障がい者支援施設におけるヒトコロナウイルスOC43の集団感染事例―富山県
公開日:2024年6月28日
(IASR Vol. 45 p105-106: 2024年6月号)
ヒトコロナウイルスOC43(HCoV-OC43)は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と同じベータコロナウイルス属に属するウイルスである。本ウイルスはHCoV-229E、HCoV-NL63、HCoV-HKU1と同様にヒトの上気道炎の主な原因であり、冬季に流行することが多い1,2)。ほとんどのヒトは小児期に本ウイルスに感染し、その後も感染を繰り返すことが知られている2)。
これまでに稀ながら国内外で長期療養施設におけるHCoV-OC43による集団感染が報告されている。高齢者において、HCoV-OC43は肺炎等の下気道疾患を引き起こすことが知られている3,4)。今回、2023年3月中旬~4月上旬にかけて、富山県内の障がい者支援施設においてHCoV-OC43が原因と考えられる呼吸器疾患の集団感染が発生し、肺炎症例や死亡例がみられたことから、その概要を報告する。
2023年3月19日に、当該施設(入所施設利用者80名、職員45名)から管轄保健所に発熱や咳嗽などの呼吸器症状を呈する入所者が多数いる、との報告があった。保健所は施設内の患者発生状況を調査した。その結果、2023年3月19~31日の間に発熱、声嗄、鼻水を主症状とする入所者が42名(19~79歳、中央値44歳)、職員が4名確認された(図)。発症した入所者の背景および臨床像の基礎集計を表に示す。38名(90%)に基礎疾患があり、てんかん(29名、69%)、甲状腺機能低下症(5名、12%)を有していた。患者の多くは発熱、上気道炎の症状を呈した。うち3名が上気道炎の発症1日後、2日後、5日後に肺炎と診断された。重症肺炎を発症した1名は50代の男性であり、基礎疾患として、てんかん、亜鉛欠乏、甲状腺機能低下症、低体温症を有していた。本患者は3月22日に上気道炎を発症後、3月23日には医療機関における胸部CT画像所見から肺炎と診断され、ペニシリン系抗菌薬の内服による外来治療を受けた。しかし、3月26日には低酸素血症、胸部CT画像の増悪が認められたため、入院のうえ、レボフロキサシン、メチルプレドニゾロンが投与されたが、3月31日に死亡した。他の軽症肺炎の2名は外来受診後、施設内で療養し、回復した。一方、職員4名はいずれも軽症であった。
施設では、3月19~20日にかけてSARS-CoV-2およびインフルエンザウイルスの抗原検査を発症者5名に実施したが、すべて陰性であった。また、入所者が受診した医療機関では、SARS-CoV-2、インフルエンザウイルス、尿中肺炎球菌抗原、尿中レジオネラ抗原の迅速検査を3名に、ヒトメタニューモウイルスの抗原検査を1名にそれぞれ実施したが、いずれも検出されなかった。
保健所は原因となった病原体を明らかにするために、3月22~25日に呼吸器症状を呈した入所者3名から、3月28日に鼻咽頭ぬぐい液を採取し、富山県衛生研究所(以下、当所)に検査を依頼した。当所では、インフルエンザウイルスA型、B型、ライノウイルス、エンテロウイルス、RSウイルス、ヒトボカウイルス、HCoV-OC43、HCoV-NL-63、アデノウイルスB種、C種、ヒトメタニューモウイルス、パラインフルエンザウイルス1-4型を対象としたreal-time PCR5)を実施した。その結果、3名中1名からHCoV-OC43遺伝子が検出された。その他の呼吸器ウイルスは検出されなかった。さらに、3月22~27日に発症した4名の鼻咽頭ぬぐい液、死亡者1名の喀痰を3月30~31日に採取し、HCoV-OC43のreal-time PCR検査を実施したところ、5名すべてからHCoV-OC43遺伝子が検出された。これらのことから、本事例はHCoV-OC43を原因とする集団感染と推定された。
保健所は、入所者の健康観察を記録し、全体の状況を把握すること、また、職員、利用者ともに有症時は連携医療機関と相談・対応すること、を施設に指示した。
当所では、国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センターの協力のもと、死亡例検体のメタゲノム解析も試みたが、死亡に起因するような他の病原体は検出されなかった。また本事例で検出されたHCoV-OC43の遺伝子配列決定やウイルス分離は、ウイルス遺伝子量が少なかったことから実施できなかった。
なお、当該施設では、面会者の制限、施設内の消毒、手洗い手拭きの励行、マスク着用、換気、発症者の早期発見と濃厚接触者の同室居住、などの感染拡大防止対策を実施した。その結果、4月8日以降、新たな患者は確認されていない。
HCoV-OC43を含む呼吸器ウイルス感染症は、集団生活の場において、飛沫や接触により感染が拡大しやすい3,4)。施設で本事例のような呼吸器感染症が発生した場合、早期に感染拡大防止対策を講じることが重要であり、入所者および職員の健康管理や、来所者に対する注意喚起が求められる。しかしながら、本事例では、障がいのある入所者においては、感染対策への理解と協力を得ることが難しかった。
HCoV-OC43による感染症は、感染症法上の届出疾患ではないが、入所者が高齢であったり、基礎疾患等がある場合には、重症化の可能性を念頭におくべきと考えられる。
謝辞: 本報告を行うにあたり、検体採取および情報提供にご協力くださいました関係各位に深謝いたします。
参考文献
- Komabayashi K、et al.、Jpn J Infect Dis 73: 394-397、2020
- Kolehmainen P、et al.、Microbiol Spectr 10: e0196721、2022
- Ohyama K、et al.、Antimicrob Steward Healthc Epidemiol 3: e97、2023
- Birch C、et al.、Epidemiol Infect 133: 273-277、2005
- Obuchi M、et al.、Jpn J Infect Dis 68: 259-261、2015
富山県衛生研究所(富山県疫学調査支援チーム)
板持雅恵 田村恒介 嶌田嵩久 矢澤俊輔 新保孝治
谷 英樹 大石和徳
富山県中部厚生センター
荒谷三佳 小倉憲一
富山県厚生部健康対策室感染症対策課
松田千穂 川尻百香 竹内比佐子
かみいち総合病院
佐藤幸浩
国立感染症研究所病原体ゲノム解析研究センター
堀場千尋