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地域的なバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)感染症集積への対応

公開日:2023年4月21日

(IASR Vol.44 p59-60:2023年4月号

腸球菌属は腸管や環境に常在する日和見病原体であり、セフェム系薬やカルバペネム系薬、アミノグリコシド系薬には自然耐性を示すため、腸球菌感染症の治療においてバンコマイシンは重要な抗菌薬である。それに耐性を示すバンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant enterococci:VRE)感染症は、難治で重症化のリスクが増す感染症であり、1999(平成11)年4月から感染症法に基づく全数把握対象疾患となった1)。本稿では、2018年、Z県Y市保健所管内の複数の医療機関でVRE感染症集積事例が発生した際の対応を報告する。

2018年1月および2月にY市内A医療機関からVRE感染症症例(以下、症例)が1例ずつ報告された。Y市保健所(以下、保健所)は、A医療機関に対し、入院患者を対象とした便検体によるVRE保菌者スクリーニング検査の実施を促し、新たに4名のVRE保菌者(以下、保菌者)が判明した。保健所は同年3月に、市内医療機関に対し、市内の1医療機関でVRE陽性例(症例および保菌者)の集積があり、地域への蔓延が危惧されるため、院内感染防止対策を徹底する旨、注意喚起の通知を発出する等の対応を実施した。また、A医療機関からの届出症例にY市内のB医療機関に入院歴があった旨、保健所がB医療機関と直接情報を共有した。

2018年5月、B医療機関から2018年市内3例目となる症例が届出され、同月のB医療機関でのスクリーニング検査にて、新たに4名の保菌者が判明した。2018年6月に実施されたZ県地方衛生研究所でのパルスフィールドゲル電気泳動法による菌株解析の結果、A、Bの両医療機関から提出された菌株のバンドパターンは、すべて類似または一致し、同一菌株由来の可能性が高かった。保健所は市内医療機関に対し再度注意喚起を通知し、また、2018年9月には院内感染対策研修会を実施した。

2018年10月および12月、新たに市内C医療機関より症例の届出があった。B、C医療機関では入院患者のスクリーニング検査を幅広く実施し、2019年2月時点のVRE陽性例はB医療機関で70名、C医療機関で60名を超える数となった。C医療機関ではVRE対策のため、一定期間、救急患者の受け入れを一部制限するなど、地域の急性期医療体制にも影響が及んだ。また、一部の医療機関や高齢者施設でVRE陽性例の受け入れの拒否が発生し、転院に支障が出ることがあった。保健所は受け入れ拒否事象の解決に向けてアンケート調査を実施、医療機関により対応は分かれ個別調整が必要ではあったが、院内感染対策の研修実施といった条件を満たせば受け入れは可能、という回答が多くの医療機関から得られた。

Z県は2019年2月、VRE対策会議を開催し、県内の関係機関とVRE発生状況を共有した。同月、保健所は5日間にわたり、VRE陽性例が確認されているA、B、C医療機関以外のY市内5医療機関の新規入院患者を対象にスクリーニング検査を実施した。期間中に得られた107名の検体はいずれもVRE陰性であった。以上から、市内のVRE陽性例は一部の医療機関に限定し、市内に蔓延している状態ではないと考えられた。また、保健所は、国立感染症研究所とともにVRE陽性例が確認されている医療機関の現地調査を実施した。これら一連の調査より、B医療機関から転院した患者が転院先でVRE陽性と判明し()、その一部の医療機関でVRE陽性例が集積していたことが明らかとなった。

多くの陽性例が集積したB、Cの2医療機関では、標準予防策・接触予防策の徹底、スクリーニング検査によるVRE保菌者の把握、等の対策が実施された。また、保健所による管内医療機関への注意喚起や研修会の実施等により、2019年7月時点で新規VRE陽性例は減少し、収束に向かった。

保健所はA医療機関の症例にB医療機関入院歴があったことを2018年2月に把握し、同年6月には、A医療機関とB医療機関で検出されているVRE同一株に由来することを把握していた。その時点で保健所からB医療機関へ「便検体によるスクリーニング検査によるVRE保菌者の把握と保健所への報告」や「転院時に相手先施設へVRE陽性例であった旨伝えること」の提案があれば、より早い対応につながった可能性があったと考えられた。VRE集積事例発生時では、定期的な監視培養(積極的保菌者調査)の実施による全体像の把握および迅速で強力な介入の実施が早期のコントロールに重要であることが指摘されている2,3)

今後、同様の事例が発生することを防ぐため、保健所は、平時からVRE検出状況の市内医療機関との共有、集積の早期探知、状況把握が可能な体制構築、感染管理支援が必要な病院への感染管理の専門家と連携したサポート等、地域医療体制の構築・維持、VRE陽性例間の分子疫学的リンクを把握するための菌株解析の調整、必要に応じVRE陽性歴のある患者の受け入れ先の調整支援等、地域感染症対策のハブ機能を備えることが求められると考えられた。また国は, 自治体においてそのような活動が円滑に行えるような法令の整理を含む環境整備を支援する必要がある。

参考文献

  1. IASR 42: 155-156, 2021
  2. Huang SS, et al., J Infect Dis 195: 339-346, 2007
  3. Fournier S, et al., Eurosurveillance 17: 1-7, 2012

八戸市保健所

国立感染症研究所
実地疫学研究センター
島田智恵

FETP20期
柿本健作 藤倉裕之

薬剤耐性研究センター
鈴木里和 久恒順三 菅井基行

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