2018年のSalmonella enterica serovar Oranienburg菌血症集積事例株と同一クローン由来株による新たな感染事例と各地の食品取り扱い従事者からの同クローンの分離
公開日:2023年8月30日
(IASR Vol.44 p127-128:2023年8月号)
背景
2018(平成30)年8月、鹿児島市を中心としたSalmonella enterica serovar Oranienburg(S.Oranienburg)による菌血症の集積事例(12例)が発生し、これらが同一クローン由来株に起因することをIASRに報告した1)。その後、集積事例由来株(12株)と海外分離株(約1,600株)、国内分離株(25株)について全ゲノム系統解析を実施した結果、国内分離株のうち集積事例とは関連のない鹿児島県の食品取り扱い従事者糞便由来株2株が集積事例株と同一クローン由来であることが明らかとなった2)。そのため、共通感染源が存在する可能性を考え、鹿児島県を中心にS.Oranienburgによる食中毒事例・感染事例を継続的にモニタリングしていたところ、2022年7月に鹿児島県内の同じ地域で関連のない2人の患者(30代男性および3歳男児。ともに特記すべき基礎疾患なし)から本菌が分離された。
方法
健康保菌者によって汚染された食品を介した感染も想定し、2019年に全国の食品取り扱い従事者の糞便に対するサルモネラ属菌保菌検査3)において検出された菌株のうち、S.Oranienburgと同定された8株、ならびに上記患者由来株に対して全ゲノム系統解析を行った。なお本研究は、鹿児島大学桜ヶ丘地区疫学研究等倫理委員会の承認を得て行った(承認番号190105疫)。
供試菌株
患者由来株
上記2022年7月散発症例2例から分離された株を供試した。1株は血液由来、1株は糞便由来で、行政検査として鹿児島県環境保健センターで血清型別を行ったところ、血清型はS.Oranienburgと同定された。
食品取り扱い従事者由来株
2019年に食品取り扱い従事者検便から分離され、血清型S.Oranienburgと同定された8株(福岡県4株、宮崎県1株、熊本県1株、大阪府1株、兵庫県1株)を供試した。
解析結果
次世代シーケンサーMiSeqでドラフトゲノム配列を取得し、高精度ゲノム系統解析・single nucleotide polymorphism(SNP)解析を実施した結果、食品取り扱い従事者糞便由来2019年分離株7株(福岡県3株、宮崎県1株、熊本県1株、大阪府1株、兵庫県1株)と2022年鹿児島県患者由来2株は、2018年菌血症集積事例株との株間のSNP数が約4.7Mbpのゲノム配列の中で18塩基以内(未発表データ)であり、2018~2022年までの約4年間で生じる変異頻度(サルモネラ属菌では0.44-5.0SNPs/genome/yearとされている)から同一クローン由来と推定された。その他の食品取り扱い従事者糞便由来1株(福岡県1株)は上記の株と39塩基以上のSNP数があり、2018年の菌血症集積事例株およびその派生株とは全く異なる系統に分類された。
考察
非チフス性サルモネラ属菌による食中毒は、わが国の細菌性食中毒事例の6.4%(厚生労働省食中毒統計、2017~2021年の平均)を占めている。今回の解析で、これらの患者由来株ならびに2019年に九州を中心とした食品取り扱い従事者糞便から分離された株が、2018年の菌血症集積事例由来株と同一クローン由来と考えられることが明らかになった。この結果は、2018年以降、菌血症集積事例の原因となったクローンおよびその派生株が広い地域で分離されていることを意味する。その理由としては、「同一感染源に複数のサブクローンが混在し、それが広域に広がっている」あるいは「祖先クローンが広く蔓延し、少しずつ変異が蓄積したサブクローンが各地で分離されている」可能性が考えられた。なお、今回解析した食品取り扱い従事者糞便由来の8株(実際には11株分離されたが、うち3株は保存中に死滅したため本解析には含まれない)は計380,782検体から分離された株であるため、保菌率は高くない〔11/380,782検体(約0.003%)〕3)。しかし、未発表であるが、2021年に広島県の食品取り扱い従事者糞便検体から分離されたS.Oranienburg1株も菌血症集積事例由来株と同じ系統に分類されたことから、現在も感染源が維持されている可能性が示唆された。
非チフス性サルモネラ属菌の菌血症は、感染症発生動向調査の対象ではなく、食中毒が疑われなければ保健所への届出は通常行われない。そのため、本クローンによる菌血症例が2022年の1例のみであるとは言い切れない。本クローンの感染源を同定し、感染リスクを排除するためには、S.Oranienburgによる感染症について、食中毒事例だけでなく、菌血症事例も注視し、食品取り扱い従事者糞便の検査などとあわせて多面的なモニタリングを継続する必要がある。
参考文献
- 畠中成己ら, IASR 40: 91-92, 2019
- Ooka T, et al., Open Forum Infect Dis 10: ofac695, 2022
- 馬場洋一ら, 日本食品微生物学会雑誌 39: 99-107, 2022
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科微生物学分野
大岡唯祐 藺牟田直子 西 順一郎
鹿児島県立大島病院
森田喜紀 今村真理 重久朋史 上野伸広
名瀬保健所
相星壮吾
鹿児島県環境保健センター
山本真実 新川奈緒美
鹿児島大学病院感染制御部
川村英樹
東京顕微鏡院
馬場洋一 柿澤広美 伊藤 武
九州大学大学院医学研究院細菌学分野
後藤恭宏 林 哲也