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北海道で初めて確認された水系感染疑いのレプトスピラ症の1例

公開日:2024年3月26日

(IASR Vol.45 p46-47:2024年3月号)

はじめに

レプトスピラ症(leptospirosis)は、レプトスピラ属細菌(Leptospira spp.)によって引き起こされる人獣共通の細菌感染症である1)。レプトスピラはげっ歯類を中心とした動物の腎尿細管に定着しており、尿とともに排出される。ヒトは保菌動物の尿により汚染された水や土壌から経皮的あるいは経粘膜的に感染する2)

近年では、河川でのレジャーの他、台風および大雨によって流出した汚染水への曝露が原因とされる、いわゆる水系感染事例が報告されている3-5)。本症は国外では主に熱帯や亜熱帯で発生し、本邦では症例の半数以上が沖縄県に集中しており、沖縄県以北においても集団発生事例が報告されている2,6)。2016年1月~2022年10月までに本邦では273例の届出があり、各年16-76例の間で推移している4)。2006年4月~2023年8月まで、北海道では2例報告されているのみである。1例目は感染地域が「北海道」ではあったが、感染源は患者宅で飼育されていたハムスターと推定された症例であり7)、2例目は推定感染地域が「沖縄県」と推定された症例であった。

今般、北海道内における水系感染が疑われるレプトスピラ症の初の症例が報告されたため、その概要について報告する。

症例

2023年に国外・北海道外への旅行歴がなく、基礎疾患のない北海道在住の30代男性。入院時に目立った外傷等はなく、周囲に体調不良者は確認されなかった。動物の飼育および接触歴がなく、居住地近辺における河川等での活動歴があった。2023年9月X日(第1病日)に37℃台の発熱、頭痛、尿の混濁が出現し、市販薬で対応していたが改善しないため第5病日に近医を受診し、第6病日に札幌厚生病院にて入院となった。入院時の検査所見は、WBC 8,900/μL、Hb 12.8g/dL、Plt 19,000/μL、Tbil 1.0mg/dL、AST 174U/L、ALT 217U/L、LDH 304U/L、Amy 158U/L、CK 693U/L、BUN 26.3mg/dL、Cr 1.82mg/dL、Na 127mmol/L、K 3.2mmol/L、CRP 17.46mg/dL、尿蛋白 1+、尿潜血 1+、尿白血球 -、尿亜硝酸 -、尿細菌 1+であった。胸部Xp、心電図、心臓超音波検査で異常は認められなかった。レプトスピラ症以外の鑑別診断として敗血症、全身性エリテマトーデス等の自己免疫疾患、EBウイルス感染症(慢性活動性EBウイルス感染症を含む)、等が疑われたが、血液培養や抗体検査の結果、いずれも否定的であった。

臨床症状や活動歴からレプトスピラ症が疑われ、入院当日(第6病日)、第10病日および第13病日の血清検体を国立感染症研究所細菌第一部に送付し、レプトスピラ特異的遺伝子および抗体検査を実施した。レプトスピラ特異的遺伝子は検出されなかったが、国内で報告のあるレプトスピラ15血清型生菌を用いた顕微鏡下凝集試験にてL. borgpetersenii serovar Poiに対して50倍(第6病日)から400倍(第10病日)、L. interrogans serovar Hebdomadisに対して50倍(第6病日)から400倍(第10病日)等、複数の血清型に対して4倍以上の有意な抗体価上昇が認められ()、レプトスピラ感染が血清学的に証明された。ペニシリン系抗菌薬を投与したところ、速やかに臨床症状の改善が認められ、後遺症なく第14病日に退院となった。退院後の経過も良好である。

考察

本症例は、北海道内での水系感染が疑われ、実験室診断により確定したレプトスピラ症例である。北海道外への旅行歴およびげっ歯類等の動物との接触歴はなく、河川等での活動歴を認めた。加えて、発症の4日前、10日前に活動地域付近で大雨および洪水注意報が発令されており、居住地近辺における河川が増水していたと推測され、この期間内に河川等で活動していたことが確認されている。これらの状況から、レプトスピラに汚染された淡水への曝露による水系感染の可能性が考えられた。

活動地域付近のレプトスピラの浸淫状況は不明であるが、北海道内における野生動物や土壌からのレプトスピラの検出報告8,9)もあり、北海道においても野外活動によりレプトスピラに感染するリスクは潜在的に存在するものと思われる。

熱帯・亜熱帯地域が主な流行地であることから、北海道では旅行歴がない患者においては本症が鑑別疾患に挙げられない可能性があり、診断および治療の遅れが危惧される。そのため、本事例は保健所や医師会を通じて発生地域近郊の医療機関に情報共有された。また、北海道では本症の認知度が低いことが推測されることから、北海道民への情報発信も重要である。レプトスピラの感染予防として、大雨や台風等の影響で増水し、溢れ出た水との接触を避けること、擦り傷や切り傷がある場合は河川での遊泳やレジャーを控えること、河川遊泳時に体に傷をつくらないよう着衣すること、等も道民に啓発していく必要がある。

今後、患者発生の動向に注視を継続するとともに、北海道内におけるレプトスピラの浸淫状況を把握し、効果的な対策に繋げることが重要である。

謝辞: 日頃より感染症発生動向調査にご尽力いただいております医療機関や管轄保健所の皆様に深謝いたします。

参考文献

  1. 国立感染症研究所, レプトスピラ症とは
  2. 越湖允也ら, IASR 44: 29-30, 2023
  3. 松本道明ら, IASR 33: 14-15, 2012
  4. 小泉信夫ら, IASR 38: 42-43, 2017
  5. 児玉亘弘ら, IASR 44: 30-31, 2023
  6. IASR 37: 103-105, 2016
  7. 小笠原卓ら, 感染症学雑誌 92: 144-147, 2017
  8. 吉識綾子ら, 獣医疫学雑誌 15: 100-105, 2011
  9. Masuzawa T, et al., Microbiol Immunol 62: 55-59, 2018

北海道立衛生研究所
高津祐太 川代愛梨 田宮和真 越湖允也
山口宏樹 三好正浩 森本 洋 藤谷好弘 人見嘉哲

JA北海道厚生連札幌厚生病院血液内科
高畑むつみ 鈴木かなん 石尾 崇 岩崎 博 井端 淳

札幌市保健所
川原良介 大塚圭輔 山口公一 森 卓哉 葛岡修二
山口 亮

国立感染症研究所細菌第一部
小泉信夫

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