インフルエンザウイルス流行株 抗原性解析と遺伝子系統樹 2020年11月30日
公開日:2020年11月30日

国立感染症研究所
インフルエンザウイルス研究センター 第1室
全国地方衛生研究所
流行株抗原性解析
国立感染症研究所(感染研)では、国内で流行するインフルエンザウイルスの性状を把握し、インフルエンザ対策およびワクチン株選定に役立てるため、全国地方衛生研究所(地研)で分離・同定されたウイルス株総数の約10%を無作為に抽出し、解析を行っている。
流行株とワクチン株の抗原性を比較する目的で、フェレット感染血清を用いた赤血球凝集阻止(HI)試験または中和試験による抗原性解析を実施した。
現行の季節性インフルエンザワクチンは、ワクチン原株として選ばれたウイルスを鶏卵で継代して製造している。そのため、継代の間に、ウイルスが鶏卵に馴化することでアミノ酸置換が起こり、抗原性が変化(抗原変異)することがある。その結果、流行株とワクチン製造株の抗原性が一致しなくなる場合があり、世界的に問題となっている。
2019/2020シーズン抗原性解析結果(データ更新日:2020年11月30日)
A(H1N1)pdm09(図1)(JPG:116KB)
2019年9月以降に分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析した多くの株が、2019/20シーズンのWHOのワクチン推奨株であるA/ブリスベン/02/2018(細胞分離株および国内のワクチン製造株)に対するフェレット感染血清とよく反応した(図1)。また、2020/21シーズンのワクチン推奨株[A/ハワイ/70/2019(細胞培養ワクチン)およびA/広東-茂南/SWL1536/2019(卵培養ワクチン)]の類似株A/沖縄/93/2019(細胞および卵分離株)に対するフェレット感染血清ともよく反応した。8倍以上の低下を示した株はHAの156番目に変異(N156K)を有しており、2020年1月以降、検出される割合が多かった。
A(H3N2)(図2)(JPG:121KB)
2022年9月以降に分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析した多くの株において、2022/23シーズンのWHOのワクチン推奨株である細胞分離A/ダーウィン/6/2021株に対するフェレット感染血清と良く反応した。一方、卵分離A/ダーウィン/9/2021株に対するフェレット感染血清との反応性は若干低下する株が認められた。これはワクチン推奨株の卵での分離・増殖による卵馴化の変異の影響と思われる。
B(ビクトリア系統)(図3)(JPG:114KB)
2022年9月以降に分離された国内および近隣諸国の流行株について抗原性解析を実施したところ、解析したすべての流行株が、2022/23シーズンのWHOのワクチン推奨株であるB/オーストリア/1359417/2021(細胞および卵分離株)に対するフェレット感染血清とよく反応した。
B(山形系統)
2020年3月以降、自然界で流行している山形系統の株は検出されておらず、解析されていない。
遺伝子系統樹
国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第一室が解析した季節性インフルエンザウイルスの遺伝子配列を用いて、HA遺伝子系統樹を作成した。国内外で流行しているウイルスと比較するため、各地方衛生研究所にて分離された株の遺伝子配列だけではなく、海外で分離された株の遺伝子配列も解析に加えている。なお、海外の研究機関で解析された遺伝子配列はインフルエンザウイルス遺伝子データベースGISAID(Global Initiative on Sharing All Influenza Data:http://platform.gisaid.org/epi3/frontend)(外部サイトにリンクします)から入手している。
2019/2020シーズン系統樹(データ更新日:2020年11月30日)
A(H1N1)pdm09(図1)(JPG:303KB)
近年、HA遺伝子系統樹ではクレード6B.1(共通アミノ酸置換:S84N, S162N, I216T)内に6B.1A(S74R, I164T, I295V)が派生し、さらにS183Pを含む7つの群[183P-1:N451T/R45G, P282A, I298V,(代表株:A/Brisbane/02/2018)、183P-2:L233I、183P-3:T120A、183P-4:N129D+A141E、183P-5:N260D、183P-6:T120A、183P-7:K302T+I404M]が形成された。2019年9月以降の解析株は183P-5内の183P-5A(N129D, T185I, N260D;99%)または183P-5B(K130N, K160M, T216K, E235D, H296N, V520A;1%)に属した。また、183P-5A群内にはD187A, Q189Eを持つ群(代表株:A/Guangdong-Maonan/SWL1536/2019;92.3%)とN156K, K130N, L161I, V250A, E506Dを持つ群(6.7%)が形成された。N156Kアミノ酸置換は抗原性の変異が指摘されており、今後の流行状況を注視する必要がある。なお、NAタンパク質にH275Y置換を有するオセルタミビル耐性株は散発的に検出されているが、耐性株の流行は確認されていない。
A(H3N2)(図2)(JPG:327KB)
近年の流行株は、HA遺伝子系統樹上のクレード3C.2a(L3I+N144S+F159Y+K160T+Q311H+D489N)あるいは3C.3aに属している。2019年9月以降の国内株は、そのほとんどが3C.2a内のサブクレード3C.2a1(N171K+I406V+G484E、代表株:A/Singapore/INFIMH-16-0019/2016)に派生した3C.2a1b内の3C.2a1b+135K群(3C.2a1b+E62G+T135K+R142G, 69%)または3C.2a1b+131K群(E62G+T131K+V529I, 28.2%)に属した。さらに、3C.2a1b+131K群には3C.2a1b+131K+197R群(V347M+S219F+Q197R+E484G, 12.7%)および3C.2a1b+131K+83E群(K83E+Y94N+I522M, 9.9%)が、3C.2a1b+135K群には3C.2a1b+135K+137F群(T128A+S137F+A138F+F193S, 54.9%、代表株:A/Hong Kong/2671/2019)および3C.2a1b+135K+198P群(T128A+A138F+F193S+G186D+D190N+S198P, 14.1%)が形成された。なお、3C.2aとは抗原性が異なる3C.3a(代表株:A/Kansas/14/2017)に属するウイルスは2例(2.8%)のみ検出された。
B(ビクトリア系統)(図3)(JPG:245KB)
近年の流行株はHA遺伝子系統樹上のクレード1A(共通アミノ酸置換N75L, N165K, S172P、代表株:B/Brisbane/60/2008)内の、I117V+N129D+V146Iを有する集団に属していた。クレード1A内には、サブクレード1A.1[共通アミノ酸置換I180V+R498K+2アミノ酸欠損(162, 163番目のアミノ酸)、代表株:B/Maryland/15/2016, B/Colorado/06/2017]、サブクレード1A.2[共通アミノ酸置換I180T+K209N+3アミノ酸欠損(162~164番目のアミノ酸)]および、サブクレード1A.3[K136E+3アミノ酸欠損(162~164番目のアミノ酸)、代表株:B/Washington/02/2019, B/Victoria/705/2018]が形成されている。2019年9月以降の解析株のほとんど(99%)は1A.3に属し、1A.1に属するウイルスは1株のみ(1%)であった。一方、クレード1A.2に属するウイルスは検出されなかった。
B(山形系統)(図4)(JPG:164KB)
遺伝子解析を実施したのは国内2株のみであった。HA遺伝子系統樹上のクレード3(共通アミノ酸置換S150I,N165Y,N202S,S229D)内でB/Phuket/3073/2013株を代表とする群(共通アミノ酸置換N116K,K298E,E312K)に属し、うち1株はL172Q+M251V群に属した。