福岡県におけるヒトアストロウイルスの包括的検出と流行状況の把握(2018~2022年)
公開日:2024年3月26日
(IASR Vol. 45 p47-49:2024年3月号)
はじめに
ヒトアストロウイルス(human astrovirus:HAstV)は、主に乳幼児において感染性胃腸炎を引き起こす公衆衛生上重要なウイルスであり、遺伝子型により、classic HAstVはHAstV 1~8の8種類、MLB HAstVはMLB 1~3の3種類、およびVA HAstVはVA 1~5の5種類に分類される1)。我々はこれまでに、2015~2016年にかけて福岡県の終末処理場の流入水中からclassic HAstV、MLB HAstV、VA HAstVを検出したことから、福岡県においてこれらのヒトアストロウイルスが流行していると推察している2)。一方、当所において臨床検体を対象として実施するヒトアストロウイルス検出方法では、classic HAstVのみを検出するMon269/270プライマー3)を用いており、MLB HAstVとVA HAstVは検出できない。そこで今回、SF0073/SF0076プライマー4)を臨床検体に適用し、流行状況の把握を試みたので報告する。
方法
2018年1月~2022年12月に、感染症発生動向調査事業において福岡県内(福岡市、北九州市を除く)の医療機関で採取された糞便検体381検体からQIAamp Viral RNA Mini Kit(QIAGEN)でRNAを抽出し、QIAGEN OneStep RT-PCR Kit(QIAGEN)を用いてヒトアストロウイルスのORF1b領域の一部を標的としたプライマー(SF0073:5’-GATTGGACTCGATTTGATGG-3’、SF0076:5’-CTGGCTTAACCCACATTCC-3’)4)でPCRを行った。ヒトアストロウイルスが検出された検体についてWizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)でPCR増幅産物を精製し、BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Thermo Fischer Scientific)を用いてシーケンス反応を行い、3500XL Genetic Analyzer(Thermo Fischer Scientific)で塩基配列を決定した。また、最尤法を用いた系統樹解析により遺伝子型を分類した。
結果と考察
2018~2022年までの5年間で、ヒトアストロウイルスが27検体から検出された(表1)。検体採取時の診断名は、No.15の手足口病以外すべて感染性胃腸炎の検体であり、少なくとも2018年ではヒトアストロウイルスは季節を問わず検出された。遺伝子型は、classic HAstVとしてHAstV 1が15検体、HAstV 8が3検体(No.4、7、13)、HAstV 4が1検体(No.3)検出された。また、MLB 1が6検体(No.1、2、5、17、18、26)、MLB 2が1検体(No.24)、VA 2が1検体(No.19)検出された。MLBとVA HAstVはこれまでのMon269/270プライマー3)ではいずれも検出されなかった。また今回、これまでの検査では検出されなかった検体からもclassic HAstVが検出され、SF0073/SF0076プライマーを用いた今回の検出系では、ヒトアストロウイルスの検出数が16検体から27検体に増加した(表1)。
2018~2022年のヒトアストロウイルスの検出率と検出された遺伝子型について年別にまとめた結果を表2に示す。糞便検体数は2018年が135検体と最も多く、2020~2022年にかけては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響もあってか検体数が減少した。ヒトアストロウイルスの検出数は、2018年が14検体と最も多く、検出率は10.4%であった。検出数や検出率にばらつきがあるものの、ヒトアストロウイルスは感染性胃腸炎の原因ウイルスとして毎年流行に関与していると考えられた。2018~2022年にかけて、classic HAstVの検出数が最も多く、その中でもHAstV 1は毎年検出され、検出されたヒトアストロウイルス全体においても検出数が最も多かった。次に多く検出されたのはMLB HAstVで、中でもMLB 1が2018年、2019年、2021年にそれぞれ3、2、1の計6検体検出された。5年間の調査によって、福岡県内ではMLB 1がHAstV 1に次いで流行している遺伝子型であることが示された。また、HAstV 4、HAstV 8、MLB 2、VA 2も検出された(表2)。このように、本研究で行った5年間の調査において、多様な遺伝子型が毎年のように検出されたことから、ヒトアストロウイルスの遺伝子型の動向について、症状や感染性の違いも含め、今後も注視する必要がある。
まとめ
SF0073/SF0076プライマーを用いた検出系の導入により福岡県内の臨床検体からのヒトアストロウイルス探索向上への有用性が示された。これまでの県内における流入水の調査結果2)や、国内で 2012~2013年に下痢症状で小児科外来を受診した患者からclassic HAstV 1とHAstV 4、MLB 1とMLB 2、VA 2 HAstVが検出されたという報告5)とも合致する。本研究により、2018~2022年の5年間における福岡県内のヒトアストロウイルスの遺伝子型ごとの検出状況が明らかとなり、福岡県でもclassic HAstVに加えて、MLB HAstVやVA HAstVが感染性胃腸炎に関与していることが明らかとなった。今後も、ヒトアストロウイルス遺伝子型の流行状況を包括的に把握することが重要である。
謝辞:福岡県感染症発生動向調査事業にご協力いただいている医療機関、保健所職員の皆様に感謝申し上げます。
本研究の一部は、大同生命厚生事業団の2019年度地域保健福祉研究助成を受けて実施した。
参考文献
- Vu DL, et al., Viruses 9: 33, 2017
- 吉冨秀亮ら, 流入水中アストロウイルスのMLB-AstVs及びVA-AstVsを含めた検出, 第66回日本ウイルス学会学術集会
- Noel JS, et al., J Clin Microbiol 33: 797-801, 199
- Finkbeiner SR, et al., Virol J 6: 161, 2009
- Khamrin P, et al., J Med Virol 88: 356-360, 2016
福岡県保健環境研究所
上田紗織 小林孝行 中村麻子 金藤有里 芦塚由紀