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サポウイルスGII.8と腸管病原性大腸菌が原因と推定された集団感染事例―長野県

公開日:2023年7月27日

(IASR Vol.44 p111-112:2023年7月号

はじめに

2022年7月に、長野県内で行われたスポーツ大会に参加した1グループ内で集団胃腸炎が発生し、サポウイルス(SaV)と腸管病原性大腸菌(EPEC)が病因物質と推定された。本事例は食中毒と断定されなかったが、これらを原因とする食中毒の発生割合は低く1)、両者が病因物質と推定された事例は稀であると考える。さらに、本事例で検出されたSaVの遺伝子型はG2.8であり、渉猟したところ、国内でこの遺伝子型による集団感染事例の報告はなかった。本事例の概要について、疫学情報と検査結果を中心に報告する。

事例の探知および症例定義

2022年8月1日、スポーツ大会の主催者から長野県上田保健所に一報が入り、症例定義を「スポーツ大会に参加するため、7月28~31日まで県内に滞在していた1グループの選手および関係者のうち、胃腸炎症状を呈した者」とし、食中毒疑い調査を開始した。

疫学調査等の結果

発症者は当該グループの選手および関係者85名中36名で、発症率は42.4%であった。

日時別発症状況は、7月30日午後~31日午前にかけて一峰性のピークを示した(図1)。流行曲線に検査結果(後述)の要素を含めると、SaVのみ陽性であった者、EPECのみ陽性であった者、SaVおよびEPEC陽性であった者の大部分がこのピーク内で発症していた。

発症者らの主な症状は、下痢(80.6%)、腹痛(69.4%)、吐き気(38.9%)、嘔吐(27.8%)であった。検査結果別に症状をみると、EPECのみ陽性であった11名に嘔吐の症状を呈した者は認められなかった。

性別・チーム別の発症状況を比較したところ、男性の発症率が57.4%、女性の発症率が4.2%であった。女性と比較して、男性の発症リスクは約14倍(リスク比:13.8、95%信頼区間:2.0-95.0)であった。男性と女性の行動の違いとして、男性チームおよびそのスタッフは旅館Xの本館、女性チームおよびそのスタッフは別館に宿泊し、各々で調理された食事を喫食していた。その他、試合が行われたグラウンドや移動時のバスの車両に男性と女性で違いが認められた。

旅館Xの衛生管理状況は良好であり、胃腸炎症状を呈していた調理従事者はいなかった。関係者への聞き取りから、7月30日夜に本館内で嘔吐や吐物の目撃情報があった。また、調理従事者が使用するトイレは客と兼用であり、発症者も発症時にそのトイレを使用していた。なお、旅館Xを同時期に利用していた別の複数グループに発症者は認められなかった。

検査結果

発症者便30検体のうち、17検体からSaV遺伝子またはEPECもしくはその両方が検出された。その他に、原因と疑われるウイルスや食中毒起因菌は検出されなかった。また、調理従事者便12検体のうち、2検体からSaV遺伝子が検出された。検食、厨房等のふきとりからは、SaVおよびEPECは検出されなかった(SaVの検査に供した検食およびふきとりは、ノロウイルスの方法に準じた超遠心法で処理した)。

さらに、検出されたSaVについて、発症者由来6株および調理従事者由来1株のVP1領域の部分配列(301nt)近隣結合法(NJ法)に基づく系統樹解析を行ったところ、すべてSaV G2.8に分類された(図2)。調理従事者および発症者に由来する5株の配列は100%一致したが、発症者に由来する2株は、他と比較して1または4塩基の違いであった。

考察

本事例は、SaVとEPECの潜伏期間(SaV:0.9~3.3日2)、EPEC:12~72時間3))が重なること、男性の発症に様々な要因が交絡していることなどから、曝露点の推定や原因究明には至らなかった。しかし、食中毒として発生割合の低い病原体や複数の病原体が原因と疑われる事案の調査にあたり、疫学情報と検査結果をあわせて十分検討することが重要であると再認識された。課題として、当県では、ノロウイルス以外のウイルスや大腸菌の病原因子関連遺伝子の検出は追加検査項目であり、やや迅速性に欠けていることがあげられる。今回、当該グループが帰路についた後の調査であったため、発症者の所在地が広域の自治体にわたり、一部の自治体の検査でSaV陽性が判明し、SaVの追加検査(他自治体への追加検査依頼含む)を実施した経過がある。今後、multiplex PCRによるスクリーニングや次世代シーケンサーによる網羅的解析なども視野に検査体制を整備していきたい。

また、2021/22シーズン(2021年第36週~2022年第35週)は、全国的にもSaVが検出された割合が高い傾向にあり4)、本県でもSaVを原因とする集団胃腸炎事例が2件(本事例含む)発生している。今後も流行の推移や遺伝子型の動向に注視したい。

謝辞:SaVの遺伝子解析を実施していただいた青森県、岩手県、宮城県、仙台市をはじめ、調査にご協力いただいた自治体の関係各位、SaVに関するご助言をいただいた国立感染症研究所の岡 智一郎先生に深謝いたします。

参考文献

  1. 厚生労働省, 食中毒統計資料:年次別食中毒発生状況
  2. Lee RM, et al., BMC Infect Dis 13: 446, 2013
  3. 寺嶋 淳, IDWR 50: 14-16, 2000
  4. IASR, 週別ノロ・サポ・ロタウイルス検出報告数

長野県環境保全研究所
柳澤宏太 西澤佳奈子注: 桜井麻衣子 長川絢子 加茂奈緒子
竹内道子 小野諭子 和田由美

長野県上田保健福祉事務所(上田保健所)
塚田滉巳 野本志織注: 石黒奈央 注: 松沢寿次 注: 細江昭史 注: 岩松秀雄 注:

注:2023年3月末時点の所属

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