報センター, 東京都感染症週報(TIDWR)27~44週
    https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/weekly/(外部サイトにリンクします)(2024年11月9日確認)
  10. 庄司健介ら, IASR 45:223-224, 2024
  11. Ishiko H, et al., J Infect Dis 185:744-754, 2002

埼玉医科大学総合医療センター
小児科
村越由佳 林 亮 是松聖悟

高度救急救命センター小児救急集中治療部門
長田浩平 櫻井淑男

兵庫県立健康科学研究所感染症部
荻 美貴

国立感染症研究所真菌部
藤本嗣人

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