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2024年に経験した輸入症例を起点とした大阪府内の麻疹広域集積事例の疫学および分子疫学解析

(IASR Vol. 45 p224-225: 2024年12月号

大阪府内では2024年2月24日に関西国際空港経由で帰国した患者(初発例)1)を起点とし、2~3月にかけて麻疹広域集積事例が発生した。大阪府内ではこの期間に7例の麻疹患者届出があった。本稿では、大阪健康安全基盤研究所(大安研)および堺市衛生研究所で実施した検査を基に、本集積事例の疫学および分子疫学解析について報告する。

方法

大阪府内の麻疹症例および健康観察者のうち2月20日~4月12日に発熱等の症状を呈した89例について(図1)、大安研および堺市衛生研究所で国立感染症研究所(感染研)の病原体検出マニュアル2)に従い麻疹検査を実施した。感染研ウイルス第三部の協力を得て、麻疹ウイルスM/F-non cording region(NCR)領域の系統樹解析を行った。

疫学的背景

初発例は20代男性で2月20日に発熱、2月24日に発疹を呈し、2月29日に麻疹と診断された。麻しん含有ワクチン(以下、ワクチン)接種歴はなく、麻疹流行地を含む複数の国に滞在歴があった。感染性を有する期間に帰国していることから、帰国飛行機の同乗者へ向けて、そして不特定多数との空間共有の可能性があった機会について注意喚起がなされた。

初発例の同乗者でその後麻疹と診断された3例(図1)のうち最も発症日が遅かった患者は3月15日(初発例との最終接触日から20日目)で、修飾麻疹として届け出られ、2回のワクチン接種歴があった。

海外渡航歴のない麻疹患者3例の届出が3月にあった。1例目はワクチン接種歴1回で、初発例との接触が確認され健康観察中であった者。2例目はワクチン接種歴1回で、疫学調査の結果、初発例との空間共有が確認された者。残りの1例は0歳児(患者アとする)のワクチン未接種者で、疫学調査の聞き取りでは、患者の日常生活圏と初発例の行動範囲は重なる部分はあったものの、対面や空間共有機会等までは確認されなかった者であった。

本集積事例に関連した接触者のうち6例が緊急ワクチン接種、3例が免疫グロブリン製剤の投与を受け、それらの接触者からは新規患者は発生していない。

実験室診断および分子疫学解析結果

Real-time RT-PCRの結果、89例中7例(7.9%)で麻疹ウイルスゲノムが検出された。検査された検体全体の発症から検体採取までの日数は中央値3日(範囲0-19日)、陽性検体に限っては中央値4日(範囲1-11日)であった。麻疹ウイルス陽性患者の臨床検体抽出RNAから遺伝子型別領域〔nucleoprotein (N) C末端450bp〕を増幅し、系統樹解析を行った結果、検出された7例の塩基配列はすべて同一で、遺伝子型はD8であった(図2A)。これらの配列は、これまで国内および海外で検出されたことはなく、2021年のタジキスタン(TJK)、2023年のロシア(RUS)、スイス(CHE)で検出された配列と最も近縁であった。初発例や麻疹患者と接触歴がなく、同時期に発生した患者アの感染源探索のため、麻疹ウイルスM/F-NCR領域の増幅を試みたところ、7例中、患者アを含む6例で配列が得られた。6例の配列は完全に一致しており、同一ウイルスに由来する集積であることが示唆された。また、系統樹解析では2023年にロシア(RUS)で検出された株と最も近縁であった(図2B)。

考察

麻疹ウイルスM/F-NCR領域は配列の多様性が高いため、ウイルスの近縁系統関係を解析する際は有用な領域であることが報告されている3,4)。患者アから得られたM/F-NCRの配列(MVs/Osaka.JPN/10.24)が初発例(MVs/Osaka.JPN/8.24)と一致していたことは、同一ウイルスを起源とした集積を示す重要な情報であった。今後ウイルスの近縁系統関係を解析する際、理想は全ゲノム解析であるが、技術および費用の面から迅速な対応が難しい状況も想定されるため、地方衛生研究所の検査において、M/F-NCR領域による部分配列の解析が重要になると考えられた。

患者アと初発例の疫学的および分子疫学的背景から、患者アと本集積事例との関連性が推察された。ワクチン未接種で典型麻疹を発症した患者から、接種年齢に満たない等のワクチン未接種者に対しては、明らかな接触歴が確認されなかった場合でも感染が起こりうる可能性が示唆された。このことからも適切な機会にワクチンを接種することで、周囲の感受性者への感染機会を予防することが重要である。

参考文献

  1. 吉田香織ら, IASR 45: 155-156, 2024
  2. 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル 麻疹・風疹同時検出法 第1版 令和4(2022)年10月
  3. Penedos AR, et al., PLoS ONE 10: e0143081, 2015
  4. WHO, Wkly Epidemiol Rec 93: 55-59, 2018

大阪府感染症情報センター
本村和嗣

大阪健康安全基盤研究所
公衆衛生部健康危機管理課
柿本健作 入谷展弘

微生物部ウイルス課
倉田貴子 上林大起 改田 厚 森川佐依子 廣井 聡
平井有紀 小山芽以 阿部仁一郎

堺市衛生研究所
三好龍也 水谷英揮 小林仁美 福田弘美

大阪府総務部
松本一美

大阪府健康医療部保健医療室感染症対策課
西野裕香 梶川智洋 坂本 愛

大阪市
健康局
吉田英樹

保健所
中山浩二 廣川秀徹 國吉裕子 齊藤武志

堺市保健所
藤井史敏 康 茆瑛 山中八重

東大阪市保健所
松本小百合

大阪府四條畷保健所
浅田留美子

大阪府岸和田保健所
宮園将哉

大阪府泉佐野保健所
柴田敏之

関西医科大学総合医療センター
田邉雅章

国立感染症研究所ウイルス第三部
大槻紀之

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