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沖縄県の医療機関における侵襲性A群溶血性レンサ球菌感染症の遺伝子型解析

公開日:2024年10月25日
(IASR Vol. 45 p173-174: 2024年10月号)

はじめに

A群溶血性レンサ球菌(group A Streptococcus: GAS、 Streptococcus pyogenes)による感染症は、 咽頭炎や猩紅熱、 蜂窩織炎や肺炎、 菌血症など重症度は様々である。GASによる感染症のサーベイランス対象疾患は各国で異なる1)。海外では、 猩紅熱と侵襲性GAS(invasive GAS: iGAS)感染症を対象としていることが多いが、 日本ではGAS咽頭炎および劇症型溶血性レンサ球菌感染症(Streptococcal toxic shock syndrome: STSS)がそれぞれ5類小児科定点把握疾患および5類全数把握疾患と定められている2)。STSSにはGAS以外のβ溶血性レンサ球菌によるものも含まれている。

GASの分類は、 Mタンパクをコードするemm遺伝子配列で行われる。emm1型を保有するM1型株が軽症のGAS感染症でもiGAS感染症でも最も多く分離される。27種類の単塩基置換によるM1UK株は従来株(M1global株)と比較して発赤毒素(SpeA)の産生量が約9倍多く、 伝播性も高いとされている2)。英国では2010年以降、 M1UK株の頻度が増加しており、 2020年にはiGAS感染症を発症したemm1型のうち約90%をM1UK株が占めている3)

猩紅熱やiGAS感染症は世界的に増加しており、 日本では2018~2023年においてGAS咽頭炎およびSTSSは2023年の報告が最も多くなっている2)。沖縄県立南部医療センター・こども医療センター(以下、 当院)は、 沖縄県南部に位置する成人および小児を対象とした急性期病院であり、 2023年以降、 小児を中心に成人も含めてiGAS感染症例が増加している。この要因として血清型の関与が考えられ、 国内のGAS咽頭炎およびSTSSの症例数増加傾向を鑑みても、 当院におけるiGAS株の詳細を解析することは疫学的特徴を把握するために重要であると考える。

対象と方法

<選択基準>

下記(1)(2)を満たす症例のうち、 沖縄県南部保健所が積極的疫学調査を必要とすると認めた症例

  • (1)2023年1月~2024年3月の期間にGASが無菌的部位(血液、 髄液、 胸水、 関節液、 滲出液、 膿など)から検出され、 かつ検体が保存されている症例
  • (2)2024年4月~2024年5月の期間にGASが無菌的部位(血液、 髄液、 胸水、 関節液、 滲出液、 膿など)から検出された症例

<除外基準>

  • (1)培養結果でGASが検出されたが治療対象としていない症例
  • (2)検体が破棄されている症例

<方法>

本研究は感染症法第15条に基づき、 沖縄県南部保健所のもと沖縄県衛生環境研究所の協力を得て行う積極的疫学調査により得られた遺伝子型解析結果による記述研究である。遺伝子検査はゲノムライブラリーを作成後、 iSeq100(Illumina)により1,500bpのペアエンド解析を行った。emm遺伝子型、 発赤毒素遺伝子型をGAS-Jにて解析した。emm1の株はStreptococcus pyogenes MGA5005株の完全長ゲノム(国際塩基配列データベースのアクセッション番号: NC_007297)を参照配列として、 マッピング法により単一塩基置換(SNPs)を検出し、 M1UK株特有の27カ所の変異の有無を確認した。

結果

期間中のiGAS感染症例は20例であった。2023年1~12月のiGAS感染症例は4例であり、 2024年1~5月のiGAS感染症例は16例であった()。20症例の年齢分布は小児(18歳未満)が14例(70.0%)、 成人が6例(30.0%)であり、 性別は女性: 男性=2:3であった。妊婦の症例は認めなかった。診断名は、 蜂窩織炎6例、 膿胸6例、 STSS2例、 その他6例(創外固定部デバイス感染、 扁桃周囲膿瘍、 乳突蜂巣炎、 化膿性リンパ節炎、 化膿性股関節炎、 皮下膿瘍)であった。M1UK株が20例中7例(35.0%)を占めた()。7例の内訳は、 蜂窩織炎3例、 膿胸3例、 化膿性股関節炎1例であった。疾患ごとでは、 蜂窩織炎6例中M1UK株3例、 M1global株2例、 M1intermediate(13SNP)1例であり、 膿胸6例中M1UK株3例、 M1global株2例であった。

考察

当院では2023~2024年にかけてiGAS感染症例が増加している。全症例のうち蜂窩織炎と膿胸を合わせて12症例(60.0%)を占めていた。M1UK株は計7例(35.0%)であるが、 蜂窩織炎および膿胸ではM1UK株がそれぞれ50.0%と、 疾患ごとに頻度差がみられた。GAS咽頭炎が秋~冬にかけて流行することを鑑みると、 2024年の秋からiGAS感染症例が再度増加する可能性がある。予防方法は標準予防策であり、 手指衛生の重要性を周知することが大切と考える。

注意事項

本稿は、 迅速な情報共有を目的とした資料であり、 内容や見解は知見の更新によって変わる可能性がある。

参考文献

  1. CDC, Group A Strep Disease Surveillance and Trends
    https://www.cdc.gov/group-a-strep/php/surveillance/index.html(外部サイトにリンクします)
  2. 光嶋紳吾ら, IASR 45: 29-31, 2024
  3. Li HK, et al., Microb Genom 9: 1-15, 2023

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター
小椋奈緒 荒木孝太郎 張 慶哲 成田 雅

沖縄県南部保健所
玻名城恭子 勝連拓磨 国吉 萌 屋嘉比麻里 森近省吾

沖縄県衛生環境研究所
久手堅 剛 喜屋武向子 大西 真

国立感染症研究所
実地疫学専門家養成コース(FETP)
椎木創一

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