COVID-19パンデミック発生後の季節性インフルエンザ発生動向の特徴―富山県
公開日:2023年4月21日
(IASR Vol.44 p64-66: 2023年4月号)
はじめに
季節性インフルエンザ(以下、インフルエンザ)は例年冬季に全年齢を通じて流行する傾向であった。しかし、2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行以降、2020/21、2021/22シーズンは国内におけるインフルエンザの流行は認められなかった。一方、2022/23シーズンにおいては、3シーズンぶりに全国的なインフルエンザの流行が認められた。本稿では、富山県における2022/23シーズンのインフルエンザ報告例の年齢層を含む発生動向の特徴をCOVID-19流行前のシーズンと比較し、報告する。
方法
2016年第36週~2023年第8週の期間、感染症発生動向調査事業により富山県内のインフルエンザ定点医療機関(内科19定点、小児科29定点)およびインフルエンザ入院サーベイランス(入院サーベイランス)基幹定点医療機関(5定点)から報告された患者報告数をシーズン別、年齢群別に集計、比較した。なお、2016/17~2018/19シーズンを「COVID-19流行前」と定義した。
結果
インフルエンザ定点による年齢群別患者報告数の推移を図に示す。全年齢(図A)では、COVID-19流行前のピーク時には1週間当たり1,484-2,351人の報告があった。2022/23シーズンは第1週以降報告数が増加し、直近の第8週に1,433人の報告があった。年齢群別にみると、15歳未満(図B)では、2022/23シーズンの第8週に1,219人と、COVID-19流行前の969-1,582人と同程度の患者報告数であった。一方、15~59歳では、COVID-19流行前の1/3-1/2と少なく、60歳以上(図D)においてはCOVID-19流行前にみられた明らかな報告数の増加が認められなかった。
シーズン、年齢群別にインフルエンザ定点および入院サーベイランス患者報告数を表に示す。インフルエンザ定点において、COVID-19流行前は平均13,725人の患者が報告された。COVID-19の流行があった2019/20シーズンの報告数は流行前の66%に減少し、2020/21、2021/22シーズンには患者報告がほとんどなかった。一方、2022/23シーズンは第8週時点で6,768人であり、COVID-19流行前の49%の報告数であった。年齢分布をみると、COVID-19流行前は15歳未満が65%、60歳以上が8%であった。一方、2022/23シーズンは15歳未満が82%と大部分を占め、60歳以上がわずか1%であった。入院サーベイランスにおいては、COVID-19流行前は平均341人であったが、2022/23シーズンは第8週時点で34人であり、COVID-19流行前の10%の報告数であった。年齢群別にみると、60歳以上はCOVID-19流行前に平均264人であったが、2022/23シーズンは第8週時点で15人であり、インフルエンザ定点と同様、COVID-19流行前と比較して大幅に減少した。一方、60歳以上の定点報告数に対する入院サーベイランス患者報告数の比は、COVID-19流行前は0.23(264/1,158)、COVID-19発生後の2022/23シーズンは0.25(15/61)であり、両者は同等であった。
考察
富山県における2022/23シーズンのインフルエンザ定点サーベイランスでは、15歳未満の小児はCOVID-19流行前と同程度の流行状況であった。一方、成人、特に60歳以上においては、COVID-19流行前と比較し、患者報告数が大幅に減少した。受診行動の影響を受けにくい重症例が対象である入院サーベイランスにおいても60歳以上の患者報告数は同様に減少し、60歳以上の定点報告数に対する入院サーベイランス患者報告数の比はCOVID-19流行前と同等であった。この所見から、60歳以上の患者報告数の減少はCOVID-19流行にともなう受診控えによるバイアスではないと考えられ、成人でのヒト-ヒト感染伝播は限定的であることが示唆された。一方、小児においてはインフルエンザにともなう学級閉鎖数も増加しており1)、学校等の集団生活の場で感染が拡大したと考える。
諸外国においても、COVID-19流行後、2020/21シーズンには抑制されたインフルエンザの流行が、2021/22または2022/23シーズンに再び認められている。米国の入院サーベイランスにおいて、2021/22シーズンに二峰性の小さな流行が認められ、2022/23シーズンには例年よりも早い11月をピークとしたCOVID-19流行前と同程度の一峰性の流行が認められた2)。COVID-19流行前と比較し、5~17歳の報告数が増加した一方、富山県と同様の成人での大幅な報告数の減少は認められていない。また、米国テネシー州においても富山県と同様に、小児のインフルエンザ関連入院率が高く、18歳未満の家庭内二次感染のオッズ比は18歳以上と比較し2.5倍高いことが報告されている3)。
わが国の2021年度の感染症流行予測調査事業では、COVID-19流行前と比較して、全年齢層でA(H1N1)pdm09亜型、A(H3N2)亜型、B型ビクトリア系統のHI抗体保有割合が低い傾向が認められた4)。COVID-19流行後、インフルエンザの流行が認められず、自然罹患による抗体獲得がほとんどなかったことが示唆された。また、富山市におけるインフルエンザ定期接種率は、COVID-19流行前の2016~2018年度は59.8-62.2%であったのに対し5)、2021年度は65.2%と、大きな差はなかった6)。2022年度の接種率は公表前だが、同程度であったことが予想される。このような状況下、2022/23シーズンに成人、特に60歳以上のインフルエンザの感染が抑制された要因として、成人世代におけるCOVID-19流行にともなう手指衛生やマスク着用、対人距離の確保、などのnon-pharmaceutical intervention(NPI)が影響した可能性が考えられる。今後、NPIを含む感染対策が緩和されると、これまで抑制されていた成人の症例の増加が懸念される。引き続き発生動向を注視する必要がある。
参考文献
- 富山県感染症情報センター, インフルエンザ様疾患による学級閉鎖などの状況
https://www.pref.toyama.jp/branches/1279/kansen/inful/influ2223/influ2223.htm#gakkyuheisa(外部サイトにリンクします) - CDC, Laboratory-Confirmed Influenza Hospitalizations
https://gis.cdc.gov/grasp/fluview/FluHospChars.html(外部サイトにリンクします) - Thomas CM, et al., MMWR 72(3): 49-54, 2023
- 林 愛ら, IASR 43: 252-255, 2022
- 富山市保健所事業概要令和元(2019)年度版〔平成30(2018)年度実績〕
https://www.city.toyama.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/003/897/r1.pdf(外部サイトにリンクします) - 富山市保健所事業概要令和4(2022)年度版〔令和3(2021)年度実績〕
https://www.city.toyama.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/003/897/r4jigyougaiyou.pdf(外部サイトにリンクします)
富山県衛生研究所
湊山亜未 田村恒介 新保孝治 大石和徳
富山県厚生部健康対策室
宮島重憲 守田万寿夫
協力機関・施設
新川厚生センター(本所 魚津支所)
高岡厚生センター(本所 氷見支所 射水支所)
砺波厚生センター(本所 小矢部支所)
中部厚生センター
富山市保健所